ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

悪いのは、いつも、外国人・・・大統領の公約で増えた手当でさえも。

2011-10-30 21:00:31 | 社会
昔、といっても25年ほど前ですから、そう遠い話ではないのですが、「シルバー・コロンビア」計画というプロジェクトというか、一種の社会現象がありました。覚えておいででしょうか。名前からすると、宇宙開発のような響きもありますが、シルバー層の海外移住、つまり老後は海外で、というブームでした。

太陽に恵まれたスペインのコスタ・デル・ソル(太陽海岸)が良いとか、オーストラリアのゴールド・コーストが良い、あるいは、やはりアメリカのカリフォルニアか、フロリダが良いとか、同じアメリカでも、退職者の街として建設されたフェニックス郊外の「サン・シティ」が良いのではないかとか、いろいろな話題が提供されました。

もちろん、そんな遠くはいやだという人向けに、アジアのリゾート地も候補になりました。バリ島、プーケット島など、常夏で、ゴルフができて、お米が食べられるところが良い、という意見もありました。

しかし、この計画もバブルの崩壊とともに、雲散霧消・・・霞が関の話題になることはなくなったようです。しかし、ブームとはいかないものの、老後を海外でということを実行に移している人も、増えて来ているようです。最近多いのは、マレーシア。政治が安定し、ゴルフが十分に楽しめ、日本からもそれほど遠くない。外国人用のマンションも整備され、治安も特に問題ない。日本の食材も、贅沢を言わなければ、それなりに手に入る。ということで、クアラルンプールなどで老後を過ごす人が増えているようです。

老後を海外で、という人は、先立つ物の準備をしっかりした上での計画でしょうから、移住した先での社会保障は期待しなくてもよいことと思いますが、それでも、行った先の国の社会保障制度を知っていても損はない。少なからず気になるところではありますね。

老後をフランスで、という方は、多くはないと思いますが、フランスでは高齢者連帯手当(l’Allocation de solidarité aux personnes âgées:ASPA)という、どの老齢保険制度にも加入していない65歳以上の高齢者(ただし、フランス国籍保持者か10年の滞在許可証所持者、またはフランス国籍を持つ人の親)を対象とした非拠出制年金があります。老齢最低保障手当(le minimum vieillesse)などいくつかの手当を2006年6月から一本化した制度です。

しかし、この手当に対し、フランスになんら貢献しなかった外国人の高齢者に連帯手当など支払うことはない、外国人高齢者をこの手当の対象から排除すべきだ、という声が、与党・UMP右派から上がり始めています。経済危機に乗じて外国人を排斥しようということなのか、社会不安を外国人の責任に転嫁したいからなのか。実態とその背景や、いかに・・・25日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

UMP(国民運動連合)内の議員グループ“la Droite populaire”(2010年6月に42人の下院議員によって設立された政策グループで、主要テーマはフランスのアイデンティティ、治安、移民。このテーマから分かるように、UMP右派。メンバーには、運輸担当大臣のTierry Marianiなどがいます)は、また得意の話題を見つけたようだ。老齢最低保障手当がそれだ。“la Droite populaire”の共同設立者であるフィリップ・ムニエ(Philippe Meunier)は「高齢者連帯手当」(ASPA)の支給対象者をフランス人およびEU加盟国出身者、フランスのために戦ったフランス在住外国人に限定しようと、「社会保障財源法案」(le projet de loi de financement de la sécurité sociale:PLFSS)の修正を67人の下院議員とともに提案した。2012年の社会保障財源法案に関する審議は下院で25日午後に始まることになっている。

「この修正の目的は、フランス国内において働いたことも社会保障の負担金を支払ったこともないEU外出身の外国人が老齢最低保障手当の恩恵に浴しているという不公平に終止符を打ち、公平さを再びもたらすことだ」と、ムニエ議員はコミュニケの中で語っている。

老齢最低保障手当の支給額は、65歳以上の単身世帯、あるいはカップルの内65歳以上がどちらか一人である世帯には月額742.27ユーロ(約7万9,500円)、年間合計8,907.34ユーロ(約95万3,000円)となっている。カップル(婚姻関係、内縁関係、PACSを結んだ関係)の二人共が65歳以上である場合は、月額1,181.77ユーロ(約12万6,500円)、年間では14,181.30ユーロ(約151万7,500円)が支給されている。

この手当は、65歳以上で、年金を受け取れるだけの負担金を支払わなかった人を対象としている。修正案提出の背景として、ムニエ議員は、手当の受給者70,930人の内22,803人もがEU外出身の外国人だということを指摘している。

移民の大部分は生産年齢の途中でフランスへやって来るため、年金を受給するために必要な負担金支払い最低期間を満たすことは難しい。従って、ムニエ議員の指摘した数字は特に驚くべきものではない。

高齢者連帯手当(ASPA)の支払総額は6億1,200万ユーロ(約654億8,500万円)になっており、ムニエ議員によれば、ここ5年で20%増加したそうだ。しかし、この増加はEU外出身の移民増加とは何ら関係がない。社会保障の会計検査委員会が実際、9月に公表した報告書の中で、ASPAの受給者数は2009年、2010年ともに増加しておらず、2011年、2012年も安定的に推移すると述べている。

支出が増えたのは、5年間での受給額25%引き上げが理由だ。それは、サルコジ大統領の選挙公約だった! ムニエ議員は、修正案が可決されれば、2億ユーロ(約215億円)以上の財政削減になるだろうと語っている。

・・・ということで、高齢者連帯手当の支給総額が増えているのを理由に、支給対象者から外国人を排除しようという与党・UMP右派の提案ですが、支給総額が増えているのは、受給者数が増えているのではなく、支給額を増やしているから。しかも、その支給額増は、サルコジ大統領の選挙公約だった!!

支給額の増加という数字は、とってつけたような理由でしかなく、本当の目的は外国人への社会保障の削減、ひいては外国人の排斥なのでしょうね。なにしろ、“La Droite populaire”のテーマが、「フランスのアイデンティティ、治安、移民」ですから、移民排斥を狙っているのは明らかなのではないでしょうか。

国民の不満が高まってくると、国民の関心を外国へ向けようとする為政者がいつの世にもいます。その第一歩は、国内に住む外国人へ向けられます。本来なら国民の不満を解消することが政治家の務めなのでしょうが、その難問から逃げて、国民の関心を外に向けるという安易は方法を取ろうとする政治家が出てきます。外国人排斥、外国企業攻撃、外国への侵略・・・すべては外国が悪い!

はたして、そうなのでしょうか。国内の課題が解決されない所に、国民の不満の根源があることが多いのではないでしょうか。外国や外国人を言い逃れに使うことは、もういい加減に止めたいものです。同じ悲劇を繰り返しているのでは、科学技術を除いて、人類は進化していないことになってしまいます。

「人間」は、本当に進歩しているのでしょうか・・・「進歩」が良いとは限らない、という意見もありますが・・・