北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

南スーダンPKO:補給の難題、域内に大型輸送機発着不能・港湾から活動地域へ2000km

2011-11-15 23:37:34 | 防衛・安全保障

◆必要輸送能力を明示し輸送力を整備するべき

南スーダンPKOへの自衛隊派遣ですが、これはかなり重大な問題点をはらんでいることが明らかになっています。

Img_77_51 海上自衛隊のジブチ航空拠点があるとはいえ、南スーダンは想像を是する距離。後方支援体制の維持、派遣部隊を支える上で不可欠な事柄ですが、まず、南スーダンが内陸部にあり、内陸部の国への大隊規模での派遣には全ての装備を空輸できるわけではありませんので、海路との併用が必要となります。もっとも、航空自衛隊のC-130H輸送機では小牧基地からフィリピン、タイ、インド、アラビア半島を経由して六日ほどを要しますので、海外の民間輸送機による支援が必要になるのですが。想像を絶する輸送任務が始まることになるのです。

Img_6672 海上輸送にしても、輸送艦が三隻しかないのはさておき、最寄はケニアのモアンバサ港とのことですが、ここから南スーダンへは距離にして2000km、青森~博多間に相当する距離があり、調べてみると機能する鉄道網もないわけで、この長大な距離を陸路にて輸送しなければなりません。イラク派遣任務のように依存できる後方支援基盤がありませんので、どうやって輸送するのか、まずODAでケニアから南スーダンまでの鉄道輸送網と高速道路網を整備したほうが早いのではないか、そんなことを思ってしまいます。

Img_0093 陸上自衛隊の任務地域は南スーダンのジュバ周辺といわれているのですが、ボーイング747やKC-767が発着できる空港、3000m級舗装滑走路を備えた飛行場というのはこの地域には無く、やはりケニアかウガンダの空港に一旦は物資を集約し、そこからC-130HかC-1のような輸送機に積み替える必要性があるようです。これまでは工区自衛隊の海外派遣はC-130Hのみにより実施されてきましたが、大隊規模の輸送を行うには相当な機数が必要となり、日本から集約拠点までの戦略輸送との並立は可能なのか、場合によっては2000kmという距離を考えればC-1との相互支援も必要になるかもしれません。

Img_8869 海上自衛隊の輸送能力、現状の三隻は冷戦時代に北海道へ一個連隊戦闘団を緊急輸送するという目安で整備されました。普通科連隊の車両化と装甲化を考えれば冷戦時代のトラック輸送主体と異なり既に運べなくなっているのは明白、旅団普通科連隊なら何とかなるかもしれないという水準ですが、それでもアフリカへの派遣は全く考慮されていなかったのは明白。民間貨物船による支援を受ければ、必要物資は海上自衛隊の輸送艦だけでなくとも対応できる部分はあるでしょうけれども、自衛隊統合演習で用いたようなカーフェリーでも距離が大きすぎることは確かでしょう。

Img_3660 それにしても自衛隊の任務範囲の拡大を考えれば輸送艦三隻は余りに少なく、車両輸送能力を備えた補給艦で最近の統合支援艦やそれから既存の輸送艦のようなものを二桁の単位まで整備しなくてはならないのでは、と考えてしまいます。輸送艦ですが、使用する港湾施設が小さく使用できない、もしくは接岸と荷揚げ設備が不足する、というような普通の車両貨物船では対応できないような状況も考えられます。この際、速力を現状の輸送艦の22ノットではなく17ノット程度に落として機関出力を最小化してでも安価な輸送艦を多数取得できないものか、こうも考えてしまうのですが。

Img_3234 空輸能力にしても全く不足しているのは確かですから、いっその事民間航空会社で用途廃止になるボーイング747を6~8機取得して貨物輸送機として運用してはどうなのだろうか、アフリカでの国際平和維持活動任務も今回で最後ということはないのだろうし、必要ならば747を用いての国際平和維持活動への輸送支援、という任務も考えられ、更に現行の二機の政府専用機に加えて一定数の747を航空自衛隊が運用すれば、それは必然的に在外邦人救出任務での輸送能力補強にもつながるので、この点は考慮の余地があるでしょう。

Img_2848 最新鋭のC-2輸送機が配備されていれば多少違ってきたのでしょうけれども、補正予算でC-17輸送機の緊急取得かリース取得、もしくは先ほど提示した中古のボーインング747取得、ということはできないものか、専守防衛で基本的に自衛隊は日本国内から出ないもの、という基本骨子のもとで防衛力を整備してきた我が国は、防衛計画の大綱が国際平和維持活動への参加を前提とする時代に至っても、輸送能力には言及されず今に至るのは大きな問題といわざるを得ません。

Img_8274 自衛隊に求められる輸送能力は、例えば10000kmあたり一日何トンの輸送能力が必要なのか、ということを今回の南スーダンPKOを契機に算出して、喫緊の課題として整備することが必要でしょう。これを念頭に、例えば輸送航空隊の規模や数量は現状のままで問題はないのか、輸送隊を自衛艦隊へ支援艦隊として拡大改編する必要はないのか、最悪の状況化に陥った場合に民間へどれだけの規模の支援を要請できるのかという法整備も含めて考える必要はあるでしょう。思いつきと無計画とは日本政治の代名詞になりつつあるやもしれませんが、そろそろ防衛計画の大綱、改訂されたばかりではあるのですけれども再改定の必要性はあるのだと、私は考えます。

北大路機関:はるな

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6 コメント

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そうですね、輸送力増強は早急に整備しなければな... (軍事オタク)
2011-11-16 09:37:38
そうですね、輸送力増強は早急に整備しなければなりませんね。
C-17追加生産できませんかね?
C-2も60機程度は必要かと。
輸送艦や、KC767、補給艦増強も必要だが、
防衛省からは動的防衛力のお題目だけで、海自の中古C130 6機しか具体的な追加配備計画が見えてこないのが残念ですね。
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747について (SUS)
2011-11-16 15:12:27
747について
国内航空会社が747の運用を取り止めるため、政府専用機の整備委託が出来なくなる
という話が出ていたと思いますが、空自が増備して大丈夫でしょうか?

その場合777か767を取得するかC-2の更なる配備の方がいい手ではないでしょうか。

C-17については米豪にACSAに基づいて輸送役務を委託するという手もあるかもしれません。
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軍事オタク 様 こんばんは (はるな)
2011-11-16 23:49:39
軍事オタク 様 こんばんは

追加調達や追加生産というよりは、政府が自衛隊に求める輸送能力が防衛計画の大綱に明示されていない、ということが問題なのではないか、と。

つまり、宅配便に北極点まで運んでくれ、というようなものなんですよね。宅配便の場合は約款などで限界が明示されているのだけれども政府と自衛隊の関係ではこれができない。

だからこそ、自衛隊に政府が求める任務はどの程度までであり、その実行に必要な輸送能力を支えるのは、輸送機、輸送艦、輸送ヘリコプター、輸送部隊で言えばどれだけ必要なのか、明示して整備するべきだろう、ということです。
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SUS 様 どうもです (はるな)
2011-11-16 23:54:29
SUS 様 どうもです

747ですが、二機だけでは独自整備基盤構築には非効率で、という話だったと思います。これが八機十機とあれば、例えば十五機でもって独自の運用基盤を構築しているC-130Hのように、航空自衛隊で独自の整備が行えるだろう、と。特に長大な航続距離と大きな輸送能力は今後の自衛隊にとってもp重要です。

777、これもいいのですが、しかし、取得費用は新造747-8とあまり変わらないように思います。中古747と比較すればかなり違うでしょう。なにしろ、座席定数では747の九割程度とかなり大型の航空機ですから、新規取得は財政上難しく、中古機はまず新造機も納入順番待ちの現状ではさらに難しいのではないか、と。

ACSAでの委託、しかし、スーダン派遣は報道では五年程度続ける、となっているのですが、そこまで継続的に委託できるものなのでしょうか。
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ACSAによる米豪への委託に賛成です。日本にはC-17... ()
2011-11-17 05:56:36
ACSAによる米豪への委託に賛成です。日本にはC-17が無いのでその分を委託し、その一方で日本はC-2による長距離高速輸送を提供するのはどうでしょうか。今回に限らず、米豪との統合した輸送体制を戦略的に構築するのは安全保障にも寄与すると思いますし、C-2の所要数も増えて生産機数が増えれば一機あたりのコストも下がります。
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だ 様 こんばんは (はるな)
2011-12-08 01:17:07
だ 様 こんばんは

ご指摘の通り、国際航空航路を飛行できる巡航性能をもつC-2はそういった用途に対応し得ますが、しかし、配備され機種転換を経ての部隊運用開始は早くて五年後、最初の飛行隊編成完結は十年近く先の話になってしまうような気がします。
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