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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

自衛隊の自隊防災は万全か?チリ地震に伴う日本本土津波災害で感じた一視点

2010-03-01 23:08:49 | 防衛・安全保障

◆救助を行うべき自衛隊が被災者となることは避けねばならない

 チリ地震に伴う津波災害ですが、各地に爪痕を残したものの、人的被害は日本国内で皆無だったという事は幸いでした。しかし、過去幾度も津波被害に見舞われた日本は、この教訓を明日の糧として防災の準備と気構えを新たにすることが必要でしょうね。

Img_3557  この航空基地は、南海地震では滑走路や格納庫上も1メートルの津波に襲われます、その場合即座に滑走路を復旧させ、救援活動を開始します。小松島航空基地ちびっこヤング大会で一般に公開された管制塔併設の展望スペースで説明員を務めていた隊員さんから教えてもらった話です。南海地震の被害を楽観視せず、冷静に分析し、準備を進めている、ということには率直に感心するとともに、旧海軍時代から伝統ある航空基地も海に隣接している以上は津波被害からは例外ではないのか、ということを感じました。

Img_4287  小松島航空基地は、徳島航空基地、第14旅団司令部の置かれる善通寺駐屯地とともに四国有数の自衛隊の拠点です。小松島航空基地は、徳島県とともに将来、四国と紀伊半島を襲うであろう南海地震への備えを重要視していて、南海地震にたいする心構えや備えなどについての説明をしてくれました。小松島航空基地は旧海軍の水上機基地、航空基地にはスロープが残り、紀伊水道に臨む風光明媚な基地。太平洋から大阪への玄関、紀伊水道へ接近を試みる潜水艦に対して、無言の圧力を加える役割を戦前戦中から今日と将来に至るまで担う航空基地です。

Img_3308  それでは、地震がきたら、航空機は全機空中待避ですね!、と聞いてみますと、津波は地震発生から数分で襲来するということなので、地震の前兆現象などで待機できるような状況でなければ空中待避は難しいでしょう、という答えでした。もっとも、格納庫に収めている限り、航空機の被害は局限でくるとのことで、一安心しました。しかし、津波が防波堤を乗り越えてやってくるのか、気になり、別の場所で南海地震について聞いてみますと、1946年の南海地震では、実際にこの航空基地も津波の被害に遭っているということでした。

Img_3401  昭和南海地震は、自衛隊創設前の話で、徳島県に駐留していたのはイギリス軍、高台に駐屯していて津波被害は無かったとのことですが、地震も津波も初めての経験で、驚愕した、と記録されています。小松島航空基地には防波堤があるのですが、高さが充分ではないということになりますね。
 自衛隊創設当時、海上自衛隊が、ここ小松島航空基地に展開したときには、戦時中の空襲と戦後の南海地震によって基地には、現在も司令部として使われる旧海軍時代からの司令部と、小松島の名前の由来、美しい松並木が残っていただけでした、と教えていただきました。

Img_3434  小松島航空基地の哨戒ヘリコプターは呉基地の第4護衛隊群をはじめとした護衛艦の艦載機で、災害時には山岳崩壊や橋梁崩落、道路破損、瓦礫散乱という陸上交通が途絶したような状況において護衛艦を拠点に任務へ当たるのですから災害時に津波の被害を受けて、艦載機が被災する、というようなことは避けなければならないわけです。対処法というと、これは単純なのですが、基地周辺の防波堤の強化と滑走路や格納庫のかさ上げ、地上設備の密閉強化、ということでしょうか。幾つか海上自衛隊の航空基地、陸上自衛隊の航空部隊駐屯地では、同様に航空自衛隊の基地でも九州に思い当たる基地がありますし、災害に対して強い自衛隊、というものは、施設整備の面で考えられてもいいのではないでしょうか、災害の救助拠点が津波で洗われる、ということはあってはならないことですから予算面で配慮があってもいいのではないでしょうか。

Img_1330  今度は、中日新聞で報じられた話です。陸上自衛隊守山駐屯地、ここには東海北陸地方の防衛警備及び災害派遣を担当する第10師団司令部が置かれています。2007年に報じられた内容では、この第10師団司令部が、耐震強度上問題があり、震度五強で倒壊のおそれがある、という報道でした。師団司令部の屋上に第10飛行隊へ配備されたUH1多用途ヘリコプターが着陸した際に建物に不具合があった、という話も聞いているのですが、耐震上で無視できない問題があったということで建て替えとなり、昨年、ようやく師団司令部が入る新庁舎が完成していました。

Img_1550  そういえば、2000年のトルコ地震、海上自衛隊が、おおすみ型輸送艦を中心に緊急物資輸送への派遣を行ったあの大地震ですが、トルコ海軍の艦隊司令部が置かれた基地で庁舎が倒壊して、指揮官クラスの将校を含め、将兵に大きな被害があった、という事例がありましたし、先日のハイチ地震では、PKO部隊の司令部庁舎や宿舎が倒壊し、指揮官を含め多くの犠牲者を出したことを思い出します。自衛隊の建物では、耐震強度に配慮された建物が多いのですけれども、倉庫をはじめ、耐震強度が確実に確保されているのかと問われれば、補強工事が行われていない戦前の建物も多く、明治時代の建物も残されています。

Img_2033  第10師団の司令部庁舎建て替えに際して、当時の師団長は、副師団長だったかもしれませんが新聞記者へ、東海地震に際して第一に救助へ当たらなくてはならない自衛隊が、被災者となって救助を待つようなことがあってはならない、と発言しています。全くその通りです、この点、更に全国の自衛隊駐屯地の耐震性に関して、一歩進んだ検証が必要でしょう。

Img_4314  しかし、ここで興味深い話があります。陸上自衛隊の豊川駐屯地、第10特科連隊をはじめ多くの部隊が駐屯する中部方面隊でも屈指の規模の駐屯地なのですが、ここは旧海軍の工廠があり、空襲により勤労学生を含め多くの犠牲者がでました。その当時の建物、かなり大きな建物が残っているのですが、こちらが耐震強度診断不能、と判定されたのです。それでは脆いのか、と思うのですが聞いてみますと、判定不能ですが、調べてみると鉄筋コンクリートでかなりの強度を持っていて、解体するには相当の費用を要するほど、というお話でした。強度的には未知数で、建て替えは望まれるのですが、しかし、脆弱、ということではないようです。同じような話は京都の東寺でも聞いたのですが、こちらは余談です。

Img_8900  航空基地の滑走路に関して、液状化現象による弊害、ということも、もう少し考えるべきかもしれません。朝雲新聞を読んでいますと、時として滑走路復旧訓練を行っている記事を目にします。なかなか実戦的な訓練で、模擬滑走路に500ポンド爆弾に相当する爆薬を複数設置して、航空攻撃が滑走路に対して行われたという想定を構築します。そして爆発により破孔が生じた状況から、滑走路を復旧するまでの状況を訓練するものです。

Img_8522  こうした訓練で、弾道ミサイルや航空攻撃を受けた場合でも滑走路の復旧が行えるだけの体制を持っているということはいえるでしょう。そして滑走路、航空基地は災害時に陸上交通が途絶した場合の救援拠点になるのですが、滑走路に亀裂が生じた場合でも迅速に復旧させることがでくるでしょう。

Img_8241  ただ、液状化現象にたいしてはどうでしょうか。1964年の新潟地震で、その問題が認識された地震に伴う液状化現象による被害ですが、広範に地面の形状が変化して大きな被害を与えます。1995年の阪神大震災では、海上自衛隊阪神基地が液状化現象の被害を受けています。これにより岸壁の低下や燃料タンクの傾斜など被害を受けましたが、艦艇基地ということで、その機能を喪失するような被害とはならなかったわけですが、これが航空基地の滑走路にたいして起こった場合は大丈夫なのでしょうか。

Img_71771  耐震、耐災性という観点から、踏み込んだ研究というものが更になされるべきなのでは、と思います次第で、災害時という有事に頼られる自衛隊だからこそ、自隊防災への設備や態勢も高めてゆくべきといえるでしょう。実は、今回のチリ地震に伴う津波警報、大津波警報で基地が被害を受けないか、ということを感じましたので、こうした記事を本日は掲載してみました。東海・東南海・南海地震を考える上でもう一つの視点として、見ていただければ幸いです。

HARUNA

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4 コメント

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仰る通りです。 (秋幸華(チゥ・シンファ))
2010-03-02 23:42:14
仰る通りです。
災害が発生した時、真っ先に災害派遣(偵察・情報収集等含む)に携わるべき自衛隊が被害を受けて行動不能に陥ってしまっては元も子もありません。
非常に的を得た御意見であると思います。
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 今回のチリ地震に伴う津波、ひとまずかつてのよ... (ブラック・タロン)
2010-03-03 04:11:18
 今回のチリ地震に伴う津波、ひとまずかつてのような被害にならなかったのは幸いでした。

 そういえば、今月下旬に高知の新しい陸自駐屯地が落成予定ですが、この駐屯地の移転の理由の一つとして、海抜のそれほど高くない平地に所在する現駐屯地では将来予想される南海地震の際に被害を受ける可能性があるという防災上の理由もあるようです。
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秋幸華(チゥ・シンファ) 様 どうもです (はるな)
2010-03-03 19:00:40
秋幸華(チゥ・シンファ) 様 どうもです

一部では赤煉瓦の施設など、倉庫や展望台に使われているのを見かけますが、あの赤煉瓦も耐震強度等の面では、大丈夫なのでしょうかね。
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ブラック・タロン 様 こんばんは (はるな)
2010-03-03 19:02:11
ブラック・タロン 様 こんばんは

なるほど、高知駐屯地移設は駐屯地規模以外にもそうした配慮があったのですか・・・。災害時に駐屯地は自治体にとって復旧への心強い施設ですから、この点重要ですね。
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