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精鋭無比!第一空挺団降下訓練始め(習志野演習場)2012 写真特集

2013-01-12 21:51:15 | 北大路機関特別企画
◆第一空挺団降下訓練始め前夜特集
 第1空挺団は自衛隊唯一の空挺部隊です。明日の空挺団降下訓練始めに先立ち、その様子と共に空挺団についていろいろと書いてみましょう。
Aimg_1929 空挺団、その歴史は1956年の第101空挺大隊から始まり、1958年に第1空挺団へと拡大改編、2004年に拡大改編をうけ、定員約2000名、必要となれば日本全国いかなる状況においても即応し落下傘による空挺からヘリコプターによる空中機動、車両から果ては艦船や徒歩まであらゆる手段で緊急展開する陸上自衛隊の最精鋭部隊です。
Aimg_2357 陸上自衛隊は練馬第一師団、旭川第二師団、千僧第三師団、福岡第四師団、帯広第五旅団、神町第六師団、東千歳第七師団、北熊本第八師団、青森第九師団、守山第十師団、真駒内第十一旅団、相馬原第十二旅団、海田市第十三旅団、善通寺第十四旅団、那覇第十五旅団が、それぞれの防衛警備管区を有し、その上で陸上幕僚監部からの増援命令などに応じ支援する態勢を取っていますが、空挺団はそのものが即座に緊急展開できる体制をとり、これが最精鋭といわれる根拠となっています。
Aimg_2433 航空機で長駆進出しパラシュートで強襲、これが空中挺身隊です。元々日本は空挺部隊を世界でも早い時期から編成し、訓練し、運用しており、第二次大戦ではパレンバン空挺作戦やメナド空挺作戦において緒戦の勝利を固めていますし、戦術的にも戦略的にも成功しました。また、1945年の義烈空挺部隊による強襲は殆ど特攻作戦そのものでしたが、米軍相手に正面から空挺強襲を行った事例は世界戦史でも日本位のもの。
Aimg_2434 その空挺の歴史を継ぐ第一空挺団の編制を見ますと、空挺団本部、空挺団本部中隊、第一普通科大隊、第二普通科大隊、第三普通科大隊、空挺特科大隊、空挺後方支援隊、空挺通信中隊、空挺施設中隊、空挺教育隊という編制です。隷下部隊は全て千葉県の習志野駐屯地に駐屯しています。近くには第一ヘリコプター団の置かれる木更津駐屯地や、輸送機が着陸可能な海上自衛隊下総航空基地があります。
Aimg_2427 普通科大隊、つまり空挺大隊は空挺団の基本単位という位置づけです。もともと空挺普通科群として四個中隊を基幹としていたのですが、三単位編成を切願していた第一空挺団は2004年の増強改編に際し、空挺普通科群を三個空挺大隊体制へ改編することで実現しました。三単位編成ですと、主攻・助攻・予備、に分けられますし、平時は三交代で待機することも出来る。
Aimg_2458 大隊は380名を定数として、空挺大隊を構成するのは大隊本部、本部中隊、三個空挺中隊という編成で、本部中隊は情報小隊に通信小隊と対戦車小隊を持つ編成、空挺中隊は軽装甲機動車を装備、三個空挺小隊に迫撃砲小隊をもつ編制、第一空挺大隊に第一空挺中隊第二空挺中隊第三空挺中隊、第二空挺大隊に第四空挺中隊第五空挺中隊第六空挺中隊、第三空挺大隊に第七空挺中隊第八空挺中隊第九空挺中隊、つまり9個空挺中隊があるということ。
Aimg_2385 空挺団の火力は実のところ限界があり、空挺特科大隊は二個中隊が120mm重迫撃砲RTを運用、戦車大隊はありません。元々105mm榴弾砲を運用していたのですが、流石に設計が戦前であり、しかし新しい主力火砲であるFH-70は空挺展開に適さないため120mm重迫撃砲RTの装備となりました。
Aimg_1878 空挺後方支援隊は、本部と、整備中隊に隷下の車両整備小隊と通信整備小隊と火器整備小隊に隷下の梱包小隊と投下支援小隊に回収小隊、そして衛生小隊と輸送小隊という編制。空挺施設中隊と空挺通信中隊はもともと空挺団本部中隊にあった部隊が拡大改編され誕生しました。そして空挺教育隊は、空挺団の教育全般を担い、あの特殊作戦群もここから生まれているとのこと。
Aimg_24371 現在、第一空挺団は2007年に新編された中央即応集団隷下にあります。中央即応集団は、自衛隊の防衛大臣直轄にある即応部隊で、第一空挺団と第一ヘリコプター団、そして装甲化された宇都宮の中央即応連隊、NBC事案に備える中央特殊武器防護隊、生物平易などへ備える対特殊武器衛生隊、国際活動教育隊、そして虎の子である特殊作戦群の約4000名を以て有事に備えています。
Aimg_24370 落下傘を装備する空挺部隊を輸送するのは航空自衛隊が誇るC-1輸送機26機とC-130H輸送機15機で、C-1輸送機では一個小隊にあたる45名、C-130Hは60名を空輸可能です。C-1は落下傘を装備しなければ60名、C-130Hも92名を空輸できますが、これは完全武装の空挺隊員の装備がそれだけ多い、という事例でしょう。
Aimg_1862 空挺部隊の投入はその奇襲効果と共に、落下傘降下という、今日的にはある種非効率な方法により得られる示威効果の大きさが挙げられます。これも奇襲効果に含めるべきやもしれませんが、落下傘で陸上部隊が展開している、という事実は、航空優勢を制空権と呼べる水準までに掌握したことを誇示するに他ならない、というわけですから。
Aimg_9585 例えば2001年の米軍アフガニスタン空爆に際してはタリバン拠点地域への第173空挺旅団、これは雁ノ巣に駐屯当時に自衛隊の空挺部隊創設を支援した第一空挺団の片親というべき部隊ですが、夜間空挺強襲を強行しています。この様子は米軍により記録され、暗視カメラによる映像が世界に報じられ、落下傘の群れが飛行場を掌握する一部始終を誇示しました。
Aimg_2414 そして2003年のイラク戦争ではイラク軍がクウェートから進行する米軍を念頭に防衛計画通りの作戦を展開中、当初トルコ政府が隣接するイラク北部国境からの米軍進攻を政治的に拒否したため想定していなかった北部地域へC-17輸送機によってM-1A2戦車を運用する1/63機甲支隊を中心に空挺部隊を展開させたため、イラク軍は挟撃されることとなり、実質的にイラク軍の南方偏重の防衛計画が破綻するに至っています。
Aimg_2478 空挺部隊は日本有事に際しては、主として補給線など、自衛隊は長く内陸誘致戦術、つまり海岸線で行きに撃破することは非現実的なので、内陸部、敵が洋上からの支援を受けにくく、我が方も航空攻撃による損耗が少ない錯綜地形に追い込み、防衛線に釘付けとして叩く、沖縄戦や硫黄島戦で成果を上げた出血強要の戦術をとってきています、いまは水際防御に転換していますけれども。
Aimg_2423 そこで、空挺部隊は北海道であれば旭川以北など、本州であれば群馬県水上以北などで防衛線を張る師団に対し、敵の補給線上で防御が希薄な地域に対し空挺降下を行い、補給を遮断する事を企図し、運用基盤を構築してきました。つまり、敵は余り海岸線から奥に入り込み過ぎた場合、補給線を空挺部隊により遮断される、という危惧があった。
Aimg_9612 日本に侵攻しても、内陸へ入れば空挺部隊に補給線を脅かされる、洋上の補給も確実に維持できる保証はないのだし、日本へ進攻することは軍事的に現実的選択肢なのか、というこれら空挺脅威のもとで仮想敵国は作戦計画を行う必要があり、これが日本本土侵攻を行う上での戦術上の障壁となっていた、ということ。
Aimg_9641 しかし、落下傘降下は正直危険です。過去に落下傘降下により不開傘事故は四件程度、と聞いたのですが、落下すれば落下傘を使用していても三階から飛び降りるときに匹敵する衝撃が加わり、骨折などは日常茶飯事、そしてこれは演習場での話になるのですが、実際の運用では空挺部隊の展開できる地域は限られ、沼や森林地帯に降下することもありますし、降下地域に戦車でもいれば大変なことになります。
Aimg_2441 こうした問題に加え、強風では落下傘降下が、広い地域に展開してしまうため集合が困難となりますし、車両などは衝撃で破壊、小銃が折れる事もあるほどです。それでもなお、空挺部隊が維持されるのは前述のとおり、我が方に空挺部隊在り、という抑止力がいかに大きいか、という事を示す好例だという事が分かるでしょう。
Aimg_2450 世界各国でも精強部隊として空挺部隊が創設されています、空挺師団を機動打撃部隊の中枢として運用している国もあれば、空挺大隊程度の部隊で輸送機が少ないため実質車両で移動する単なる精鋭部隊である場合もあるのですが、空挺部隊は“迅速に展開できる”、“自己完結で補給体系あら切り離されても一定期間戦闘可能”、“降下後は個々人の戦闘能力が重視されるため、必然的に優秀な要員しか選ばれない”、こういうのが強みです。
Aimg_9647 特殊な運用事例としては冷戦時代のドイツ空挺部隊等、特殊な運用が為されていました。ウィーゼル空挺戦闘車を多数配備、これは2.8tの小型装軌装甲車で20mm機関砲かTOW対戦車ミサイルを搭載するものなのですが、降下猟兵、ドイツでは空挺兵をこう呼び、その任務は携行できる対戦車火器と小型装甲車をもって対戦車攻撃を行う、というもの。
Aimg_2542 ドイツ空挺部隊が対戦車戦闘を重視したのは冷戦時代にソ連軍を中心とした膨大な機甲脅威を目の前に、レオパルド主力戦車を多数そろえるドイツ国防軍でもその防衛力に限界があり、各国のドイツ駐留機甲部隊を以ても防ぎきれないだろう、という苦慮から、空挺部隊は天敵といえる戦車に対し、戦略上の側面地域から遅滞行動を取って少しでも防衛線が必要な水準に達するのをまとう、という悲壮な方式でした。
Aimg_9661 フランスの空挺部隊は緊急展開部隊として非常に重宝されている部隊です。フランスは11日に元植民地マリにおいてイスラム系武装勢力が攻勢に出たため国土が寸断されマリ政府から支援を求められた際、即座にミラージュ2000により航空阻止任務を展開すると共に空挺部隊の緊急展開を準備中です。
Aimg_2495 アフリカのフランス軍展開、元宗主国は旧植民地の安定に義務を持ち、元々独立は宗主国からの自立であるという観点から、旧植民地であっても危機に際し支援を求められたならば責任ある行動を行う、というのが日本以外の世界の常識です。そしてアフリカにかつて広大な植民地を持っていたフランスは度々地域紛争の鎮静化へ、国境を越えた義務を果たすべく部隊を送っており、この為に活躍するのが外人部隊であり、空挺部隊、ということ。
Aimg_9513 フランス空挺部隊は90mm砲を搭載し小型のC-160輸送機に搭載可能なERC-90装甲車を多数保有しています。遡れば1950年代にドイツのパンター戦車が搭載した75mm砲を軽量化した砲を搭載するAMX-13軽戦車を空挺用に導入していますし、四輪駆動の装甲車に90mm砲を搭載するAML-90装甲車を1960年代に導入しています。
Aimg_2509 もちろん、NATO正面でこれら軽戦車や装甲車の出番は偵察のみでしょうが、アフリカでは随分と活躍しました。人道危機に際して空挺部隊が速やかに展開し防御線を構築、その内側を非武装地域として難民を虐殺や迫害から守るという方式は、歴史が多くの場合死者のみを記録するため救われた人数が無視されがちなのですが、空挺部隊はどれだけの多数を救ったでしょうか。
Aimg_2533 転じて我が国、2013年空挺降下訓練始めでは、島嶼部防衛を念頭に実施するとのことですが、緊急展開、しかも陸上交通路を使用できない離島への展開では文字通り空挺部隊の重要性が一気に開花します。輸送機で一挙に進出できますし、空挺部隊は文字通り精鋭部隊です。先島諸島
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ニュースによれば、この空挺団の演習は尖閣を想定... (高田誠)
2013-01-13 21:55:39
ニュースによれば、この空挺団の演習は尖閣を想定したものとか。中国を刺激して日中関係を悪化させるような自衛隊の出しゃばりにはうんざりです。中国の力を考えない無鉄砲さは逆に日本を危険にさせれだけです。
高田様 (ドナルド)
2013-01-13 23:19:07
高田様
強気に出すぎると相手を刺激しますが、弱気に出すぎるとまた別の意味で相手を刺激します(欲が出てくる)。これは歴史が何度も何度も示しています。歴史には両方の失敗例が沢山転がっているのです。

戦争の歴史を学び、この両面を見据えた上での議論であれば良いのですが、コメントを拝読する限り、そこは判然としません。もし単に「相手を刺激しないことが平和を導く」というご意見でしたら、明確に反対させていただきます。

そのような理想論は戦争を招く極めて「好戦的な危険な発想」です。そうして却って戦争を招いて来た悲惨な例は、過去に沢山あります。私は戦争に反対し平和を愛する立場から、あなたの意見に反対せざるを得ません。

センカクの領有権を中国に渡すことで、この一件の解決を図るというご意見なら、それはそれで一つの意見と思います。一貫性の上で、竹島も、北方領土も同様にし、南鳥島も「島でない」と認めることを主張することになりますが、そういう意図でしょうか?

なお、私は反対します。
今更中国を刺激だの… (ナカニッポニアン)
2013-01-14 02:54:49
今更中国を刺激だの…
もう尖閣国有化した時点でもう手遅れだっつーの
尖閣を国有化したことが悪いんです。この問題は自... (高田誠)
2013-01-14 14:55:32
尖閣を国有化したことが悪いんです。この問題は自衛隊のような軍事組織が出てくるものではありません。政府も馬鹿ですが、それに乗じようとする自衛隊の野心が見え見えです。腹立だしい
高田様 (ドナルド)
2013-01-14 23:46:45
高田様

1:おっしゃる通り発端は国有化ですが、それは石原さんが敷いた道です。この件に最大の責任があるのは石原さんです。

個人的には裏事情が分かりませんし、私有、都有、今の国有とで、どのように状態が変わったか、まだ分析しきれておりませんので、善し悪しの判断はしにくいです。

2:本題(多くの方が誤解しているようなので、、、)

一方で、陸自の演習は、戦術的にはセンカクとはほとんど関係ありません。あんな島に空挺降下なんてあり得ない。足下は岩場。風を読み間違えれば、大多数が海の藻くず。空挺に全く向きません。ちょっと考えれば分かることです。

陸自の演習は、沖縄県の有人島に対する奪還演習です。中国がそれを意図していないのであれば、中国にとっては「どうぞご勝手に」という演習です(実際そうだと思います)。一方で、国内的には今までやっていなかったのが「怠惰」としか言えない、基本的に重要な演習です。(実際にはほどぼそとやっていたのでしょうが、大々的にはできていなかった?)

ただし、今回のセンカクの件に「かこつけて」やっているのは確かでしょうね。それが気に入らない、ということであれば、

A:昔からもっとやっていて良かったのに今更始めるから、センカク対応とリンクづけられて外交的に「刺激」になる

B:そもそもそんな演習はまかりならん

と2種類の批評があると思います。「A」はその通りですが、いまは必要な刺激と、「私は」思います。(直接ではないが)なんとなく「脅威」にさらされている今日、自衛隊には沖縄の有人島を守る意思表示が必要です、国内的に。

「B」は、私はそうは思いません。

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