■国家防衛システムへの賭け
イージスアショアについて、否定的な視点を前回示しましたが、今回は場合によっては重要な国家防衛システムとなる可能性を検証してみました。
SAM-X,としてイージス艦より運用するRIM-174スタンダードSM-6艦対空ミサイル、防衛省がイージスアショアを日本国内に建設する場合、この運用についても可能となる事を示しています。スタンダードSM-6は弾道ミサイル迎撃に用いるスタンダードSM-3のロケットモーターを流用しており、最大射程496kmと非常に広範囲を防空する事が可能です。
イージスアショアを自衛隊が導入する場合、これはかなりの費用を要するものですがイージス艦が艦隊防空を念頭に開発された点から、航空自衛隊のペトリオットミサイルを運用する高射群の任務をかなりの部分で代替出来る事を意味します。SM-6は共同交戦能力によりデータリンクと結ばれたイージス艦等やE-2D早期警戒機による標定と照準が可能です。
スタンダードSM-6について特筆すべきはイージス艦弾道ミサイル防衛任務に際し、現在運用しているスタンダードSM-3では対応しない週末段階のミサイル迎撃能力を付与する改良型の開発が進められている点です。また、スタンダードSM-6は対艦攻撃任務にも対応しており、遠距離の経空目標から弾道ミサイル終末迎撃に対艦攻撃までまさに多用途に担う。
ペトリオットの後継をどうするのか、SAM-Xとして航空自衛隊はこの問題に遠からず直面します。MIM-104ペトリオットはアメリカが広域防空用ミサイルとして1981年に開発したもので、設計開始は1969年と半世紀近く前に開発開始となりました。勿論順次近代化が行われ、例えばPAC-1は速度マッハ2.8でしたがPAC-2ではマッハ4.1へ改善されました。
MIM-104D-PAC-2/GEMではレーダーシーカー部分の新型化により低空小型目標への対処能力向上により巡航ミサイル迎撃能力を強化すると共に、弾頭感度と瞬発性を向上させ短距離弾道弾への限定的な対処能力を付与、イラク戦争前の2002年より配備開始となりました。現在、PAAC-4として更なる改良が模索されていますが、後継研究も進められています。
S-400ミサイル、ロシア軍が配備する射程400kmの地対空ミサイルで、S-400を筆頭にロシアの新世代地対空ミサイルは300km以上の射程を有する地対空ミサイルが開発されており、ミサイル通しの射程を競う事は比較として一考余地がありますが、ペトリオットミサイルの射程100km前後という能力は今日的に視て、防空範囲の面で陳腐化は否めません。
PAAC-4としてペトリオット改良型が模索されていますが、現在検討されているのがアメリカとイスラエルがホークミサイルとペトリオットミサイル後継として開発しイスラエル軍が運用するデイヴィットスリング地対空ミサイルです。これは射程300kmあり、MIM-104とは別物ですが、ペトリオット製造のレイセオン社ではシステムの統合を検討しています。
RIM-174スタンダードSM-6は、射程の面でデイヴィットスリングを凌駕していますし、海上自衛隊も来年度予算概算応急にて試験弾の調達を開始します。仮にこのシステムをペトリオットミサイルの後継となるSAM-Xとして運用するならば、イージスアショアの導入は地対空ミサイル装備体系という全体的に視て、費用面で理想的な施策ともなるでしょう。
SA-N-7/3K90ガドフライ対空ミサイルやSA-N-9/9K330トール地対空ミサイルというように、艦対空ミサイルを陸上型とした事例はロシア軍装備を見ますと多く、ソ連時代には標準的でした。ペトリオットミサイルの後継としてイージス艦のミサイルシステムごと陸上機動式を開発する案は一見突飛に見えますが、アメリカ以外では実用例が多く存在する。
アスター15/30対空ミサイルシステム、フランスが開発した対空ミサイルも艦載型と陸上型が存在しており、フランスに加え、イギリスとイタリアにも採用されています。アメリカを見ますと、サイドワインダー空対空ミサイルの地上発射型であるチャパラルを対艦ミサイル脅威暫定対応へ駆逐艦に搭載した逆の事例が挙げられる程度ですが、世界的には多い。
スタンダードSM-6はMk41垂直発射装置から運用されていますが、例えば輸送車に搭載し射撃時に垂直に展開する方式、自衛隊の03式中距離地対空誘導弾が用いる方式を採用している方式です。問題となるのはレーダーシステムの適合性ですが、イージス艦に四面搭載のSPY-1Dレーダーを四分割、もしくは索敵角度を限定し運用する方法が考えられます。
AN/MPQ-53、ペトリオットミサイルのレーダー部分ですが、SPY-1Dレーダーの分割地上型を仮に開発するとしたならば、こうした方式が考えられるかもしれません。この他、SPY-1Fレーダーとしてより軽量な、ノルウェー海軍のフリチョフナンセン級ミサイルフリゲイト搭載型で、素子数縮小で探知距離は落ちるものの小型レーダーも開発されています。
12式地対艦誘導弾システムとスタンダードSM-6を対艦ミサイルとして比較した場合、スタンダードSM-6には12式地対艦誘導弾システムのような地形追随能力はありません、しかし、射程は遥かに長くGPS誘導により対地攻撃が可能であると共にミサイル速度がマッハ3.5と極めて早く、島嶼部では12式地対艦誘導弾システム以上に威力を発揮しましょう。
イージスアショアは、現時点ではSM-6ミサイル防衛型が開発段階で週末段階に対応しないSM-3を搭載するのみ、移動できない為の脆弱性等、欠点が目立ちますがSM-6ミサイルと併用する事で、“国家防衛システム”として機能し得る余地があります。また多額の予算を必要としますが、イージスシステム陸上機動型を開発できれば多くの装備の後継を担える。
此れには条件があります、イージスシステムの陸上機動型はそもそもメーカーも提案していません。日本一国で開発費を負担するにはリスクが大きく、技術面でもアメリカの理解と協力が不可欠で、ペトリオット後継を模索するアメリカのPAAC-4計画へ日本政府が政府主導でアメリカ政府にイージス陸上機動型を促す外交努力が非常に重要となるでしょう。
航空自衛隊のペトリオットミサイル、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾システムと03式中距離地対空誘導弾、これらの後継を一手に担える可能性があります。勿論、特に03式中距離地対空誘導弾とは運用特性と低空目標対処能力に差異がある為全て置き換えられるかは疑問符が付きますが、補給体系効率化の利点の一方、国産開発技術は障壁に遭いましょう。
しかし、これらを国家戦略という高い視点から踏まえた場合、イージスアショアは有用な選択肢といえるのかもしれません。思えばイージス艦こんごう、海上自衛隊が最初のイージス艦を導入したのは1993年で、アメリカ海軍に続いて世界で第二の導入国でした。きわめて高価ですが運用基盤と教育体系を構築したのです。日本国家防衛の骨幹装備として、国運を賭ける価値はある装備とも言えましょう。
北大路機関:はるな くらま
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イージスアショアについて、否定的な視点を前回示しましたが、今回は場合によっては重要な国家防衛システムとなる可能性を検証してみました。
SAM-X,としてイージス艦より運用するRIM-174スタンダードSM-6艦対空ミサイル、防衛省がイージスアショアを日本国内に建設する場合、この運用についても可能となる事を示しています。スタンダードSM-6は弾道ミサイル迎撃に用いるスタンダードSM-3のロケットモーターを流用しており、最大射程496kmと非常に広範囲を防空する事が可能です。
イージスアショアを自衛隊が導入する場合、これはかなりの費用を要するものですがイージス艦が艦隊防空を念頭に開発された点から、航空自衛隊のペトリオットミサイルを運用する高射群の任務をかなりの部分で代替出来る事を意味します。SM-6は共同交戦能力によりデータリンクと結ばれたイージス艦等やE-2D早期警戒機による標定と照準が可能です。
スタンダードSM-6について特筆すべきはイージス艦弾道ミサイル防衛任務に際し、現在運用しているスタンダードSM-3では対応しない週末段階のミサイル迎撃能力を付与する改良型の開発が進められている点です。また、スタンダードSM-6は対艦攻撃任務にも対応しており、遠距離の経空目標から弾道ミサイル終末迎撃に対艦攻撃までまさに多用途に担う。
ペトリオットの後継をどうするのか、SAM-Xとして航空自衛隊はこの問題に遠からず直面します。MIM-104ペトリオットはアメリカが広域防空用ミサイルとして1981年に開発したもので、設計開始は1969年と半世紀近く前に開発開始となりました。勿論順次近代化が行われ、例えばPAC-1は速度マッハ2.8でしたがPAC-2ではマッハ4.1へ改善されました。
MIM-104D-PAC-2/GEMではレーダーシーカー部分の新型化により低空小型目標への対処能力向上により巡航ミサイル迎撃能力を強化すると共に、弾頭感度と瞬発性を向上させ短距離弾道弾への限定的な対処能力を付与、イラク戦争前の2002年より配備開始となりました。現在、PAAC-4として更なる改良が模索されていますが、後継研究も進められています。
S-400ミサイル、ロシア軍が配備する射程400kmの地対空ミサイルで、S-400を筆頭にロシアの新世代地対空ミサイルは300km以上の射程を有する地対空ミサイルが開発されており、ミサイル通しの射程を競う事は比較として一考余地がありますが、ペトリオットミサイルの射程100km前後という能力は今日的に視て、防空範囲の面で陳腐化は否めません。
PAAC-4としてペトリオット改良型が模索されていますが、現在検討されているのがアメリカとイスラエルがホークミサイルとペトリオットミサイル後継として開発しイスラエル軍が運用するデイヴィットスリング地対空ミサイルです。これは射程300kmあり、MIM-104とは別物ですが、ペトリオット製造のレイセオン社ではシステムの統合を検討しています。
RIM-174スタンダードSM-6は、射程の面でデイヴィットスリングを凌駕していますし、海上自衛隊も来年度予算概算応急にて試験弾の調達を開始します。仮にこのシステムをペトリオットミサイルの後継となるSAM-Xとして運用するならば、イージスアショアの導入は地対空ミサイル装備体系という全体的に視て、費用面で理想的な施策ともなるでしょう。
SA-N-7/3K90ガドフライ対空ミサイルやSA-N-9/9K330トール地対空ミサイルというように、艦対空ミサイルを陸上型とした事例はロシア軍装備を見ますと多く、ソ連時代には標準的でした。ペトリオットミサイルの後継としてイージス艦のミサイルシステムごと陸上機動式を開発する案は一見突飛に見えますが、アメリカ以外では実用例が多く存在する。
アスター15/30対空ミサイルシステム、フランスが開発した対空ミサイルも艦載型と陸上型が存在しており、フランスに加え、イギリスとイタリアにも採用されています。アメリカを見ますと、サイドワインダー空対空ミサイルの地上発射型であるチャパラルを対艦ミサイル脅威暫定対応へ駆逐艦に搭載した逆の事例が挙げられる程度ですが、世界的には多い。
スタンダードSM-6はMk41垂直発射装置から運用されていますが、例えば輸送車に搭載し射撃時に垂直に展開する方式、自衛隊の03式中距離地対空誘導弾が用いる方式を採用している方式です。問題となるのはレーダーシステムの適合性ですが、イージス艦に四面搭載のSPY-1Dレーダーを四分割、もしくは索敵角度を限定し運用する方法が考えられます。
AN/MPQ-53、ペトリオットミサイルのレーダー部分ですが、SPY-1Dレーダーの分割地上型を仮に開発するとしたならば、こうした方式が考えられるかもしれません。この他、SPY-1Fレーダーとしてより軽量な、ノルウェー海軍のフリチョフナンセン級ミサイルフリゲイト搭載型で、素子数縮小で探知距離は落ちるものの小型レーダーも開発されています。
12式地対艦誘導弾システムとスタンダードSM-6を対艦ミサイルとして比較した場合、スタンダードSM-6には12式地対艦誘導弾システムのような地形追随能力はありません、しかし、射程は遥かに長くGPS誘導により対地攻撃が可能であると共にミサイル速度がマッハ3.5と極めて早く、島嶼部では12式地対艦誘導弾システム以上に威力を発揮しましょう。
イージスアショアは、現時点ではSM-6ミサイル防衛型が開発段階で週末段階に対応しないSM-3を搭載するのみ、移動できない為の脆弱性等、欠点が目立ちますがSM-6ミサイルと併用する事で、“国家防衛システム”として機能し得る余地があります。また多額の予算を必要としますが、イージスシステム陸上機動型を開発できれば多くの装備の後継を担える。
此れには条件があります、イージスシステムの陸上機動型はそもそもメーカーも提案していません。日本一国で開発費を負担するにはリスクが大きく、技術面でもアメリカの理解と協力が不可欠で、ペトリオット後継を模索するアメリカのPAAC-4計画へ日本政府が政府主導でアメリカ政府にイージス陸上機動型を促す外交努力が非常に重要となるでしょう。
航空自衛隊のペトリオットミサイル、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾システムと03式中距離地対空誘導弾、これらの後継を一手に担える可能性があります。勿論、特に03式中距離地対空誘導弾とは運用特性と低空目標対処能力に差異がある為全て置き換えられるかは疑問符が付きますが、補給体系効率化の利点の一方、国産開発技術は障壁に遭いましょう。
しかし、これらを国家戦略という高い視点から踏まえた場合、イージスアショアは有用な選択肢といえるのかもしれません。思えばイージス艦こんごう、海上自衛隊が最初のイージス艦を導入したのは1993年で、アメリカ海軍に続いて世界で第二の導入国でした。きわめて高価ですが運用基盤と教育体系を構築したのです。日本国家防衛の骨幹装備として、国運を賭ける価値はある装備とも言えましょう。
北大路機関:はるな くらま
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