韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権に、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド(英語で4の意味)」や日米韓の連携に消極的な姿勢が目立ち始めた。
バイデン米政権が主導する対中国・北朝鮮の価値観外交に同調すれば、次期大統領選まで1年を切る中、中国の習近平国家主席と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党総書記の反感を招き、両国からしっぺ返しを受けるからだ。
同盟を重んじるバイデン外交が始動して約2カ月、微妙な立ち回りで日米に前向きな姿を装うものの、軍事・外交の現場では後ずさりする文政権の本音が垣間見える。
軍事…北ミサイル発射発表せず
北朝鮮は3月21日、短距離の巡航ミサイル2発を黄海に向け発射した。
韓国はこれを発表しなかった。
発射の事実は3日後の24日、米メディアの報道で明らかになった。韓国国民は米報道で知ったことになる。
韓国では、北朝鮮のあらゆるミサイルの発射情報を合同参謀本部が大統領府に報告し、大統領府の国家安保室が対外発表の可否を判断する。
今回、発表しなかったのは大統領府の判断とみられる。
北朝鮮は、バイデン大統領の就任式直後の1月22日にも巡航ミサイル2発を発射したが、韓国はこれも発表しなかった。
北朝鮮は3月25日早朝、咸鏡南道(ハムギョンナムド)から日本海に向け新型弾道ミサイル2発を発射した。
射程は450キロで、韓国のほぼ全土が射程に入る。
日本は1発目の発射から5分程度で発表したが、韓国が「短距離ミサイル」の発射を発表したのは4時間以上たってからだった。
さらに、ミサイルが国連安全保障理事会決議違反の弾道ミサイルだと認めたのは2日後だった。
ミサイル監視は在韓米軍と韓国軍が情報を共有している。
韓国軍当局は昨年4月の巡航ミサイル発射までは直ちに情報を発表していた。
だが、最近の韓国は、対北配慮が際立つ。
外交筋には「21日発射の米報道は米当局によるリークで、韓国への不満の表れだろう」との見方がある。
外交…「北の非核化」に同意せず
バイデン政権は、北の核問題では「北朝鮮の非核化」を目指すとしている。
だが、文政権は「朝鮮半島の非核化」に固執する。
「朝鮮半島の非核化」は、韓国からの在韓米軍撤退を含む南北の非核化を意味し、北朝鮮が長年使っている概念だ。
トランプ前米政権は「朝鮮半島の非核化」を許容したが、バイデン政権は明確に否定している。
ブリンケン米国務長官は2月の国連軍縮会議以来、「北朝鮮の非核化」を強調している。
3月12日のクアッド首脳会合の共同声明でもこの用語が使われ、16日の日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)では、共同文書に「北朝鮮の完全な非核化」が明記された。
共同文書はまた、中国についても「地域の他者に対する威圧や安定を損なう行動に反対する」と名指しで非難。中国海警局の武器使用権限を明確化した海警法について「深刻な懸念」を表明した。
だが、18日に行われた米韓の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)の共同声明に、北朝鮮の「非核化」という文言は入らなかった。
「北朝鮮の核と弾道ミサイル問題が最優先の関心事項であり、これを解決する」としか書かれていない。
さらに声明には「中国」という単語すら入らなかった。明らかに米韓の認識の差が表れた。
また、米韓2プラス2の注目点は韓国のクアッドに対する態度でもあったが、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は記者会見でクアッドに関する議論があったか問われると、「直接的な議論はなかった」とそっけなく答えた。
一方、中韓両国は1月26日に電話首脳会談を行った。
中韓は来年、国交正常化30年を迎える。
文大統領は会談で、「中国共産党の創立100周年に心から祝意を表する」と述べ、「習主席の強固な指導」を称賛した。
文氏にとって北朝鮮に多大な影響力を持つ習氏との友好は、南北関係の命綱なのである。
この発言は中国メディアだけが報道し、韓国側は発表しなかった。
中国、北朝鮮から警告
北朝鮮は正恩氏の妹、金与正(ヨジョン)氏が文氏を集中的に攻撃している。
文氏が3月26日、弾道ミサイル発射について「対話の雰囲気に困難を与えるのは望ましくない」と語ると、与正氏は30日、朝鮮労働党宣伝扇動部副部長の肩書で談話を発表。
文氏を「米国産のオウム」「非合理」「厚顔無恥」と激しく罵(ののし)った。
3月上旬から中旬に縮小して実施した米韓合同軍事演習をめぐっても、与正氏は文氏を「間抜け」「鉄面皮」「生まれつきの愚者」と悪態の限りを尽くした。
攻撃は南北軍事合意の破棄警告など南北関係全般に及ぶが、文政権は「最低限の礼儀は守られるべきだ」(統一省)と控えめに遺憾を表明するだけだった。
なぜか。
北朝鮮の軍事挑発が継続すれば、南北融和を成果としてきた文政権は政権支持基盤を失うからだ。
対北融和一辺倒で任期終盤にさしかかった文政権は、国家の命運を北朝鮮に握られてしまったに等しい。
韓国の鄭外相は就任早々の2月16日、中国の王毅(おう・き)国務委員兼外相と電話会談したが、王氏は「中国は開かれた寛容な地域協力体制を支持し、イデオロギーで陣営を分けることに反対する」と韓国のクアッド接近にクギを刺した。
鄭氏は4月2日、王氏の招きで訪中し3日に会談する。
同時期に米国では、日米韓の安全保障担当高官が対北政策を協議していたが、韓国の外相の姿は中国にあったことになる。
文政権に中朝の圧力をはね返し、日米とクアッドに接近する意思はあるのか。韓国の保守陣営には文外交への懸念が高まっている。
韓国の元外交官の千英宇(チョン・ヨンワ)朝鮮半島未来フォーラム理事長は韓国紙、朝鮮日報に「韓国がクアッドに参加すべき4つの理由」を寄稿。
米韓同盟を補完するクアッドは韓国の生存と安定を守る保険である
▽クアッドに早期に参加すれば韓国の立場を反映させることができる▽軍事衝突など米中の戦略的競争の過熱の危険性を牽制(けんせい)できる
▽韓国の中国に対するレバレッジ(てこ)になる-として、クアッドに参加し対中バランスを取る必要性を訴えた。
今後、4月下旬に日米韓外相会談、6月中旬には韓印豪3カ国が特別に招待される先進7カ国(G7)拡大首脳会議が予定されている。
さらに米国が「民主主義サミット」を計画しており、こうした多国間外交の場で、韓国の真の立ち位置が問われることになる。
(編集委員)