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京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

翁長沖縄県知事病没:辺野古移設は唯一解決策ではない,普天間飛行場移設問題県民民意を貫く

2018-08-09 20:04:24 | 国際・政治
■沖縄をまもる"第三の道"はある
 沖縄県の翁長知事が昨日8日、亡くなりました、現職沖縄県知事の死亡はあの最後まで県民に寄り添った島田知事以来ではないでしょうか。

 島田知事は太平洋戦争沖縄戦で最後まで県民保護に奔走し職責に殉じた知事です。翁長知事は国が進める普天間飛行場の名護市辺野古への移設反対を掲げ県知事となりましたが、すい臓がんで入院、手術を行いましたが昨日から意識混濁と沖縄県庁が発表、一時副知事が職務を代行すると発表された後、浦添市の病院で亡くなりました。県民愛溢れる筋を通す尊敬できる政治家の鏡です。

 政府と沖縄県、懸案の普天間移設は訴訟にさえ発展した程の状況に、歩み寄ることは出来ないのか。普天間基地移設という大きな政治論争は、元々飛行場を在沖米海兵隊施設移転を行う、というだけのものでした。一時画定した名護市辺野古への移設が自民公明連立与党から民主党連立政権に政権交代した際に東京で政治論点となり、ここに県外移転の可能性を見出した事で、沖縄県が翻弄された構図なのです。

 翁長知事は那覇市長時代に、当時名護市辺野古への移転再決定を行った沖縄県の仲井間知事に対し、辺野古移転反対を明確に示し、市長を辞した上で知事選に打って出て民意を勝ち得ました。十年以上前、知事が那覇市長時代、大学の特別講義にいらした際に講義録作成を行った御縁でお話を聞く機会に恵まれましたが必ずしも反基地の論調ではありません。

 沖縄をまもる、政府と沖縄県庁はこの一点で完全に一致しています。しかし、政府は南西諸島への中国軍事圧力と北東アジア全般への米軍抑止力維持による武力紛争回避を最重要視し、沖縄県庁は県民福祉という視点から沖縄をまもることも同時に考えなければならない、という一点が違います。しかし、双方が合意できる“第三の道”は必ずあると信じる。

 沖縄県に周辺国からの軍事的脅威が顕在化していることは留意した上で、沖縄に軍事脅威を迎え撃つ場合、全県民を安全な九州本州へ疎開させる事まで踏み込んでいるのか、という非常に鋭い、しかし厳しい視点を頂きまして、実のところ当方が専守防衛の限界を考える大きな転換点の一つとなり、憲法と国民の生命、防衛と県民の安全というリアリズムを考えさせられました。

 仲井間知事時代に安倍総理との合意がある、この一点だけで普天間基地を名護市辺野古のキャンプシュワブへ移設する、という決定を金科玉条の如く掲げて継続する、この点への国と都道府県の対立構造が存在するのですが、妥協点は見出せないものでしょうか。ラジカルに沖縄米軍基地全面撤退の布石、としないのであれば双方の妥協点はあるように思う。

 在沖米軍基地そのものを翁長知事は否定しているのではありません、市長の特別講義で知った事です。そして知事として、主たる視点は辺野古移転反対、続いて普天間飛行場閉鎖、この二点です。それでは沖縄県における海浜埋め立てに翁長知事は全面反対なのか、と問われれば翁長知事は那覇市長時代に那覇空港拡張へ第二滑走路埋立建設を主導し、その工事は順調に進んでいます。単純な埋立反対ではない。

 那覇基地へ普天間飛行場施設を統合し、第二滑走路地区を官民両用飛行場化する。沖縄県の辺野古移設反対と普天間飛行場閉鎖、政府の海兵隊飛行場施設移転日米合意履行、この二つの難題を解決し、双方の面目を保つには翁長知事の遺産というべき那覇空港第二滑走路を活用する事が一番確実ではないでしょうか。沖縄県と政府が共に妥協するということ。

 普天間飛行場が市街地の中心部に近く危険であるという視点、実は岐阜基地や小牧基地と八尾駐屯地や小松基地等を比較してみますと、普天間はそれ程危険であるようには思えないのですが、この視点を真剣に考えるならば、那覇空港第二滑走路は沖合にあり、万一訓練中に事故で墜落した場合でも現場は海上となり、市街地へ危険が及ぶことはありません。

 第9航空団と南西航空方面隊司令部、海上自衛隊第5航空群、第15旅団の置かれる那覇基地と那覇航空基地に那覇駐屯地ですが、那覇空港第二滑走路は既に埋立が完了している為、更なる環境破壊の懸念はありません。そしてなによりも、ほぼ完成していますので、辺野古へこれから埋立を本格化させるよりも、海兵隊の移転は迅速にできるという利点がある。

 名護市辺野古の飛行場について、重要なのは普天間飛行場移設反対という民意と、那覇空港の容量限界という現状です。那覇空港LCCターミナルだけでも名護市辺野古沖へ移設できないか、計画では3700m滑走路建設、ボーイング747規模四発ワイドボディ旅客機も十分発着出来、那覇LCCターミナルのように出入場をバスのみとすれば保安上の問題もない。

 キャンプシュワブ埋立について、その許可を建設工事着手後に知事が停止させられるのか、という視点が大きな論争を呼びましたが、埋立許可を工事着手後に撤回する前例は行政として妥当とは言えません、他の民間工事に同様の行政暴走を許す先例となりかねない。しかし、埋立は実施するものの、米軍基地建設か、第二の沖縄空港かで、意味は違ってくる。

 沖縄空港としてキャンプシュワブの辺野古飛行場を名護市辺野古にLCC専用の沖縄第二の空港として転用するならば、新基地建設を回避する県民世論に応え那覇基地への普天間飛行場統合という問題は解決できますし、同時に沖縄県の長年の課題であったもう一つの問題も解決する事が出来るでしょう、もう一つの問題とは、沖縄本島北部開発、というもの。

 沖縄本島北部開発、沖縄県では本島南部に都市部と観光施設が集中しており、北部の開発は進んでいません。これまで沖縄本島北部には米軍北部訓練場という巨大な訓練場がありました。元々7600haという訓練場でしたが、2016年に半分以上が返還され現在は3533haとなっています。参考までに富士総合火力演習が行われる東富士演習場面積が8800haです。

 名護市は本島北部に位置し、ここにLCC専用空港が開設されるならば、ホテルや観光施設等、本島北部開発は一挙に進むでしょう。現在、沖縄自動車道は那覇ICから名護市の許田ICまで延伸しており、名護東道路として将来の高速道路化を見据えた高規格道路が沖縄自動車道とを結んでいます。距離58km、那覇市からのアクセスは必ずしも悪くはありません。

 那覇基地統合案は、あくまで当方が提案できる選択肢の一つですが、他にも沖縄県と政府が歩み寄れる点は少なくないように思えます。しかし、一旦合意したのだから、と寸分の変更も認めないのは、少々意固地にはなっていないか。政府は普天間飛行場移設が実現する訳ですし、沖縄県は民意が一部通ったと将来に誇示できる、新しい可能性が生まれる。そして那覇空港は国運営ですので民間資産の接収という状況は生まれません。

 副知事が暫定的に県政を担いますが、県知事選は来月に行われます。翁長知事は、辺野古移設反対を掲げて民意を勝ち得たのですが、普天間反対派と辺野古反対派は、沖縄県だけでなく日本と周辺諸国から移設反対派と米軍反対派とが論点を錯綜させているように思えます。論理の玉石混交を行いますと県民世論が分裂、将来に禍根を残します。時間は長くありませんが、慎重な討議を望みます。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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Unknown (人民の目)
2018-08-09 21:32:28
大田昌秀元沖縄県知事は、沖縄の基地問題を沖縄差別の問題として提起しました。醜い日本というタイトルの書籍があります。一読される事をお勧めします。
沖縄人が民族学的に生物学的に日本民族に近い乃至同一であったとしても、私は沖縄人は日本人では無いと思います。基地を押し付けられ戦争で捨て石にされた沖縄は植民地支配の犠牲者です。社会的には日本民族ではないと断言できます。
基地の無い平和な沖縄は日本の下においてはなしえない事です。琉球民族としての独立があってはじめて成立するものです。真剣に琉球独立を議論するべき時です。翁長さんの死はその契機になると思います。
Unknown (ドナルド)
2018-08-09 22:36:22
人民の目さま

民主主義国の日本では、そのような主張はあって良いでしょう。

私自身は、沖縄の独立は、沖縄を戦争に巻き込む最も近道と思います。例えば、中国は直ちに尖閣諸島を占拠し、軍事基地を設けるでしょう。次は与那国島でしょうか。小国たる沖縄は対抗するすべを持ちません。中国のフィリピンに対するなさりようを見れば、当然の予測と思います。

一方で同じ論理を中国に適用すると、大変なことになるでしょう。あなたの論理に従えば、台湾は決して中国ではありません。これだけでもう戦争確実です。チベットは当然、モンゴルも、東北地方も、朝鮮民族の住む地域も、全てです。

私は、近隣の大国が不安定になることを望みませんので、そのような主張はしません。政治とは現実に対して、現実的に対応することであり、理想に殉じて国民を危険に晒すことではないので。
Unknown (流線形)
2018-08-09 23:19:06
人民の目様

沖縄戦が起きるまでの大本営での検討内容は、戦史叢書に出ているので、読まれる事をお勧めします。沖縄を捨石にする気は有りませんでした。
もし、捨石にするのであれば、あれだけの兵力を配置するはずもなく、また、女性、子供、学徒を本土側へ疎開させる為に貴重な船をかき集めて、疎開させています。しかも、住まいも国の責任で確保していました。結果として、対馬丸の様な悲劇もありましたが…。
私は、この疎開されてきた方々を直接存じ上げているので、貴見とは異なる見方をされている事を知っています。
更に、米国委任統治下にあった沖縄は、別に日本に復帰しなければならない立場に置かれていたわけではありませんでした。当初、米国が、日本に復帰させる意図を持っていなかった事は事実です。沖縄が、本土復帰を働き掛けていたいたのです。これは、米国公文書館に保管されている文書からも確認されています。分かりやすい資料を挙げるなら、NHKスペシャル、古いですが、NHK特集でもその経緯を取り上げているのでそちらを参照下さい。
ところで、私事で、かつ随分と昔の事になりますが、ネパールのナムチェ・バザールでチベットから国境を越えてきた隊商と会った事があります。彼らは、ネパリと変わらないと自認していましたが、彼らは、漢民族なんですかね?
Unknown (ファッツ)
2018-08-09 23:24:06
まぁ、上の方に触れません。
しかし、辺野古の軍民共用化をバーターにするのはかなり無茶な気がします。翁長氏は元保守系とあってか最低限のラインで自衛隊配備関連には余り触れずにおられましたが沖縄論壇は那覇の空自すら追い出しで全ての基地を嘉手納に押し込めたいって意思をまるで隠して無いですからね…。(そしてあわよくば嘉手納も追い出したい。)又、辺野古の反対派には環境団体も結構噛んでます。地域振興の為にと案を出しても自然こそが宝だぁ~とか突っぱねくる事が容易に想像できます…。それにLCC空港としても交通の便がかなり良くないような。構想がある沖縄縦貫鉄道名護駅や沖縄自動車道共に離れており集客に不安を抱えるような気がします。
基地問題ですがこの様な言い方も良くないですが現在の情勢や沖縄世論を観るに成田空港のように禍根や分断覚悟で行くしかないかと思います。成田空港や自分の県内の岩国基地増設のように最初は激しい抵抗に遭うかも知れませんが時間が理解と解決をしてくれると言う考えも極論ですが必要なのかも知れません。
Unknown (Unknown)
2018-08-10 00:58:26
中国の大軍拡と、海外膨張が無ければ、沖縄の基地負担も減りますよ
さすがにナリタは繰り返せない (北京亭すぶた)
2018-08-10 19:11:07
民航用の空港でさえあれだけ血がながされました。ひとまず円卓に座れるまでに何十年も浪費しました。同じこと辺野古で起こったらそれこそ外国勢力の付け入りどころでしょう。また、軍民関わらずインフラ建設には環境問題欠かせませんので、環境団体の介入そのものを問題視しても仕方ないと思います。
Unknown (人民の目)
2018-08-10 21:48:08
流線形氏への反論

戦史叢書とは、日本軍部の自己弁護書のようなものにすぎない。全く政治的中立性、科学的客観性の無い日本軍による日本軍のための日本軍プロパガンダに過ぎない。編集委員は元日本軍人である。

君に真実を授けよう。

日本軍は5月末に首里の陣地を放棄して南部島尻、喜屋武半島へ撤退した。あの有名な摩文仁の丘だ。当時の沖縄南部は多くの住民が避難していたが、日本軍が撤退してきたことで戦火に巻き込まれた。沖縄住民の死の大部分は6月から急増している。
このブログ主が嬉々として持ち出した島田沖縄県知事は、日本軍の南部撤退に強硬に反対した。住民を巻き込むからだ。だが、日本軍は本土決戦を遅らせるために=沖縄を捨て石にするために、南部へ撤退して多くの住民を殺した。

これが真実だ。

琉球独立に噛みつくのならもう少し学んできたまえ。
Unknown (人民の目)
2018-08-10 22:33:42
ドナルド氏への指摘

私は沖縄の平和と基地問題について論じたのだ。君はなぜ無関係な中国を持ち出して中国脅威論を煽るような言説を書き込むのか?
私の論に対して的外れではないかね?君の深層心理に反中意識があるから、曲解するのだ。

琉球独立が片付いた時に、中国が万雷の拍手を琉球に送る事はあっても、軍事占領などあり得ない。それに尖閣問題を取り上げているようだが、あそこは日本政府と争っている問題だ。琉球には関係ない事だ。
琉球独立による現実的な安全保障上の問題は日米の介入だろう。君の言によれば。。。日本政府自衛隊が独立運動に武力を使うのかもしれないが。。。
それならば琉球と中国が相互防衛条約を結べば良いと私は考えるがね。
琉球独立論 (夏至南風)
2018-08-10 22:44:42
琉球独立、可能なのかもしれない。
小さな非武装の島国として。
しかし、その独立を守るための具体的な要領は?
それを担う人材は?それを育てる教育機関は?
これで見ても課題が山積だ。
そして、何よりも、百数十万の国民をどう食わしていくのか?
独立後は、全てを自前でやることになる。
自主自立は、大いなる日常の努力こそで維持できる。声を上げる前に動かなくては。

Unknown (流線形)
2018-08-10 22:55:10
人民の目 様

なるほど、”全く政治的中立性、科学的客観性の無い”とは、貴方のことですね。
いままで、いくつか貴方に尋ねたことが質問があるが、これに対しては答えられないのですか?

戦史叢書をプロパガンダと仰るが、その編集過程で米国から返還された戦闘詳報、対抗戦史の収集、分析の上、相手方の意図、認識、行動等も網羅しているので、一方的な”賞賛”になりえない(プロパガンダになりえない)。また、編纂を行った組織は、旧軍とは直接の関係がない組織によって行われており、その編纂メンバーには、旧軍とは関係のない研究者も多数含まれている(戸部良一などが例)。
よって、貴方の指摘は、失当です。

島田知事を始め、国を挙げて沖縄の住民の被害を最小化すべく取り得る手段を尽くしたことは、述べた通りです。輸送能力の限界から、結果として住民を全て本土に疎開させる見込みは立たず、女性、子供が優先されました(それでも対象者全員を疎開させられたわけではない)。

もし、沖縄での悲劇を避けようとしたならば、沖縄戦が始まる前に日本が降伏する必要があったのですが、その様なことが可能な状況だったのでしょうか?

もし、貴方が「その必要があった」「可能だった」というのであれば、中国共産党も日本への抵抗を昭和8年の段階で止めておくべきでしたね。そうすれば、住民の多くは死なずに済んだはずですよ。
なぜ、国共合作までやって、抵抗し、住民に被害を起こしたのですか?

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