北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【防衛情報】カエサル自走榴弾砲の躍進とスパキャット自走砲型,進化続くボクサー装甲車,パトリア6×6装甲車

2022-10-11 20:22:10 | インポート
週報:世界の防衛,最新11論点
 今週は陸軍関連の話題を集めましたが装輪自走砲と装輪装甲車などタイヤ全盛時代を感じさせる最新情報です。

 フランス陸軍へのサーバルVBMR軽装甲車納入が開始されたとのこと。サーバルVBMR軽装甲車は四輪駆動方式の小型装輪装甲車で老朽化している分隊輸送用のVAB軽装甲車よりは一回り小さく、連絡用のVBL軽野戦車よりは一回り大型となっており、国家憲兵隊や落下傘部隊と山岳部隊等が初動における情報収集や斥候、先鋒任務などに対応するもの。

 サーバルVBMR軽装甲車はネクスター社とタレス社の特定合弁会社が製造を担当、フランス陸軍は364両を導入契約しており、今後の契約予定では、最終的に978両が装備されるという。フランス陸軍は2018年にサーバル軽装甲車導入を正式契約し、4年間で納入が実現しました。今回納入されたのは4両ですが2022年内に70両が納入されるとのこと。

 スコーピオン計画としてフランスは冷戦時代に大量生産した装輪装甲車全般を置換える構想を推進中で、共通車体を採用したグリフォン装輪装甲車1872両と40mmCTA機関砲をジャガー装甲偵察車300両とともに、サーバルVBMR軽装甲車は位置付けられており、105mm砲搭載AMX-10RC装甲偵察車やVBA軽装甲車とVBL軽野戦車を更新する計画だ。
■スロベニア,ボクサー導入
 ボクサーを単なる高級な装輪装甲車ではなく現代戦に必須な歩兵を防護し機動戦を展開するシステムと見るべきなのでしょうか。

 スロベニアは5月11日、ボクサー装輪装甲車の導入を発表しました。ボクサー装輪装甲車はドイツとオランダが中心に開発したモジュール方式の装輪装甲車で、多国間国際共同開発の方式を採用しておりボクサープログラムの3カ国として導入各国が連携しており、このボクサープログラムへスロベニアがあたらしく参加するかたちで採用を発表しました。

 スロベニアのボクサー導入計画は45両と関連調達及び教育訓練支援を含め2億8100万ユーロにのぼるといい、多種多様な武装に対応するボクサーですが、スロベニアが導入するものはリトアニア軍が採用したイスラエルのラファエル社製無人砲塔を搭載したヴィルカス装輪装甲車と同型のものとなる予定といい、2023年にも引き渡しが開始される計画です。
■S-500Pミサイル量産本格化
 S-500は沿海州から北海道へ充分届くために率直に脅威度合いは高いようにも思える。

 ロシアは新型のS-500P地対空ミサイル量産を本格化したとのこと。これは4月25日に開かれたロシア防衛企業のアルマズ社創設20周年記念式典においてしめされたもの。S-500Pは先行生産されているS-500の改良型で、射程の長い事で知られるS-400地対空ミサイルを更新するもの。どの程度の数が生産されているかについてはあきらかではない。

 S-500P地対空ミサイルは射程の長い地対空ミサイルであると同時に、極超音速ミサイルや短距離弾道弾はもちろん中距離弾道弾や限定的な大陸間弾道弾への迎撃能力、また性能から人工衛星への迎撃能力も付与されているとされる。ただ、S-400の配備も充分ではなく、ロシアの経済力が短い頻度での地対空ミサイル更新に耐えられるかは未知数といえます。
■JLTV搭載型スパイクNLOS
 特殊部隊は昨今従来の軽歩兵の機動力を世界規模で展開させる方便になっているような装備の重装備化ですが米軍の場合はこれに併せて軽歩兵の機械化部隊化も進んでいる印象だ。

 アメリカ特殊作戦軍USSOCOMはJLTV搭載型の長射程スパイクNLOS対戦車ミサイルを導入しました。特殊部隊は軽装備で隠密作戦を行う印象がありますが、このスパイクNLOSは射程32kmの光ファイバー誘導型ミサイルで、視程外の目標を光学画像による光ファイヴァーを用いた画像誘導により正確に命中するイスラエル製の対戦車ミサイルです。

 JLTVジョイントライトタクティカルビークルはハンヴィー高機動車の後継車両としてアメリカ軍が導入するオシュコシ製の装甲車両で、既に16901両の初期生産が開始されています、導入されるスパイクNLOS対戦車ミサイルはモジュール型であり、JLTVの輸送型であれば20分以内に搭載が可能、これにより特殊部隊は極めて高い打撃力をもちます。
■ベルギー,カエサル導入
 カエサルはウニモグトラックに搭載してC-130で輸送できる点が強みでしたが欧州戦場では寧ろ輸送機に積めずとも機動力の高い大型トラックに積載し火砲の緊急展開能力が重視されている印象だ。

 ベルギー軍は地上部隊機械化旅団砲兵隊用カエサル自走榴弾砲の取得に関してフランスとの二国間協定に署名しました。ベルギー陸軍は機械化旅団一個のみであり、この他には対テロ作戦用の特殊作戦連隊等が置かれています、冷戦時代にはもう少し大規模でしたが、いまは陸軍全体で105mm榴弾砲が14門あるのみ、155mm榴弾砲は装備されていません。

 カエサル自走榴弾砲は9門が2027年に導入される構想です。ベルギー軍は2002年の改編により陸軍を国軍地上部隊へ縮小改編していますが、クリミア危機など欧州情勢緊迫化を受け2018年にフランスとの間でCaMo地上作戦部隊再編パートナーシップ協定を締結、ジャガー装甲偵察車やグリフィン軽装甲車などフランスからの導入計画を進めています。
■フィンランドの新型パトリア
 汎用装甲車もどんどんと大型化が進む。

 フィンランド軍は国防記念日に新型のパトリア6×6試作車を公開しました。パトリア社といえば陸上自衛隊でも試験が行われているパトリアAMV装甲車の多目的モジュール構造装甲車が有名ですが、同社は元々XA-180パシ装甲車という装甲輸送車両を製造、こちらは歩兵の機動戦闘よりもフロントガラス方式を採用し汎用輸送車としての性格を有します。

 CAVS共通装甲車両システムとして位置付けられる本車は、防弾のフロントガラスと運転士に車長席の並列式操縦席を採用し大きな兵員室をもつ装甲車で、歩兵輸送に他に指揮通信車、またXA-180ではクロタール地対空ミサイルシステムの機動車輛にも採用されていますが、こうした自走地対空ミサイルや自走迫撃砲という各種派生型への採用も見込んでいる。

 パトリア6×6はXA-180パシ装甲車の後継を意識した設計であり、国防記念日は6月4日、国際共同開発計画を採用しフィンランド軍の他にスウェーデン軍とラトビア軍が計画に参画しているもので国防記念日における一般公開は開発参加国への展示も視野に含めたものといえるでしょう。フィンランド軍は160両を採用する計画で、2023年にも完成予定です。
■Z-MAG特殊戦車両
 市販車改造の特殊戦車両というものは自衛隊もパジェロの後継などをもう少し柔軟に選定すべきなのかなと考えさせられる。

 イスラエル国防省は特殊部隊用にIAIエルタZ-MAG特殊戦車両数百両の導入を発表した。エルタZ-MAGは四輪駆動のオフロードカー型車両でオープントップ構造特殊戦車両、14座席を有する他に、1.5tから2.5tまでの物資を輸送可能で兵員輸送や末端輸送、そして長距離偵察や医療搬送等を想定している。車両は市販車のコンポーネントを転用している。

 エルタZ-MAGは開放型戦闘室を採用しているが、懸架装置は頑丈なものを採用しており軽装甲の戦闘室を追加した軽装甲車型なども開発されている。戦車等の重装甲車両を重視するイスラエル軍ではあるが実戦では同時に空挺部隊も重視し早い時期から実戦においてヘリボーンを展開している、エルタZ-MAGはこうした空中機動に最適な選択肢となろう。
■リトアニア,カエサル導入
 装輪自走榴弾砲もう一つの話題を。

 リトアニア軍は6月13日、フランスよりカエサル装輪自走榴弾砲18両の導入へ向け国防大臣がパリを訪問し、パートナーシップ協定に署名しました。リトアニア軍は現在、2015年にドイツから導入した中古のPzH-2000自走榴弾砲21門を運用していますが、2022年のロシア軍ウクライナ侵攻を受け、計画されている国軍近代化計画の加速を決定します。

 カエサル装輪自走榴弾砲は長砲身化した52口径155mm榴弾砲を高速機動させるべく牽引ではなくトラック荷台に搭載する方式を選択しましたが、簡易自走砲という当初の印象は、最新鋭の砲兵標定システムとの絶え間ない能力向上を続けており、装甲防御力は兎も角、迅速な射撃と素早い陣地変換に確実な命中精度を両立させ、近年採用国が増えています。
■DE-M-SHORAD
 要するにストライカー装甲車の防空型です。

 アメリカのレイセオン社とコード社はDE-M-SHORADストライカー装甲車搭載50kwレーザー砲実験を実施しました。これは2022年にはいり数週間に渡り実施されていた試験であり、迫撃砲弾やロケット弾、そして近年特に脅威度を増す無人航空機等から飛行場や兵站施設と国際会議場や国際スポーツ大会などの施設をテロ攻撃などから防護が可能です。

 ストライカー旅団戦闘団へDE-M-SHORADストライカー装甲車は各4両が配備させる構想です。DE-M-SHORADストライカー装甲車は赤外線監視装置と照射装置を車体上に搭載しており、器材の筐体はストライカーの車体には収容しきれない大きさとなっています、今回実験では60mm迫撃砲やクワッドドローン等に対し有効な迎撃が可能であったという。

 レーザー砲は1970年代から実用化は検討されているものの、当時のものは目への影響などが特定通常兵器禁止条約に抵触するとして普及はしていません。しかし、ミサイル迎撃や都市部での無人機によるテロ攻撃などが懸念されるようになると、迎撃ミサイルや調整散弾式機関砲弾と違い、射撃単体では破片を生じさせない特性が、有用性をしめしています。
■エクステンダーmk2
 軽量自走砲に新しい潮流なのですが所謂オープントップ型の耐爆車両を自走砲に育てている。

 フランスで開催のユーロサトリ2022国際装備展においてスパキャットHMT-エクステンダーmk2軽量自走榴弾砲が発表されました、これはイギリスの防衛産業スパキャット社とアメリカの新興防衛産業AMゼネラル社が開発したもので、開放型戦闘室を有するスパキャット軽装甲車にAMゼネラル社の105mm榴弾砲を載せた、軽快な簡易自走榴弾砲です。

 スパキャットHMT-エクステンダーmk2軽量自走榴弾砲は六輪式のジャッカル2車体を応用し105mm榴弾砲を搭載、前線での軽快な運用を可能としています。AMゼネラル社は過去、ハンヴィー高機動車に同型の105mm榴弾砲を搭載しアメリカ陸軍へ提案しており、今回は地雷防御力の高い装甲車両に火砲を搭載、前線運用能力を強化したかたちで提示です。
■韓国,ペトリオット増強
 弾道ミサイル脅威を突き付けられると昨今はこれしか選択肢がありません。

 韓国国防省は北朝鮮ミサイル脅威増大を受けペトリオットミサイル増強へ6億ドルの追加予算を計上します。これは5月30日に国防省防衛事業庁が決定したもので、今後5年間で7500億ウォン、米ドル換算で6億ドル規模のペトリオットミサイルPAC-3を追加するとのこと。韓国軍は弾道ミサイル防衛にこれまでペトリオットPAC-2なども配備していた。

 今回追加されるものは射程を延伸したペトリオットPAC-3-MSEであり、また低高度から撃ちこまれる戦術弾道ミサイルに対してはペトリオットPAC-2も有用である為に維持するものの、既存の発射装置へPAC-3運用能力の追加改修も行うとされる。ただ、今回の6億ドル規模の調達で何基のミサイルシステムが追加されるかについては発表はありません。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ロシア軍ドイツ領事館施設を誤爆,航空宇宙軍司令官セルゲイスロビキン大将のウクライナ作戦司令官着任当日

2022-10-11 07:01:20 | 国際・政治
■臨時情報-ウクライナ情勢
 ロシア軍は民間施設を日常的に攻撃していますが今回の事案は簡単には済まないかもしれません、何故ならNATOが1998年に起こした誤爆事件とその後の摩擦と共通点が多い為です。

 ロシア軍はウクライナのドイツ領事館をミサイル攻撃により誤爆しました。これはロシア政府が新しくウクライナ作戦司令官に任命したセルゲイスロビキン大将が2017年からロシア航空宇宙軍司令官を務めており、新司令官の着任にあわせて大規模なミサイル攻撃を行った際、命中精度の低さか意図的かは不明ですが、領事部の入るビルを誤爆をした形です。

 ミサイル攻撃はロシア政府によれば、クリミア大橋攻撃への報復であるとしており、このミサイル攻撃はウクライナの首都キエフのほか、東部のハリコフや中部のドニエプロ及びポーランド国境にちかいリビウなどの都市にも着弾しており、首都以外では主として電力施設が標的となったと判明しました。キエフへのミサイル着弾は5月以来の事態という。

 ドイツ領事館誤爆事件はウクライナ現地時間10日、キエフにおいて発生しています。ウクライナ軍によれば10日、ウクライナ各地にロシア軍のミサイル83発が飛来、ウクライナ国防省によれば黒海とカスピ海から飛来、イスカンデル短距離弾道ミサイルとカリブル巡航ミサイル、及び爆撃機から運用するKh-101空対地ミサイルが使用されたとのこと。

 ドイツ外務省によれば、ミサイルはドイツ領事館の入る建物を損傷させており、平時においてビザ発行を行う施設であったとのことですが、幸いロシア軍ウクライナ侵攻開始後、この施設での領事業務は行われていないとのことで、ドイツ大使館員にも人的被害はなかった、ドイツ外務省が公式に発表しています。簡単な誤爆では済まない問題となります。

 1999年5月7日、国連安保理決議にもとづくNATOによるユーゴスラビア空爆の"アライドフォース作戦"においてアメリカ軍が中国大使館をJDAM精密誘導爆弾で誤爆する事件を起こしています、これは地図が古く防空施設の住所に中国大使館が移設されていたためとのことですが、この際には死傷者が出ており、米中間の深刻な摩擦となっています。

 ロシアは今のところ誤爆を釈明していません、ただ、1999年のNATO中国大使館誤爆では、当時中国がユーゴスラビア政府を支援していたため、誤爆を装った意図的な攻撃ではないかとの中国からの疑義を招きました、今回の誤爆、ドイツ政府はウクライナ政府を支援するとともにロシアへ経済制裁に参加しており、こうした疑義を持つ可能性も、あるでしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする