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川崎P-1哨戒機、日英安全保障協力会議にてイギリス次期哨戒機選定へ提示の可能性

2015-01-08 23:59:06 | 国際・政治
◆国産最新鋭機輸出可能性急浮上
 ロイター通信によれば防衛省はロンドン王立防衛安全保障研究所で来週開催の日英安全保障協力会議において、P-1哨戒機のイギリス次期哨戒機選定へ提示を行う見通し、とのこと。

 P-1哨戒機は川崎重工が海上自衛隊のP-3C哨戒機後継機として開発中の機体で、作戦行動半径や対潜捜索能力に洋上監視能力等の面で非常に高い能力を保有し、特に航空機として単一のシステムを構成すると共に、その上で艦艇や航空機との連携を視野においた能力を有しており、現在厚木航空基地の第51航空隊において運用試験中、まもなく部隊配備となります。

 海上自衛隊は70機程度のP-1哨戒機を導入する計画で、超長距離索敵能力を有する新型アクティブフェーズドアレイレーダーHPS-106や、戦術データリンク用MIDS-LVT端末を搭載するなど性能面でP-3Cの後継機に相応しいもので、併せて四発機構造を採用しているため、対潜哨戒などにおける急激な機動飛行や高度変化にも対応する機体機能を有するもの。

 自衛隊機の輸出については、現在インド海軍との間でUS-2救難飛行艇の輸出に向けての調整が進められていますが、イギリス海軍の新哨戒機選定へはあくまで提示であり、アメリカ海軍が運用するP-8A多目的哨戒機が米海軍と英海軍の相互互換性の確保の上で有力視されており、現在のところ、提示する可能性、という域を出ていません。

 しかし、イギリス海軍は新哨戒機の必要性を痛感する事件が昨年11月に発生しています。昨年11月、イギリス領フォークランド諸島近海において操業中のトロール船がっく席不明潜水艦の潜望鏡を目撃する事例が相次ぎ、1982年にはアルゼンチン軍が上陸占拠しフォークランド紛争が勃発したこともあり、イギリス海軍は潜水艦の捜索を緊急に行う必要性が生じました。

 ここでフォークランドの国籍不明潜水艦捜索に重大問題が発生します、イギリス海軍は欧州通貨危機以前は国産のニムロッド対潜哨戒機を運用していましたが、財政難により全機除籍となっており、対潜戦闘に対応する航空機はAW-101マーリン対潜型のみとなっていました。そしてAW-101は西アフリカ方面でのエボラ感染拡大への人道支援に稼動機のかなりの機体が輸送用に充当されており、イギリス海軍は自前での捜索が行えず、NATOを通じアメリカやオランダにカナダのP-3C哨戒機、フランスのアトランティック哨戒機の支援を受けなければ打つ手が無かったのです。

 さて。US-2につづき、P-1,というものは非常に飛躍しすぎたもので、イギリスとしては米海軍との相互互換性からP-8Aを有力視していると考えられます。他方でP-8Aは対潜哨戒に単体ではなくMQ-4C無人機との連携を想定しており、この取得費用とを合わせると非常に整備に財政的な問題が生じます。無論、その原型としてのRQ-4グローバルホークの運用基盤を将来的にイギリスが整備する可能性があるのならば、系列機となりますので、支援基盤構築の問題は多少は軽減されるでしょう。他方、P-1はエンジンがIHI製でイギリス軍の丘の航空機との互換性が皆無で、この部分がリスクとなるでしょう。

 一方で、P-8Aはボーイング737に最新のセンサーを搭載した航空機であり、言い換えれば機体そのものの技術はボーイング737となっています。中核はセンサー部分であるため、イギリス独自の仕様変更などは、行うならば時間が無いため不可能ですがニムロッドやエアバスA320であってもいいはずです。こういいますのも、イギリスはニムロッドMRA.4計画としまして2010年まで独自の対潜哨戒機近代化改修を実施していますので、P-8Aを採用した場合、これらが無駄となってしまうのです。

 今回の選定提示は、P-1が提示あれる、というのみですが、将来的に現在最新鋭哨戒機として生産されている機体はP-8AとP-1程度しか国際市場にはありません。そうしますと世界中で運用されていますP-3C哨戒機等が遠くない将来に耐用年数上限を迎える事となり、P-1哨戒機は当面生産が継続されることとなりますので、国際市場に有力な選択肢として提示する此処となる、その第一歩となる可能性はあるのかもしれません。

北大路機関:はるな
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6 コメント

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安全保障を (専ら読む側)
2015-01-09 00:32:55
目先の空腹をしのごうと焼いて食ったツケは余りに大きいことに愕然とする先方の青い顔が浮かびますな(外交力、金融力など軍事力の前には裸も同然)
悔い改めるや良し、手を差し伸べる時来たれりと思われ
まずは売り込み (軍事オタク)
2015-01-09 14:05:57
可能性それなりにあるでしょう。
4発がやはりいい。
低空での肉眼等による哨戒を、伝統を重んじる英国が重視していないかな?
英国も、親子の関係とはいえアメリカの言いなりより、できれば独自路線を望むはずだ。
装備品等に、英国の選択肢をある程度認めれば可能性は徐々に上がるはず。
まぁエンジンやメンテの問題もあるだろうけど、P-1の価格が安くて、運用費用も安くて、豪やカナダあたりも採用してくれれば益々可能性が上がるはず。
首相を先頭に売り込んで欲しいな。
P-8の運用思想 (ブリンデン)
2015-01-09 14:31:52
はるな様

さP-1に関してはエンジンが日本製なので、これがネックになりそうな気がします。

ところで、P-8は、従来のP-3Cと明らかに運用構想が違う訳ですが、インドはP-3Cと同じような運用を行うことを考えているようです。本当に大丈夫なのでしょうかね。

日本でもP-1開発をやめてP-8導入を押す方々もいらっしゃいましたが、仮にP-8を導入した場合、米軍のように無人機導入が実現したのでしょうか。この点も興味深いところです。

また、本日、写真が掲載されているUS-2ですが、インドは12機の導入を希望しているような話がでていました。
Unknown (ファッツ)
2015-01-09 23:31:59
>>専ら読む側様
ドナルド様もよく言っておられますが、外交において軍事力を一番の担保にするのはどうかと…。それこそ中・露、極端に言えば北と変わらないような気がします。あくまで軍事は外交の道具であるべきかと。(勿論、その外交を担保するのに見合った軍事力は必要と思いますが…。なんせ三流高卒なので言葉足らずで申し訳ないですが…。)

P-8ですがトリトン無しの単機でもP-3並みかそれ以上の性能があるのでしょうか?オーストラリアは米と同じくトリトンとのコンビ見たいですが印は磁気探知機やレーダーを追加して単機で使うみたいですし。伊はどうするのか…。
個人的には英にも単機で最適な性能を出せるP-1を是非進めて欲しかったと思っているのでまさかとおもいながらも嬉しいニュースでした。
Unknown (ドナルド)
2015-01-10 11:15:11
はるなさま

今回の件、thinkdefence など、英国のブログサイトでもかなり話題になっていますね。大勢は「当て馬」という理解のようですが。

1:P-8ポセイドンより安ければ検討しても良い
2:英国で生産し、(Nimrod MRA4用に開発していた)英国のエレクトロニクスと、英国のエンジンを積もう
3:さらにヨーロッパ各国に売れないか?
4:英国で生産できないなら、当然、日本に同額のオフセット契約(契約額と同額を日本が別の製品で英国から買う)を要求しよう

などの話しが出ています。どれも当然の意見ですね。


P-8は本格運用に入っており、P-1よりも先行しています。色々と改善の余地があるようですが、致命的かどうかはまだ分かりません。上空から艦船や潜水艦の情報を集めるのはかなり得意そうですが、低空に降りて攻撃するところや、低空低速での目視の長時間哨戒では、やはりP-3Cに劣るようです。(まあ、スペック通り)

P-1は、私の知る限り、まだ実質的に評判が出てきていないですね(エンジン問題が解決しないと、本格的な運用に入れない?)。当然、清谷さんもおっしゃるように、エンジンが最大のネックで(4発ジェットのしかも国産=生産台数が極少で、高価なのは素人目にも自明)、ASWシステムも(清谷さんの取材によれば)、国産は一部駄目だったので、外国製のを導入したようですし、問題はあるでしょう。とはいえ、開発当初ならともあれ、現時点ではP-1で行くしかないので、エンジンもエレクトロニクスも、輸入も含めて最適な答えを出してほしいと思います。


P-8とペアを組むトライトンですが、ソノブイの運用能力はないので、あくまで水上の監視+ESM (通常型潜水艦ならシュノーケル航行状態を検知する)を、人間の疲労を考慮せずに長時間実施するのが目的のようです。中国が全面的に原子力潜水艦へ移行しない限り、日本でも有効な考え方と思いますが。。。

#シュノーケル航行できない通常型潜水艦は、戦略的な機動が出来ないため、軍事力の基本である「機動力」が大きくご阻害できるので有効ですね。。

P-1とP-8 の値段は、ほとんど同じです。なので勝算は薄いですね(その値段の無視できない部分がエンジンと思うと、残念な気持ちですが)。

今回の販売を真剣に取り組むと、設計レギュレーションの英文化、スペックの明確化、販売関係のコスト、英国からの文書要求への対応など、かなりのコストはかかると思います(数億円?)。誰がそれを負担するのか、という問題はありますが、P-1を作る川崎に、世界の荒波を直接感じさせる意味では、実は、良いかもしれません。

Unknown (mars)
2015-03-07 19:06:04
ポセイドンは無人機の母機っていう今までと違いすぎる運用だから運用も含めたシステムを完全刷新するならともかくニムの代替だと厳しいと思います。
インドの場合ロシア系からの完全入れ替えと無人機の集中運用のドクトリンがP-8の運用と完全に一致した特異な例だと思います。
P-1のエンジンをロールスロイスに替えれたら充分アリじゃないでしょうかね、但し機体特性は別物になるので時間はかかると思います。
あと首相のトップセールスは絶対やめてほしい、根本的な部分をいじる以上「共同開発」になるから素人に嘴を挿まれて設計の枷になるのが目に見えてる。

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