平和エッセイ

スピリチュアルな視点から平和について考える

プリオン説は本当か

2006年05月08日 | 食の安全
狂牛病(BSE)の原因は異常プリオンである、というのが今日の一般的な学説です。しかし、これは本当に正しいのか、と疑問を呈しているのが、青山学院大学理工学部教授の福岡伸一先生です。青山先生は講談社ブルーバックスから出ている『プリオン説は本当か?』という本で、狂牛病のプリオン原因説を検証しています。

感染したあとに特定の臓器(特定危険部位)で病変が増殖すること、潜伏期の長さが違う複数の病原体「株」があることから、狂牛病の原因としては当初、学界ではウイルス説が唱えられました。

しかし、

(1)過去、多くの研究者が必死で病原体となる細菌やウイルスを探したが、見つけることができなかった。

(2)病原体に感染すると、通常、炎症や発熱といった免疫反応が起こるはずだが、狂牛病の場合にはそれが起こらない。感染すると血液中には特異抗体が産出されるはずだが、それも検出できない。

(3)潜伏期間が異常に長い。

これらはウイルス説ではうまく説明できません。

そこに、スタンリー・プルシナーという学者が、狂牛病の原因は、異常プリオンタンパク質であるという革命的な説を唱えたのです。

この説は当初、学界の反発を受けましたが、徐々に、これを裏づける実験データが集まりはじめました。

・この病気にかかった脳にはたしかに異常プリオンが蓄積している。

・異常プリオンを含んだ組織をすりつぶして、健康な動物に投与すると、同じ病気になる。

・プリオンタンパク質を作れないように遺伝子操作したマウスは、この病気にかからない。

しかし、福岡先生は、狂牛病の原因がウイルスの場合でも、そのウィルスがある一定の特性をそなえていれば、同じ実験データが得られる可能性があることを論証しています。つまり、異常プリオンは、狂牛病の原因ではなく、結果である可能性も否定できないというのです。

その場合、プリオンが蓄積されている「特定危険部位」の除去という現在とられている処置は、人間への狂牛病の伝染を防ぐ上で不十分だということになる、と福岡先生は警告します。なぜなら、病原体は特定危険部位に多く蓄積されることはたしかだとしても、リンパ細胞を通して、その他の部位にも存在している可能性があるからです。

福岡先生は、ウィルス説を検証する実験を開始しているとのことです。

狂牛病の原因はまだはっきりしませんが、人間の命に関わる問題については、原因が明確ではなくても、怪しいものは使用しないという「予防原則」で対処したほうが賢明です。たとえば、水俣病は当初からチッソの工場排水が原因であると疑われましたが、国は科学的な根拠がはっきりしないということで、工場排水の規制をせず、被害を拡大させてしまいました。日本におけるエイズの原因になった血液製剤についても同じことが起こりました。アスベストについても同じです。

危険かもしれない、とわかった時点で早めに対処すれば、被害は最小限に抑えられたはずですが、「科学的な証拠がまだない」という理屈で、対応が先延ばしにされたのです。

チッソの排水を放置したのも、血液製剤を規制しなかったのも、背後には経済的利益を重視する大企業と政界・官界との癒着がありました。日本政府が、食肉業界の利益しか考えないアメリカの理不尽な牛肉輸入再開の要求に屈服しないことを望みます。





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