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航空防衛作戦部隊論(第三四回):航空防衛力、拠点航空基地の航空機稼働率と作戦継続能力

2016-04-06 23:15:19 | 防衛・安全保障
■航空戦闘を継続的に展開
 航空作戦、臨時分屯基地として航空団の分散運用を以て第一撃を受けた際の壊滅を避け防空作戦能力の継続を提示し、その上で拠点基地の必要性を示してまいりました。

 拠点航空基地の重要性は、整備支援能力の全体としての大きさです。これは臨時分屯基地への分散は、装備されている戦闘機がたとえ1機でも機能不随となた場合には稼働率が延滞数の少なさから大きく響くことを意味するためです。具体的には戦闘機8機の臨時分屯基地では稼動機が1機へり7機となる事で全体の稼働率は87.5%となり、2機が重整備などで飛行不能となれば稼働率は全体で一挙に75%まで低下する事となります。

 航空戦闘を継続的に展開する場合、基地で1機や2機の不稼働機が生じる事は当然想定しなければなりませんが、臨時分屯基地は航空整備に関して列線整備と検査隊という二段階整備の内、検査機材や重整備機材等専門機材と施設を必要とする検査隊を随伴する事は難しくなります。臨時分屯基地の周辺沖合にヘリコプター搭載護衛艦を遊弋させ検査隊整備支援を受ける、というような奇策や傭船として航空整備船を複数装備し重整備に充てる方式も考えられなくはないのですが、船舶そのものの脆弱性と整備費用の面で合理的ではありません。

 検査隊の他に臨時分屯基地の機能では損傷航空機を後送する事も出来ません。主翼を取り外すならば、航空自衛隊が装備化を進めているC-2輸送機の格納庫部分に機体を収容し後送する事も出来るでしょう。しかし、主翼を取り外し空輸可能な体制に移行するには最低でも擱座機回収車等が必要となりますので、列線整備部隊の能力では手に負えません。臨時分屯基地から港湾までの道路を確保するならば、牽引車によりカーフェリーのようなRORO船に積載し後送する事も可能でしょう。

 RORO船は航空機輸送に用いられる事例があり、例えば沖縄に前方展開した米海兵隊のMV-22可動翼機もRORO船にて岩国航空基地へ搬入された上で所要の整備を行い普天間飛行場へ展開していますので、近くの港湾までの経路を道路使用許可、武力攻撃事態法に基づく道路使用許可により牽引する事で、F-15やF-2についても収容し、海上輸送にて、例えば愛知県の三菱重工飛島工場や小牧南工場へ後送する事は出来るのでしょうが、それには余りに多くの時間を要します。

 一方、装備品の内消耗部品の大型機材などは航空自衛隊が装備する輸送機の数が限られるため、局地海上輸送を行う必要は生じます。もちろん、局地海上輸送任務には飛行場以外のレーダーサイトなど防空監視所への末端輸送も当然含まれましょうが、支援車両の輸送なども海上輸送の対象となります。他方で、局地海上輸送を行う場合、航空自衛隊の支援車両には燃料車を含めかなり大型の車両が多数装備されています。

 実際のところ、航空自衛隊の装備車両数は陸上自衛隊よりも車両数が多く、その輸送には海上輸送を必要とする一方、輸送艦など特殊艦艇の支援を受けるには輸送艦の装備数が海上自衛隊には充分ではなく民間輸送船の協力が不可欠です。この場合、特定重要港湾などもとより旅客航路が就航している地域以外へは、そもそも大型船舶の接岸設備を持たない港湾もあり、接岸できない可能性も生じ、利用できる港湾も無限ではなく拠点航空基地の意義が大きくなるのです。

北大路機関:はるな くらま
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1 コメント

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Unknown (ドナルド)
2016-04-07 01:13:21
こう見ると、分散配置案には、グリペンが相性が良いですね。。前線整備は非常に少人数でできますからね。。。

いっその事、F35BはF15のpre-MSIPの一部40機の代替と割り切って調達を一段と遅らせ(その分開発の成熟を待つ)、スウェーデンが捨てることにしたグリペンCを60機ほど買いますかね。。。これはC型なので、航続距離が短いのが弱点ですが(E/F型ならF35と同じくらいの航続距離を持てたと記憶)。

近未来だとこうなりますが、遠い未来だと、国産戦闘機F-3に唯一目があるとすると、「グリペン後継のステルス軽戦闘機」という道ではないでしょうか?大型の、エレクトロニクスに物を言わせた戦闘機は、システム開発が巨大となり開発コスト増。1機1機が高性能なので、単価も上がり、調達数が減るので、開発費も回収できず、ますますコストアップになるので、国産の意義が見出せない。米国から輸入の方がはるかに良いでしょう。

一方で、ステルス性を持ち機動力に優れ(ここまではATD-Xの流れ)、コンパクトで整備性に優れる(ここはグリペンの考えを技術導入する)機体であれば、単価もそれほど高くなく、開発費も減り、調達数も増えるのでその回収もできる、ということにならないですかね。。。

機体が小さくて、ミサイルをたくさん詰めないことは、前線基地での頻繁な補給で補うとか。。。

あくまで、妄想の世界ですが。。
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