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【防衛情報】米ストライカーMCWS中口径武器システムと英MIV機械化歩兵車輛プログラム

2021-01-13 20:17:41 | 先端軍事テクノロジー
■特報:世界の防衛,最新論点
 パトリアAMVの試験車両がフィンランドを日本へ出発したようですが、96式装輪装甲車後継について関連する海外装甲車の話題を見てみましょう。

 機動装甲車か、海外製装甲車か。自衛隊の次期装甲車選定が正に進んでいる所ではありますが、陸上自衛隊が96式装輪装甲車を開発した当時は一両一億円という製造費が海外製装備に対して割高だ、と当時の軍事専門家などに厳しく批判されていました。なんでも1980年代には装輪装甲車は安価であり、車体そのものは6000万円程度、という時代があった。

 しかし、装輪装甲車が歩兵戦闘車ありきの補助装備であった時代から1990年代後半、冷戦終結後の地域紛争増大を前に装甲戦闘車よりも機動力に優れた装輪装甲車の需要が大きくなりますと、廉価版ではなく主力と位置づけられるようになり、高性能化、重武装化も。そしてその取得費用も邦貨換算で200万ドル前後へと大きく増大してゆく事となります。

 ジェネラルダイナミクスランドシステムズ社はアメリカ陸軍に大量配備されるストライカー装輪装甲車最新型のストライカーMCWS中口径武器システム型を発表しました。これはノルウェーのコングスベルク社と共同開発した30mmドラグーン砲塔搭載のストライカードラグーンを再設計したもので、転覆限界や不整地突破能力等を改善した完成型という。

 ストライカーMCWSは8両の試作車による18か月間の評価試験を実施し、米本土予備欧州において各種試験を実施しています。配備計画としてはストライカー旅団戦闘団の諸兵科連合大隊用に各々83両が配備される計画で、現在のところ3個ストライカー旅団戦闘団所要249両の量産が計画、大口径化する各国装輪装甲戦闘車への対抗能力を整備します。

 ストライカー装甲車は2000年代初めから安価で大量生産できる次世代の歩兵用車両として欧州製装甲車を広範にアメリカ陸軍へ配備していますが、大口径機関砲を小型化するCTA機関砲や大口径機関砲砲塔を小型化する遠隔操作銃搭により軽装甲車への大口径機関砲搭載が各国で進んでおりストライカー装甲車も生き残るべくこの趨勢に乗ろうということか。

 自衛隊にもストライカー装甲車を、という声は2000年代に外交専門家や安全保障専門家から散見するようになりますが、この頃のストライカー装甲車は遠隔操作銃搭RWSのみの基本型が140万ドル、対して96式装輪装甲車は9600万円程度、ストライカーの方が車幅も大きく防御力に優れている点は自明でしたが、高い車両だ、と考えさせられたものでした。

 防衛予算に装甲車の比重を高めて高価な海外製装甲車を導入するべき、こういう視点ならば多少理解するのですけれども。しかし国産は高いという誤解が。人間一回知識体系に織り込んだ情報の更新は難しいもので、海外製装甲車は安い、という視点から96式装輪装甲車とストライカー装甲車の取得費用差というものを織込めていない認識があるのですよね。

 イギリスの次期装輪装甲車選定が完了。海外製装甲車についてここで面白い話題が。イギリスは1998年にLAVピラーニャ装甲車をFV-432等の汎用装甲車後継に選定しましたが、その後の財政難とアフガン派遣戦費にイラク派遣戦費が嵩み、廃車寸前の装甲車と廃車相当の装甲車を維持し続けていましたが、遅れる事22年、漸く選定結果をだしたというもの。

 イギリス国防省は2020年11月、MIV機械化歩兵車輛プログラムとして導入が内定しているボクサー重装輪装甲車260両について、その8億6000万ポンドにのぼる製造契約をRBSL,ラインメタルBAEランドシステムズ社との間で契約しました。ボクサー重装輪装甲車はイギリスシュロップシャー州テルフォードのRBSL工場にて生産される事となります。

 ボクサー重装輪装甲車260両はライセンス生産ではなく合弁会社により製造するという新しい試みでありますが、同時にイギリス国内に1200名規模の新規雇用を生み出すとともに8億6000万ポンドにのぼる製造契約のうち60%はイギリス国内企業との間で交わされるとしており、従来のライセンス料ではなく相互互恵の防衛協力、その一例といえましょう。

 予算不足に悩むイギリス軍が高価なボクサー重装輪装甲車を260両も導入するとは、思い切った事をするものだ、と感心するところですが、それよりも興味深いのは、海外製装甲車をそのまま導入するのではなく、合弁企業を設置する点です。そして世界で活躍させるには大口径機関砲を搭載出来る装甲車でなければ、最早歩兵用に成り立たない点でしょう。

 合弁企業方式。確かに車検や重整備の度にドイツに送り返しては費用がかさみます、しかしライセンス生産のリスクを避ける為に、イギリス国内企業に費用が落ちる様に合弁会社を設立して運用基盤も含めて移転、という方式ですね。こうする事で例えば導入国に合致させるエンジンや変速機再選定や砲塔の独自選定という兵站システムへの統合も可能です。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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1 コメント

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価格について。。。 (ドナルド)
2021-01-15 00:23:15
> 人間一回知識体系に織り込んだ情報の更新は難しいもので、海外製装甲車は安い、という視点から96式装輪装甲車とストライカー装甲車の取得費用差というものを織込めていない認識があるのですよね。

とのことですが、ストライカーは
・装甲もより厚く
・ネットワーク化されており
・RWSを搭載している
など96式よりも大幅に高機能です。

96式はいずれも含まれていないですよね。その頃比較していた海外のAPCもちょうどこうしたベクトロニクスを大量装備する直前であり、その前提では海外製品のほうが安かったと思います。そしてベクトロニクスをしっかり搭載したバージョンの96式はついに現れず、近代化もされず、「冷戦末期の概念のAPC」(30年前!)を2020年代も使用し続けるという、陸自の悪癖である「放置プレイ」を繰り返しています。

RWSの搭載やネットワーク化など、なぜ近代化もしないのか。当然それにはコストがかかるのですが、21世紀のAPCとはそういうもの。さっさと人員を削減してそのコストを捻出すれば良いだけです。

調達そのもの、台数を保有すること、さらに頭数だけ揃えることが目的化し、戦うことを目的としないこの考え方は、一体どうやったら改まるのでしょうかね。。。戦う気がある部隊は、空挺団と水陸両用団くらいでは?

第7師団すら89式IFVは数が圧倒的に足りない上、いまだに増加装甲もつけていません。新型のRPG相手では簡単に穴が開くでしょう。暗視装置も更新していないのでは?少し調べるとわかりますが、現代の赤外線暗視装置は、1990年代末の暗視装置とは桁違いの能力です。
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