ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

孟母三遷・・・フランスの母は、パリへ、ヴェルサイユへ。

2011-10-25 21:34:45 | 社会
子どもは周囲の影響を受けやすいので、環境を選ぶことが大切だ、という意味で使われる「孟母三遷」。史実ではないと言われていますが、わが子の成長のためには転居も辞せず。日本でも、越境入学などが問題になりました。エリアによっては、今でも小学校への越境入学が絶えないようです。

しかし、もうひとつの諺があります・・・「鶏口となるも牛後となるなかれ」。『広辞苑』によれば、「小さな集団であってもその中で長となる方が、大きな集団の中でしりに付き従う者となるより良い」という意味。エリート校で最終グループにいるのと、一般校でトップグループにいるのと、どちらがよいのか。それでも、わが子の可能性に賭けたい、と思うのが親心。エリート校のトップになる可能性は誰にだってあるはずだ!

その通りなのですが、子どもにとっての最も身近な環境は家庭。家庭が学ぶ環境になければ、どこに引っ越しても、どんな学校に入っても・・・とは思うものの、なかなかそう客観的になれないのが、わが子の教育なのでしょうね。だから、難しい。

教育をめぐる、地域差、家庭の差。フランスでも顕著になっているそうです。将来のエリートは、どこに集まっているのでしょうか・・・12日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

未曾有な事態だ。2011年の入試で、エコール・ポリテクニック(Ecole polytechnique、理工科大学校:理工系の最難関、1794年にナポレオンによって設立され、愛称は“X”)に合格した400人の半数をわずかリセ2校の出身者が占めたのだ(入学定員は、フランス人400名、留学生100名です)。パリのルイ・ル・グラン高(Louis-le-Grand)とヴェルサイユのサント・ジュヌヴィエーヴ高(Sainte-Geneviève)がフランスで最も評価の高いグラン・ゼコールの半数を分かち合った。エリートの「パリへの集中」(la parisianisation)に拍車がかかっている。パリと近郊のヴェルサイユ(Versailles)、ソー(Sceaux)のリセ出身者の合格数は2003年には156名だったのが、2007年には185名に増え、ついに今年は240名になった。新記録だ。

フランスで最も評判の良いグラン・ゼコールだけが例外なのではない。かつてないほど、エリートはパリに集中している。“ENS”(Ecole normale supérieur、高等師範学校)や“HEC”(Ecole des hautes études commerciales、パリ経営大学院)でも同じように、新入生のかなりの部分がルイ・ル・グラン高、サント・ジュヌヴィエーヴ高、アンリ4世高(Henri IV)の出身者によって占められている。“ENA”(Ecole nationale d’administration、国立行政学院、フランス人の新入生は80~100名、留学生が30名ほど)では、ことし、あるリセ1校から6名もの合格者が出た。アンリ4世高だ。合格者の多かった他の4校もすべてパリの富裕層の多く住む地区のリセだ。『ル・モンド』が入手したデータによると、難関校への道はますます険しくなっており、パリのリセから合格を目指すことが必須になってきている。

リセではグラン・ゼコールを目指す準備学級(classes préparatoires)を設けているが、公立のルイ・ル・グラン高と私立のサント・ジュヌヴィエーヴ高の準備学級出身者が難関グラン・ゼコール合格者の多くを占めている。パリ5区にあるルイ・ル・グラン高(ソルボンヌ・パリIVのすぐ東側にあります)の準備学級からは今年、エコール・ポリテクニックに105人、高等師範学校に80人、“Centrale”(Ecole centrales des arts et manufactures Paris、エコール・サントラル)に60人、“Mines”(Ecole nationale superieure des mines de Paris、パリ国立高等鉱業学校)に142人が合格した。しかし、実際に入学するのは、高等師範学校で30人、エコール・サントラルに38人、パリ国立高等鉱業学校に15人・・・複数のグラン・ゼコールに合格したため辞退した生徒もいれば、どうしてもエコール・ポリテクニックに入りたくて、もう一年準備学級で勉強することを選んだ生徒もいるためだ。経営系のグラン・ゼコールを目指す準備学級(1クラス、45人)からは、パリ経営大学院に20名、“Essec”(Ecole supérieure des sciences économiques et commericiales、高等商業学校)に5名、“ESCP”(Ecole supérieure de commerce de Paris、パリ高等商業学校)に6名が合格した。

また、“Ginette”という愛称でよく知られているサント・ジュヌヴィエーヴ高からの合格者数も同じように、まさに脱帽ものだ。「最近の平均では、エコール・ポリテクニックに80人、高等師範学校に15人、エコール・サントラルに50~60人、パリ国立高等鉱業学校に20人ほどが合格している。わが高の目標は、一学年の半数以上がこれら4グラン・ゼコールに合格することだ。経営系を目指すクラスでは、70~90%の生徒がパリにある6グラン・ゼコールに合格すること、しかも、その半数がパリ経営大学院と高等商業学校に入ることだ」と、校長のジャン=ノエル・ダルニ(Jean-Noël Dargnies)は語っている。エコール・ポリテクニックに合格する生徒は、数年前にジャック・アタリ(Jacques Attali:『国家債務危機』などでお馴染みの経済学者・文筆家、エコール・ポリテクニック、パリ国立高等鉱業学校、パリ政治学院卒、ENAとグラン・ゼコール4校で学んでいます)が言ったように、エコール・ポリテクニックの学生の出身幼稚園は40校では収まらない(出身地は必ずしも特定の地域に限定されていない、ということですね)。しかし、リセに関しては、パリの一握りのリセから集中的に合格している。

グラン・ゼコール難関校の入試の前に、まずは評判のリセに、続いて、グラン・ゼコール合格者数の多い準備学級に入学することが大切だ。しかし、新入生選抜の実態は明らかになっていない。「フランスでは、不透明さが勝っている。従って、落第した生徒の父兄による誤った解釈が流布することになる」と、社会学者のマルコ・オベルティ(Marco Oberti)は語っている。

大学区として見た場合、パリ学区は平均的でしかないが、教育関係などの家庭の子どもが多いことから、数校のリセに優秀な生徒が集まっている。今年、バカロレアの成績優秀者の75人がパリのリセ出身で、郊外のリセ出身が51人、地方のリセ出身は36人に過ぎなかった。数学のトップ二人は、ルイ・ル・グラン高出身で、哲学のトップ三人は、コンドルセ(Condorcet)高とアンリ4世高出身だった。2010年の成績優秀者はもう少し地域バランスを保っており、パリのリセ出身者は57人、2009年には45人だった。

ストラスブール、ナント、ボルドー、トゥールーズにも非常に良い準備学級はある。各地域の中心都市には大きな準備クラスがあり、パリの準備学級に近いレベルで授業を行っているのだが、優秀な学生はパリの準備学級に転校して行ってしまう。グラン・ゼコール合格のチャンスをより大きなものにするためだ。「合格者数の多い準備学級の平均的学生でいる方が、平均的な準備学級の優秀な学生でいるより、難関校に合格しやすい」とCNRS(Centre national de la recherche scientifique:国立科学研究センター)の研究員、アニェス・ヴァン・ザンタン(Agnès Van Zanten)は述べている。

社会の入口は、十分に開いているとは言えない。グラン・ゼコールの学長たちはそのことを良く知っているのだが、グラン・ゼコールのレベルが下がることを恐れているのだ。しかし、平凡なリセと一部の優秀な準備学級の間に広がる格差を埋めるために、いくつかの措置が講じられてはいる。例えば、アンリ4世高の準備学級だ。恵まれない家庭出身の高校生に、準備学級に入るための準備を1年間手助けしている。その制度を利用してアンリ4世高の準備学級に入った生徒二人が、今年高等師範学校に合格した。

こうした試みの成果は、まだ限定的だ。機会均等(l’égalité des chances)に関する公式な討論にもかかわらず、フランスは相変わらずエリートへの登竜門、グラン・ゼコール難関校への入学者に裕福な家庭出身者が多くを占める状況を変えようとしていない。フランスのエリートとは・・・パリの5区か6区、あるいはヴェルサイユの学区に子どもを登録することのできる家庭のことだ。

・・・ということで、親が教育について関心を持ち、かつ精通していること。そして、学習レベルの高い学区に子どもを入学させること。それがエリートへの第一歩になる。

しかし、これでは、エリートの固定化ですね。例えば、サルトル。

J’ai commencé ma vie comme je la finirai sans doute : au milieu des livres. Dans le bureau de mon grand-père, il en a avait partout ; ...
(“Les Mots”)

こうしたエリートの家に生まれない限り、エリートの道を歩むのは、限りなく難しくなってしまう。そこで、肯定的差別(discrimination positive)が検討されることになります。しかし、アメリカの例をみると、英語ですからアファーマティブ・アクション(Affirmative action)となりますが、例えば、新入生の一定の割合を有色人種に優先的に割り当てる。しかし、成績が良くても落とされる白人学生からは、こうした優遇策は逆差別だという声が出てしまいます。

フランスでは、アンリ4世高に見られるように、名門の準備学級へ入るための準備を1年間手助けし、迎え入れているようです。その中から高等師範学校合格者が出たことは、テレビのニュースでも紹介されていました。後に続く生徒たちには、本当にうれしい、勇気づけられるニュースだったでしょうね。

鶏口となるも牛後となるなかれ、とか、どこに行っても、自分さえしっかりしていれば、それなりの成績は取れる、という意見もありますが、実際には、なかなか難しい。子どもは、家庭内だけでなく、学校という環境にも大きく左右されてしまう。やはり、孟母三遷、なのでしょうか・・・