北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ASEAN外相会談南シナ海問題共同声明、中国反発と防空識別圏設定海域閉塞化の危機

2016-07-25 22:50:00 | 国際・政治
■ASEAN外相会談“深刻な懸念”
 ラオスで開催中のASEAN外相会談、会談における南シナ海問題は共同宣言への盛り込みにたいしカンボジア政府が強く反対したことで大きく遅れることとなりました。そして共同声明で仲裁裁判に触れず妥結しました。

 これは多国間協議による問題の解決を目指すことへ中国政府が強く反対したことを受けてのもので、国際法と仲裁裁判の尊重という水準を盛り込む範疇に終わり、中国を名指しで非難する直接対立という構図は回避されることとなりました。二国間での解決を求める中国ですが、そもそも南シナ海における南沙諸島問題は、同じく南シナ海の西沙諸島問題とも密接にリンクしている問題です。

 この海域に領土を有する国はフィリピン、ヴェトナム、マレーシア、ブルネイ、中華民国と多くの国が島嶼部をゆうしており、この海域へ実行支配を行っている現状さえも無視し、南シナ海全域を自国領域であるとの宣言を行っていることがそもそも無理があることから、国際仲裁裁判は勧告的意見に国際法上のある種、常識的内容を示したものです。南シナ海での問題は同時に東シナ海での問題へ直結している命題であり、特に東シナ海において防空識別圏を宣言した中国が同様の措置を南シナ海において実施する可能性を示唆したことは、何を意味するのか。

 言い換えれば中国自身が南シナ海問題と東シナ海問題をリンクさせた措置であり、日本の日中間問題とも密接に関係する部分となります。中国政府は我が国南西諸島の一部を自国領土であると宣言したことで、併せて当該海域は中華民国の領域であるという宣言にもつながり、北京と台北が同様の宣言を行うに至っています、これは東シナ海での摩擦が事実上多国間の摩擦に展開しているものであり、同様の構図は、南シナ海と東シナ海において共通の自国法解釈を適用しようとする姿勢が維持される限り、結果的に関連づけられる状況も維持されているといえるでしょう。

 我が国の指針は一貫しており平和的解決を求めているのですが、仮に南シナ海のこの海域に対し東シナ海と同様に防空識別圏が構築された場合、問題は東シナ海よりも複雑化します。中国はこの海域の飛行情報区を付託されていませんので、飛行情報区にもと付く航空管制の権限を有していません、一方南シナ海においては防空識別圏の設定を宣言したものの、飛行情報区は我が国の管内にあるとともに防空能力では那覇基地の第9航空団が防空識別圏を担当しており、第5航空群による紹介飛行も持続的に展開してきました。

 ここへ中国戦闘機などが侵入すれば即座に対領空侵犯措置を発動し那覇基地から緊急発進を実施しています。戦闘機数においては那覇と中国沿岸飛行場では那覇基地が劣勢ではありますが、我が国は長く高い稼働率を実現するための様々な施策、NATO共通運用基盤に匹敵するライセンス生産による国内部品供給体制と定期整備基盤を構築し、更に全国の要撃飛行隊より増援の航空機を暫時ローテーションさせる戦闘加入、支援体制を構築しているため、その長期化を前にしても必要な要撃体制を維持することができました。

 しかし、ASEAN諸国に関しては、フィリピンはF5軽戦闘機が運用終了となっていこう長らく戦闘機を有せず近年勧告からFA50軽攻撃機を導入することで防空体制の再構築を図っている段階、ヴェトナム空軍はSu-27戦闘機を保有していますが元々Su-27戦闘機は、中国空軍がコピーした機種も含め高い稼働率を想定しているものではない一点、そして既に西沙諸島紛争により中国軍に武力奪取され、ここへレーダー施設などを建設されているため、現時点ではこの施設を返還させないかぎり、初動では不利な態勢が構築されるに任せています。

 各国の防空能力、マレーシア空軍はF/A-18,MiG-29と特筆される航空装備体系を構築していますが現時点で領域を死守しており、戦闘行動半径の関係上現時点では静観の構えです。ブルネイは特筆すべき航空戦力を有していませんが、まだ自国領域を防衛しており静観という状況です。台湾は太平島へ航空基地を2003年に建設、こちらはF-16A,経国、ミラージュ2000と有力な航空戦力を維持していますが、同時に本土防衛という重大な問題を抱え、必ずしもこの海域に対し全ての軍事力を投射できるわけではありません。

 防空識別圏を設定された場合には、上記状況があるが故に、これに伴う南シナ海海域への中国軍の戦力投射にたいし、これを抑止する能力が十分ではなく、突発的な航空戦闘へ発展する可能性があります。一方、ここが問題の根底なのですが、中国は南シナ海の海域閉鎖化を示唆する施策を継続的に実施しているため、紛争の発生を根拠としてこの海域を一挙に閉鎖化する懸念があります。

 この場合、我が国シーレーンが直接脅かされることを意味し、回避させるには、この海域での防空識別圏設定と排除行動を実施した場合には、強い姿勢を示すと周辺に示しつつ、その上で南シナ海東シナ海諸国との連携を図ると共に、その枠組みへ中国を迎え入れる模索を行い、平和的解決を最大限模索しつつ、必要ならばシーレーン防衛を軸とした海上警備行動を行うという姿勢を明確化するべきでしょう。

 我が国領域外での海上警備行動は、ソマリア沖海賊対処任務の初期段階において既に実施の事例があり、特に我が国船舶や関連機材を運ぶ商船に対し影響が生じる蓋然性がある場合には、ソマリアにおいて実施したような、船団護衛方式による海上交通路維持の姿勢を示す必要があります。併せて重要なのは、この周辺事態や重要影響事態というべき事態を待って後手に対応する、言い換えれば紛争が本格化するまで関与しないことで深刻化を許すのではなく、予防外交の視点から、次の段階へ発展しないよう圧力、対話と圧力の姿勢を強調し、平和的解決を図ることでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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16 コメント

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Unknown (市民の目)
2016-07-25 23:30:41
ブログ主は、日本が南シナ海に介入するよう煽っているようです。極めて危険な臭いがします。
国際政治は自国だけの立場や主張だけで考えてはいけません。相手国にも立場や利害があるのです。そこを理解して十分な折り合いをつけていくのリアリズム=現実主義です。ブログ主にはぜひ現実主義を学んでいただきたいと強く思います。
中国の利益を無視する日本の南シナ海派兵には断固反対します。仮に日本が強行するのなら、琉球諸島部への中国軍派遣を真剣に検討しなければならなくなるでしょう。日本が嫌がるのなら、南シナ海には手を出すなと言いたい。
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逆です、派遣しない為の選択肢に他なりません (はるな)
2016-07-26 00:00:22
市民の目 様

逆です、日本の安全保障問題へ中国の防空識別圏設定が強行されれば発展するため、海上警備行動を発動せず対応出来る選択肢として、海洋閉塞化を行わないよう平和的解決の道を多国間で話し合うべき、という事です

一国主義への批判を為されていますが、海洋航行の自由こそが国際公序であり、これが中国も批准した国連海洋法条約に具現化されています、この当たりをもう少し考え、学ばれる事をお勧めします
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Unknown (Unknown)
2016-07-26 07:54:16
>リアリズム=現実主義

予防外交こそ現実主義、戦争が起きる前に阻止する事こそリアリズムだというのになんという見識不足か
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Unknown (軍事オタク)
2016-07-26 11:25:18
とりあえず我が国は早く下地島に2個飛行隊シェルター付きで、対空弾及び対弾道弾迎撃ミサイル完備で、宮古島陸自の離島防衛隊及び対艦ミサイル部隊と合わせて配備してほしいですね。
ヘリ部隊も石垣か宮古もしくは両方に配備ですね。
少なくとも小型上陸用舟艇も必要ですね。
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無警告で行動する方が危険 (はるな)
2016-07-26 12:26:11
Unknown 様

国際政治においては無警告で強制措置を執る方が危険なのですよね、相手に次の行動を示唆した上で危険な措置を採らないよう行動を促す、我が国関連船舶へ脅威が及ぶ場合、我が国としては海上警備行動をとる他選択肢がなくなるのですが、この実情を示し、相手に海上警備行動を必要とする施策を執らないよう要求する事は非常に重要です
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下地島は中国短距離弾道弾射程内 (はるな)
2016-07-26 12:32:17
軍事オタク 様

下地島は中国が台湾戦用に準備している2000発の短距離弾道弾射程内にあり、那覇基地のように射程外の基地に構築しなければ第一撃で滑走路を破壊されてしまいます

ですから、仮にハリアー攻撃機のような滑走路を必要としない航空機が充分に配備されていたらば、検討する手段でしょうね

ただ、中国の短距離弾道ミサイルを撃破出来るような手段が有り得るならば、例えば中国沿岸部のミサイル部隊を無力化できるような手段を整備できるならば、下地島要塞化は意味を持ってくるかもしれません
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Unknown (市民の目)
2016-07-26 19:27:05
ブログ主殿

端的にお答え願いたい。

貴方は中国の発展に嫉妬していませんか?
中国を封じ込める事が日本の生きがいだと考えていませんか?

以上
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Unknown (流線形)
2016-07-26 20:02:12
国際公法とその秩序を守ることが、
国の大小に関係なく、等しく権利、義務を有し、
公平な国際秩序を確保する道だと思います。
軍事力、経済力でもって「等しく」「公平」な秩序を否定しようとしているのが、中華人民共和国です。
国際仲裁裁判の結果を「紙屑」といい、その前には不利な状況を覆すべく非公式な接触を仲裁裁判官と持とうとしたり、公平さを覆そうとしている様に見えるのですが、果たしてこれが公平な国際法を守っている国家と言えるのでしょうか?
市民の目様、端的にお答え下さい。
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祇園囃子 (はるな)
2016-07-26 21:14:21
市民の目 様

端的にお答えします

中国も何も京都以外興味がありません

以上
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Unknown (流線形)
2016-07-27 01:38:08
市民の目 様
ブログ主様は、貴問に答えてはります。
貴殿は、私の下賎な質問にさえ答えて頂けないのでしょうか?
中華人民共和国の駐英大使が、仲裁裁判所の判事に対して非公式な面会を得ようとしていた件と仲裁裁判の行方を予想しうるので、その予想を述べることのどちらが「公平さ」を損なうのか尋ねましたが、その際もお答え頂いておりませんでした。
相手には質問をしておきながら、自らは答えないのは何故でしょうか?
まさか、共産主義、中国共産党の無謬性を信じているのでしょうか?
ちなみに、中国共産党の無謬性については、日本共産党は疑義を呈していますよね、例えば、1967年の一連の事件が例示できると思います。
同じ共産党でも無謬性の捉え方が違うようで、要は、無謬性が否定されてるわけですよね、共産主義を信じている方々の内部でも。
そこらへんを、市民の目様に解説頂けると、読者の皆様の理解が進むと思います。
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