ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

“Occuper l’Elysee”・・・オランド候補とオブリ第一書記、大統領選をいかに戦うか?

2011-10-17 21:23:08 | 政治
世界的な広がりを見せている“Occupy Wall Street”運動。AFPによれば、80カ国、951都市でデモ行進などが行われているそうです。ローマを除いては、小規模な衝突はあっても、大きな混乱とはなっていません。東京では200人ほどだったようですが、多くの国々では、それぞれ数千人から数万人が参加しているとか。

背景にあるのは、経済格差への抗議。我々は99%だ、というスローガンも見られます。人口の1%が多くの富を独占し、しかも様々な優遇措置を受けている。許せない! という気持ちが出発点だったのでしょうが、運動が広がるにつれ、さまざまなスローガンが加わっています。東京では、反原発の声が大きかったようです。

この運動の背景に、「親より貧しい世代」の不満を見て取る論評も出ています。世の中は、より豊かに、より便利に発展していたはずが、いつの間にか、右肩上がりから、右肩下がりへ。高等教育機関の授業料は高くなり、ローンで授業料を払ってやっと卒業しても、就職難。若者の失業率は、特に高くなっています。なんとか職を得ても、いつリストラされるか分からず、支払い続ける年金も、自分が受給年齢になった時、果たして支給されるのかどうか、全く不透明。親の世代にとって当たり前だったことが、当たり前でなくなっている・・・明るい将来を見出すことができない、閉塞感。

この閉塞感を打破し、少しはバラ色の将来を垣間見せてほしい、いや、少しずつでも実現していってほしい。そうした願いに答えるのが、「政治」のはず・・・こうした「空気」を読んだのか、たまたまだったのか、「若者」と「教育」を政策の柱にすると訴える政治家が、大統領選候補者に選出されました。フランソワ・オランド(François Hollande)・・・

大きな注目を集めていた社会党公認候補を選出する決選投票。その結果と今後の展開は・・・16日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

「大勝利をもたらしてくれた今日の投票に込めた人々の思いを、誇りとともに、しっかりと心に刻みつけておきたい。」このように、フランソワ・オランドは社会党予備選の決選投票の結果を、16日夜、若干の謙遜を交えて表現した。第1回投票での勢いにさらに弾みをつけたオランドは、(フランス時間16日夜10時過ぎの時点で)56.37%の支持を集めた(第1回投票では、39.17%)。一方、対立候補のマルティーヌ・オブリ(Martine Aubry)は第1回投票で示された傾向を覆すことができなかった。

社会党公認候補となったフランソワ・オランドは、ソルフェリーノ通り(Solférino)にある社会党本部で、まじめで意欲に満ちた演説を行った。「自分を待ち構えている務めに思いを馳せている。サルコジ政治に辟易してしまっているフランス国民と同じ目線に立つことが大切だ」と述べ、大統領選での左翼の勝利を約束するとともに、新たな務めは決して容易なものではないことを強調した。大統領選での基本政策は述べなかったが、フランスに新たな喜びをもたらすと述べている『フランスの夢』(le Rêve français:今年の夏に出版されたオランドの著書です)を引き合いに、「若者」(la jeunesse)と「教育」(l’éducation)に最優先で取り組むことを改めて強調した。

しかし、この幾分控え目なトーンは、選挙事務所に使っていた「ラテンアメリカ館」(la Maison de l’Amérique Latine)で支持者たちに謝辞を述べる際にはかなり薄れていた。より勝者らしく、「今日は私の人生において特別な日かと問われるが、それ以上だ。自分の存在にとって特別な日だ。そして我々すべてにとって特別な日であり、新たな挑戦を前に、希望に満ちあふれた瞬間だ」と語った。

オランドはまた、エコロジストたち(ヨーロッパ・エコロジー緑の党:Europe Ecologie – les Verts)に対し、ちょっとした皮肉を込めて言及している。「エコロジストたちは、我々の討論に加わりたかったようだが、同列に並ぶにはあまりに支持者が少なすぎる」と、マルティーヌ・オブリを支持したエコロジストたちを揶揄した。

270万から300万もの投票者を集めた予備選に自信を深めた社会党関係者は、これからは結束を固めることが大切だと異口同音に語っている。オランドは、「敗者はいない。結束し、大統領選へ向けて確かな歩みを進めようではないか」と述べた。

決選投票で激しい攻撃を行ったマルティーヌ・オブリも、敗北を潔く認め、遺恨を残してはいない。「フランソワ・オランドは今や、社会党、そして左翼の結束のシンボルだ。私を支持してくれた人々も、すでに我々の候補者の周りに団結している。私は、社会党の第一書記に就任以来、たった一つの目標しか持っていない。社会党から大統領を出すことだ。フランソワ・オランドが我々の候補者に決まったわけだが、予備選を通して彼はいっそう強い候補者となった。7カ月後、彼が大統領になるよう全精力を傾けるつもりだ」と語り、17日から党の第一書記に復帰することになっている。

決選投票を前に、オランド支持を表明したアルノー・モントゥブール(Arnaud Montebourg:予備選で3位)やセゴレーヌ・ロワイヤル(Ségolène Royal:予備選で4位)も同じ口調だ。そして、ローラン・ファビウス(Laurent Fabius:元首相でオブリ支持)からロワイヤル、オブリ、マヌエル・ヴァルス(Manuel Valls:予備選で5位、決選投票ではオランド支持)、モントゥブールまで、誰もが一致団結していることを示すかのように、党本部玄関前の階段で、みんなで記念写真に収まった。ニコラ・サルコジが候補者になるであろう政権与党に対する、社会党の選挙戦の始まりだ。

社会党の予備選に対し、与党・UMP(国民運動連合)は、投票によって社会党にもたらされたと言われる利点を否定し、またオブリがオランドを批判した「弱腰左翼」(la gauche molle)を引用しつつ社会党内部の分裂を指摘している。社会党は22日に正式にオランドを公認候補として認定するが、一方、UMPは18日、社会党の政策を分析する会議を開くことになっている。

フランソワ・オランドはまた、選対本部を作らなければならないが、その陣容によっては党内に軋轢が生じることもありえる。オランド支持者のジュリアン・ドレイ(Julien Dray:下院議員及びイル・ド・フランス地域圏議会議員)は、日曜日、テレビ局・I-Télé(Canal+グループ)で、「候補者と党執行部の間にしっかりとした意思の疎通が必要だ。対立する二派閥を作るべきでない。意思の疎通が効率的に行えるようなチームを作るべきであり、そのことにより執行部内にバランスを再びもたらすことができる」と語っている。

・・・ということで、来年の大統領選挙、主要な構図は、ニコラ・サルコジVSフランソワ・オランドになるようです。世論調査では、現時点ではオランドが優勢で、ミッテラン引退後、17年ぶりに社会党政権が誕生しそうですが、まだ、4月22日の第1回投票まで、半年以上あります。決選投票はその先、5月6日です。それまでに、何が起きるか、分かりませんが、激しい選挙戦が行われるのだけは、確かです。

社会党(PS)と急進左翼党(PRG)の統一公認候補となったフランソワ・オランドですが、“RFI”(Radio France internationale)の記事によれば、主要政策として次のようなことを挙げています。
・教育の現場に6万人の雇用創設
・財政改革
・快適な労働環境づくり
・現政権とは異なる治安対策
・エネルギー政策の転換
・ヨーロッパのエンジンである仏独関係の強化

そして、『ル・モンド』の記事も言っているように、特に「若者」対策に力を入れるそうです。次のように語っています。
“Je continuerais à brandir pour offrir à la jeunesse et à la génération qui vient, une vie meilleure que la nôtre.”
(大統領に当選した暁には、若者たち、そしてさらにその後に続く世代が、私たちの世代よりも良い人生が送れるよう、全力を傾け続けるつもりだ)

もし、フランソワ・オランドが大統領選に勝利し、流行語風に言えば“Occuper l’Elysée”し(表題、Elyséeとアクセント記号を付けると、文字化けしてしまうため、省略しました)、なおかつ、有言実行で未来の世代が今日より良い人生を送れるようになれば、“Occupy Wall Street”のような運動は、少なくともフランスでは、二度と起こらないことでしょう。他国のこととはいえ、ぜひそうなってほしいと思いますが、はたして、そうなるかどうか・・・政治に対して、政治家に対して、疑い深い眼差しを向ける人が増えているのは、国の違いを問わないような気がします。