◆水陸両用作戦に関する検討を更に進めるべき
北大路機関では、年度末に全国の師団近代化維持政策への提案として、装甲機動旅団・航空機動旅団、という提案を行いました。
装甲機動旅団と航空機動旅団を以て広域師団を編成し、各方面隊に方面直轄部隊や地域警備部隊としての予備自衛官部隊と共に配置する、というものでしたが、ここに第三の機動旅団として、水陸機動旅団、という部隊、装甲機動旅団と航空機動旅団ほどの規模は必要ありませんが、既存部隊を改編し配置する必要はないでしょうか。
水陸機動、提案には含めませんでしたが、我が国防衛における主戦域に島嶼部が含まれる蓋然性が非常に高く、水陸両用作戦の今後の展開を考えますと、全国の幾つかの旅団を水陸機動旅団に改編し、装甲機動旅団と航空機動旅団に続く第三の機動旅団として、編成できないか、と考えました次第です。
そもそも水陸機動任務は、航空機動の一部分として展開しなければ海浜の海岸堡を固める前に反撃を受ける可能性がありますので、航空機動旅団と密接に任務に当たる必要があります。しかしその反面、水陸機動任務は続く装甲機動部隊の管理揚陸に向けた港湾か揚陸地確保が目的ですので装甲機動旅団とも切り離せません。
すると、装甲機動旅団隷下に水陸両用連隊を置くのも正しくは無く、更に装甲機動旅団と連携は水陸機動任務にとり不可欠ですが逆はそうではなく装甲機動旅団と共に機動打撃は展開できません。航空機動旅団についても、航空機動旅団編制、その一部に連隊として編成することは合理的ではない。
装甲機動旅団、大袈裟に提示しましたが主たる視点は戦車と特科火砲縮減の波の中で全ての私案や旅団に戦車を配備できない現実を重視し、せめて各方面隊に縮小編制の戦車大隊を有する部隊を置き、方面特科の全般支援火力を配備し機動運用させることで対応できないか、というものです。
この案、落ち着いて考えれば真駒内の第11旅団型の旅団へ、戦車を支援可能な装甲車両を普通科に増備する以外は方面特科からMLRSを装備する特科大隊を一個まわし、方面施設団から戦闘工兵の装備を有する施設中隊を二個集約するだけ、というものでして、装甲車の整備を逐次長期的に達成するだけで対応できるものと言えるでしょう。
航空機動旅団、といいますとヘリコプターの調達数に一瞬身構えますが、要は第12旅団型の編成に方面航空隊の対戦車ヘリコプター隊を付与しヘリコプター野整備隊を管理替えするか、第13旅団型の軽装備旅団に戦車中隊を機動砲中隊に置き換え中部方面航空隊を管理替えする程度、というもの。
自衛隊は元々空中機動部隊と地対空誘導弾については世界的に見てかなりの数と質を揃えています。装甲戦闘車が突出して少ないため、一部識者に第三世界の陸軍おり遅れていると誤解されていますが、陸海空でCH-47とMH-53のような大型ヘリコプターを100機近く装備した国は中々ありません。
従来の編成で方面隊直轄部隊を単純に管理替えしますと師団管区や旅団管区に縛られ方面隊管区全体での機動性や火力指数に影響が及ぶものでしたが、戦車師団や首都防衛部隊以外全ての部隊を機動旅団に改編すれば、必要ならば旅団毎機動運用すれば問題ありません。それゆえの管理替えという提案です。
他方、水陸機動任務だけは陸海空との連携が必要となりますし、航空機動任務とも装甲機動任務とも必ずしも連携が全ての状況下で必要となるものではありません、水陸機動任務には双方の旅団の支援は必要ですが、航空機動任務での機動運用に水陸機動部隊は不要ですし、装甲機動任務での機動打撃に水陸機動部隊は随伴する必要性は高くありません。
水陸機動旅団は、装甲機動旅団と航空機動旅団の編成案に含めなかった帯広第五旅団、浜大樹訓練場が管区内にありますが、この旅団が一つ。善通寺第十四旅団、輸送艦部隊が展開する呉基地に近く南海トラフ地震対処を含め両用防災訓練が可能で海岸線が長い、この旅団が一つ。那覇第十五旅団、在沖米海兵隊との共同訓練が可能なこの旅団が一つ。
水陸機動旅団への改編を考える部隊としてこの三個旅団を想定しました。三個旅団と部隊規模を比較的多く見積もった背景には、水陸機動作戦には独自の装備体系が必要であり、少数部隊として、現在想定されている程度の水陸機動団では装備や訓練を体系化できない、こうした合理性を考えてのもの。
水陸機動作戦に不可欠な航空作戦との連携は航空機動旅団に依存し、水陸機動旅団は例えばイギリス海兵隊のような若干数の多用途ヘリコプター等の装備で充分です。水陸機動任務を達成しての内陸部への戦果拡大は装甲機動旅団に任せるべきもので、装甲車両は水陸機動車両に特化すればよいでしょう。
水陸機動車両ですが、明らかに陸上自衛隊が導入するAAV-7は他に選択肢が無かったとはいえ海上速力と航続距離に火力で、例えば中国の05式水陸両用戦闘車や05式水陸両用戦車に後れを取っています、相手は速度で二倍と航続距離で十倍です、この点で三菱重工の国産水陸両用戦闘車両に期待するところは大きいかもしれないところ。
特に水陸機動作戦は今後の我が国防衛戦略の展開に際し、冷戦時代に大規模機甲戦闘を想定しなければならなかった程度にその必要性は高まってゆきます。ですから、広域師団の機動旅団とは別に、独立部隊としての水陸機動旅団が一定数置かれていても不自然ではありません。
ただ、三個の水陸機動旅団、その数は提案してみましたが、その編成はどういった編成が理想であるのか、という点や、どういった装備体系を考えるか、は、また別の機会に熟考したいと考えます。自衛隊の水陸機動部隊はどうあるべきか、今年一年間かけて幾度か考えてみましょう。
北大路機関:はるな