デフォルトの発生
中国の不動産バブル崩壊の負の影響が一段と深刻だ。
習近平政権は不動産関連の規制を部分的に緩和するなどして不動産市況の悪化をなんとか食い止めようとしている。
しかし、目立った効果が出ていない。
計算方法にもよるが、不動産セクター関連部門は中国のGDP(国内総生産)の3割近くを占める。
中国経済は非常に厳しい状況を迎えている。
5月に入り、事態は一段と緊迫し始めた。
売上高で第3位の融創中国(サナック・チャイナ・ホールティングス、サナック)が外貨建て債券の利払を期限内に実施できなかったことを明らかにしたのだ。
デフォルトの発生だ。
恒大集団(エバーグランデ)など他の不動産デベロッパーの経営体力も低下している。
今後、中国の不動産分野では連鎖的に本格的なデフォルトに陥る企業が増えるだろう。
その中からは経営破綻を余儀なくされる企業も出てくるはずだ。
不良債権問題の深刻化によって経済成長率の低下に拍車がかり、不動産や株式などの価値はさらに下落する恐れがある。
中国から逃避する資金はこれまで以上に増加する展開が懸念される。
悪化が止まらない中国の不動産市況
2020年8月に共産党政権は不動産融資規制である“3つのレッドライン”を導入して、恒大集団などの民間デベロッパーにレバレッジを削減させた。
中国の不動産部門では債務圧縮のための資産売却などが増え住宅価格は下落し始めた。
それによって不動産バブルは崩壊したと考えられる。
不動産デベロッパーの資金繰りはひっ迫し、建設中断に追い込まれる物件が急増している。
それに加えて、個人の支出意欲が急速に低下している。
その背景要因は多い。
主なものとして、不動産バブル崩壊や強引なゼロコロナ政策による景気の減速、アリババなどIT先端企業への締め付け強化による中国株の下落、世界的なインフレリスクの急上昇と金利の上昇などだ。
4月30日からの5連休中、23都市での住宅販売は面積ベースで前年比33%減少したようだ。
また、1〜4月の不動産上位100社の販売は半減したと報じられている。
共産党政権はわが国の固定資産税に相当する不動産税の試験導入を延期した。
それに加えて、マンション売買に関する規制を部分的に緩和するなどして不動産市況の悪化を食い止めようとしている。
それにもかかわらず、目立った効果は出ていない。住宅価格はさらに下落するだろう。
さらに5月12日、サナックが2023年10月償還の社債利払を実行できなかったことを発表した。
同社債にはクロスデフォルト条項(一つの債務がデフォルトに陥った場合、すべての債務が不履行に陥ったとみなされる条項)が設定されている。
同社が本格的なデフォルトに陥り、それをきっかけにして連鎖的に不動産業界の信用リスクが急上昇する恐れが高まっている。
高まる不良債権増加による成長率低下懸念
大規模なバブルが崩壊すると、債務の圧縮をはるかに上回るスピードで資産の価格が下落する。
また、債権者は貸し付けた資金が回収不能になることを恐れ、資産の差押えをを急ぐ。
民間主導での債務再編は難航し、不良債権問題が深刻化する。
その展開を防ぐためには、政府が債務問題を抱える企業や金融機関に公的資金を注入しなければならない。
しかし、習政権は公的資金を用いた救済を実施することが難しいようだ。
その結果としてサナックはデフォルトに陥ったと考えられる。
同社以外の不動産デベロッパーの経営体力も失われている。
例えば、恒大集団は資産の切り売りを急ぎ、債務をなんとかして圧縮しようと必死だが、子会社が保有してきた土地や預金が差押えられるケースが増えている。
資産売却による債務圧縮は行き詰まり、不良債権問題の深刻化は避けられないだろう。
今後の中国では、リスクを回避、あるいは削減する個人、企業、投資家が増え、経済成長率の低下傾向はこれまで以上に鮮明となる可能性が高い。
特に、不動産関連のローンは高利回りの投資商品である“理財商品”に組み入れられ、個人の資金運用手段の一つとして人気を集めてきた。
中国本土株、債券価格の下落に加えて理財商品の価値が毀損すれば、個人消費は追加的に減少せざるを得ない。
地方政府にとって、不動産市況の悪化は土地利用権の売却益の減少につながる。
ゼロコロナ政策による景気の落ち込みも重なり、財政悪化に直面する地方政府は増える恐れが高い。
それは、景気対策の発動余地の縮小につながる。
経済全体での資本の効率性低下によって、習政権が景気対策を強化したとしても経済成長率は簡単には上向かないだろう。
そうした懸念の上昇が人民元の下落圧力を高めている。