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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

護衛艦「しらね」火災で除籍へ 旗艦を火災で失う海上自衛隊

2008-01-05 11:46:01 | 防衛・安全保障

■CIC全焼、復旧200億! 除籍以外の良案を探る

 海上自衛隊の旗艦、と書いたことで、「しらね」は第1護衛隊群旗艦であって、護衛艦隊旗艦は「さわかぜ」だろう、と思われる方もいるかもしれないが、観艦式では就役から、常に「しらね」若しくは同型艦の「くらま」が総理大臣乗艦の旗艦として扱われている。

Img_1540  加えて第七艦隊旗艦ブルーリッジとの姉妹艦、しかも、東京に程近い横須賀に配備されていることから国賓の広報行事などに就くことの多い「しらね」は、海上自衛隊の旗艦と呼んで差し支えないのではないかと思う。また、「あきづき」「むらくも」「たちかぜ」「さわかぜ」といった歴代の旗艦は、従来の艦を旗艦に改造したものであって、例えば連合艦隊旗艦大淀と第二艦隊旗艦大和、というような位置関係があったのだと考える。

■しらね除籍へ

事の発端はCIC付近から出火し、八時間近く延焼したことでシステム中枢を破壊されたことである。

Img_1273  2007年12月14日、火災事故を起こした護衛艦「しらね」は、戦闘指揮を行うCICが全焼するという大損害を受け、修理には200億円以上、最大で300億円が必要、修理期間は二年という見積が出され、耐用年数が残り五年ということもあり、これを差し引いた場合、費用対効果で修理よりも除籍するという選択肢が妥当という結論が出されたようだ。これにより、写真(左)の「はるな」よりも七年も若い「しらね」が海上自衛隊初の除籍ヘリコプター護衛艦となるようだ。

■海上自衛隊の護衛艦は世界では若年定年

 そもそも、「しらね」はヘリコプターの運用を主任務とするフネである。

Img_1558  護衛艦の寿命は24年で、艦齢延長改装を行うと32年運用できるとのことである。しかし、「はるな」建造の際に着艦装置などを参考としたカナダ海軍のイロコイ級ヘリコプター駆逐艦(1972~1973年に四隻就役、三隻現役)、フランス海軍のヘリコプター巡洋艦ジャンヌダルク(1964年就役、現役)にしても、イタリア海軍のヴィットリオヴェネト(1965~2003年、予備役後、記念艦として準備中)にしても、ヘリの運用に重点を置いた、この種の艦は艦載機さえ置き換えれば40年は大丈夫なのだが、技術的に難点があるのだろうか、日本の護衛艦は、造船技術全般から評価しても船体寿命が各国の艦艇と比較して劣っているとも思えない。

■米海軍は火災で上部構造物が全損しても修理

 また、技術的に修理は可能であると思う。例えば、1975年11月22日に、アメリカ海軍のミサイル巡洋艦ベルナップが地中海で空母ジョンFケネディのアングルトデッキと衝突し、損傷部分から航空燃料が噴出、燃料を被ったベルナップの上部構造物がアルミ製であったことから20時間に及ぶ火災により、船体以外全て融けてしまい大破したが、修理後現役に戻り、湾岸戦争にも参加している。これを考えれば、「しらね」はアスロック弾庫に引火誘爆したわけでもなく、大破着底したわけでもない。加えて、戦艦三笠、戦艦日向など戦前の旧海軍では弾薬庫爆発などの損傷から修理復帰した例が幾つもある(戦艦陸奥や戦艦河内のように駄目だった例もあるが)。

■しらね修理の道

 このまま火災で除籍、となれば海上自衛隊は今後五十年、汚名が続くのではないか。

Img_9945  なんとなれ、海上自衛隊の顔として、「しらね」がこれまで機能してきたことは確かである。建造費は427億円ということだが、ここで重点的に艦齢延長改装を行い、例えば2021年まで運用できるようにする、という方法もあっていいはずである。例えば機関の蒸気タービンからガスタービン化、これは一見、排気量の多いガスタービンに空間容積が必要となり、軽量であることから重心の変化も可能性として挙げられるが、前述のイロコイ級では行われておりライフサイクルコスト低減に寄与する。マストと煙突が一体化したマック構造を考えれば、輸送艦などで実績があり、音響ステルス性や巡航性能で優れているディーゼル機関(事実、88年と91年に就役したフランス海軍のカサール級ミサイル駆逐艦や、最新鋭のラファイエット級ステルスフリゲイトはディーゼル機関を採用)に置き換えてみるという方法も考えられる。

■『しらね』艦隊旗艦、練習艦、試験艦、特務艦に改造

 「しらね」を末永く使う幾つかの案を考えてみた。5インチ砲を背負い式に搭載した独特の艦容は、世界的に観てスマートであるとの評もある。これを第一に幾つかの提案を列挙。

Img_9028_1  「しらね」が続いて建造される「ひゅうが」型ヘリコプター護衛艦と性能で異なるという点を含めれば、除籍廃艦以外に3通りの方法がある。それは護衛艦隊旗艦か、試験艦転用、練習艦転用という方法である。

 「しらね」はヘリコプター護衛艦であり、広大な格納庫と飛行甲板を有している。これは既出()の意見ではあるが、格納庫区画に司令部施設を設け、年々増大する通信量に対応するべく、格納庫上部にアンテナを設置する。司令官用に一機分の格納スペースを残せば、ヘリが着艦出来ない現行の旗艦「さわかぜ」よりも柔軟性が増える。当然、司令部設備と合わせ、CICの再建も行うことが出来る訳だ。

 この他、「あすか」を補完する試験艦への転用も一つの方法である。就役は基準排水量950㌧の試験艦「くりはま」と同時期であり、改編により護衛艦隊に戻される「はつゆき」型や今後旧式化してゆく「あさぎり」型といったミサイルの非VLS方式搭載艦の近代化改修の先行試験艦として利用できる可能性を有する。更に、航空機が発着艦出来、一機分を講堂としての余剰スペースとして用いても尚二機が運用できる為、航空練習艦として用いることも考えられる。除籍して、記念艦として、時には「はしだて」のように迎賓艦に用いる特務艦に、とか。これなら速力も要らないし、CICもそこまで必要ないかもしれない。

■歴史ある艦、火災で除籍か、修理後現役復帰か

 戦後唯一、沈没した航空母艦は、火災で沈没したロシアのアドミラルゴルシコフである。十年以上前であるが、いまも言われている。「しらね」もその流れに乗るのか、火災で除籍と火災後修理して復帰、大分違う。

Img_0998_1  写真は十二月八日に撮影した「しらね」。この翌週に火災が発生し、年が明けて除籍。

 海上自衛隊の護衛艦において火災で除籍など前代未聞である。冒頭に記したように、由緒正しい艦であるのだし、諸外国の事例を見れば、修繕費が出せないような海軍を除けばまだまだ長期間現役に耐える艦である。また、緊縮財政の折、今後も「しらね」就役の頃のようなペースで艦艇を建造できる保障は無く、修理できるならば、末永く運用して行ってはどうかと考える。

 なんというかね、京都の文化財をみてゆくと、何度壊れても直すんですよ、失火も戦火も落雷も色々理由はあるけど。だから、五重塔は近代ビルには建て替えないし、伽藍も鉄筋コンクリートにはしないのですよ。もし将来、花岡断層が動いて大地震があっても、一生懸命復元すると思うんですよ。そんな価値観で「しらね」修理で現役に、という記事をかいてみました。

 ご意見などあれば、お気軽にどうぞ。

HARUNA

(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)

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2 コメント

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あけましておめでとうございます。 (宇宙怪獣)
2008-01-08 14:20:57
あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いいたします。

ところで、早速ながら「しらね」の再利用の件なのですが、やはり訓練支援目的の特務艦が一番妥当なのではないでしょうか?
CIC区画の再建は困難でしょうし、今更スチームタービン推進では実戦向けとはいえない。
平時においては訓練支援艦でも、有事においては、そのヘリ運用能力を生かして、後方で哨戒ヘリや輸送ヘリの運用支援や救難活動に従事する多目的艦としてもつかえそうですし・・・。
もっとも、同じ事は「しらせ」にも言えますが。 
こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします。 (はるな)
2008-01-08 17:57:53
こちらこそ、本年もよろしくお願いいたします。

確かに、無人標的機チャカⅡの運用は大きな飛行甲板があると便利そうですね(同時管制は難しそうですが)。

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