北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

【日曜特集】第4施設団52周年大久保駐屯地祭【3】師団施設大隊の観閲行進(2013-05-26)

2017-09-10 20:05:46 | 陸上自衛隊 駐屯地祭
■第3師団・中部方面混成団
 大久保駐屯地には第3師団隷下部隊と中部方面混成団隷下部隊も駐屯しています、第4施設団の隷下部隊と共にその観閲行進も始まりました。

 大久保駐屯地は第4施設団と第3施設大隊の駐屯地です。第4施設団、中部方面隊隷下の建設工兵です。第3施設大隊、第3師団隷下の戦闘工兵です。同じ施設科部隊ですが、戦闘工兵と建設工兵ではその任務が多少違います。ただ野戦特科と高射特科程は違わない。

 施設科部隊、工兵部隊は戦場の主役といっても過言ではありません。少なくとも普通科部隊は施設科部隊の支援が無ければ陣地構築から敵陣地攻略が難しくなりますし、戦車部隊も特科部隊も掩砲所等の陣地構築には自隊施設作業班だけでは達成できない任務が多い。

 工兵は中世ヨーロッパでは城塞攻略の主兵という位置づけにあり、具体的には王侯貴族を相手に直接降伏を談判する最終局面では野戦陣地ではなく永久築城の城塞を攻略する事が不可欠でした。そして、城塞攻略には工兵の存在が無ければ包囲戦のみとなってしまう。

 日本の名城百選や城郭探訪を扱うTV番組は多々あり、日本の城塞の入り組んだ形状が如何に外敵の侵入を抑え、防御を達成するかが紹介される番組構成のものが多いのですが、工兵が城塞を攻撃する際、城壁と郭を直接破壊する事で攻撃の主導権を握る事が出来ます。

 城塞攻略、工兵部隊が近現代軍隊にて地位を得るまでの戦史、長々と紹介しますと時間を要しますので現代の工兵部隊、建設工兵と戦闘工兵部隊について少し視てみましょう。工兵の任務は、障害構成、築城、渡河、障害処理、道路補修維持、架橋、施設建設、など。

 障害構成、師団施設や旅団施設等の戦闘工兵が実施するとともに、今日では方面隊施設の建設工兵が実施する任務です。障害とは防御陣地の前地戦闘等を担う陣地の外郭部分で、鉄条網や地雷原と対戦車壕や建築物に樹木や地形の造成等により敵接近を阻害するもの。

 戦闘工兵の任務としての障害構成は、防御戦闘における要諦となるほか、戦闘に際する撤退時の遅滞戦闘を強化し、また戦闘に敵を撃破した際の陣地奪還に際しての防御強化等重要な位置づけにあります。勿論、この際に敵歩兵と近接戦闘を展開する事は十分あり得る。

 築城、塹壕構築や特火点の建築に戦車や野砲を防護する掩砲所か掩蔽壕の構築、防御戦闘の要というべき任務を補強するのが施設科部隊です。現代戦闘において築城の意義を疑問視する方も多寡は別として有無は有り得るやもしれませんが地形防御の補強は鉄則の一つ。

 野戦築城と永久築城とに築城は分かれるのですが、自衛隊では主として野戦築城を戦術研究の主眼に置いている一方、永久築城に関する基本研究などが疎かになっていなかった、と云う事は自衛隊のイラク派遣に際するサマーワ宿営地建設等で最大限発揮されたもよう。

 渡河、地形障害の筆頭の一つに挙げられる河川を突破する事を云います。渡河は基本として敵前渡河を想定するものが多く、即ち河川は戦術上意義のある地形障害故に渡河部隊等を防御する戦術配置が基本となっており渡河中砲撃や航空攻撃に近接戦闘を想定するため。

 敵前渡河等は戦闘工兵部隊困難な任務の筆頭に挙げられるものですが、架橋装備や艀等を用いた応急架橋、舟艇を用いた小規模な渡河等を重ね、橋頭堡と橋頭堡を組み合わせ部隊を対岸に送ります。勿論、渡河点は敵の優先目標ですので渡河完了後の撤収は極めて早い。

 障害処理、敵が敷設した地雷原や対戦車壕に倒木や特火点等の防御物を処理する任務が障害処理です。何も準備せず敵防御陣地へ戦車隊を突入させれば障害物で停止した瞬間を対戦車火器で、白兵突撃を実施すれば装甲化部隊でも大損害を被る為、障害処理は重要です。

 攻撃に先立つ障害処理は小銃と銃剣を駆使する近接戦闘部隊の筆頭、普通科部隊の攻撃に先駆け、地雷原の位置把握や梱包爆薬と爆導索を駆使しての障害物や地雷原爆破処理等を担い、目の前に敵が現れれば施設科隊員が小銃と銃剣で始末する、極めて過酷な任務です。

 戦闘工兵の任務は以上、障害構成、築城、渡河、障害処理、というものでこの任務は近接戦闘部隊と重なる部分です。施設科を戦闘支援部隊と区分する訳ですが、相手から見れば普通科や機甲科部隊の先頭を前進する施設科部隊は、戦闘部隊そのものといえましょう。

 実際、戦闘工兵部隊は最後の予備兵力として師団や連隊戦闘団の予備隊という位置づけにもあてられることもあります。特に障害処理に用いる爆薬は特科部隊の砲弾に込められる爆薬よりも遥かに多く、対戦車地雷は一発で戦車を行動不能に陥れる。能力は侮れない。

 建設工兵は後方で、というわけではありません。現代戦闘は総力戦、兵站維持が作戦能力の要であり、輸送力と集積力、適宜適量の補給基盤と重装備から電装品に小火器に至るまでの整備や衛生基盤の維持、情報通信常続が求められ、この最初の基盤は施設科が創る。

 道路補修維持、戦闘支援における需要な任務は後方連絡線の維持です。第一線への普及物資が無ければ基本的に事前集積品頼りとなりますし戦力回復も後方連絡線頼りとなります。通常の建設工機に依存する任務ではありますが、砲兵攪乱射撃等想定しなければならない。

 師団主後方連絡線を維持する場合、施設小隊1個に器材小隊の建機増加支援を加えた場合15kmから20kmの後方連絡線維持が可能です。無論、主後方連絡線である為に複数の連絡線構築が必要とはなりますが、この能力が例えば震災や豪雪災害にも応用されている訳だ。

 架橋、建設工兵の重要な任務です。渡河任務と重複するように見えますが全く別もので、渡河任務は戦闘行動の一環として行われるもので、攻撃目標となる為に任務完了後速やかに撤収しなければなりません。しかし架橋は補給部隊の常続的連絡線としての任務をもつ。

 特に渡河任務と異なり架橋は持続性が需要視されるため、那珂川や木曽川等の川幅の長大な大河へも架橋が必要となり、師団施設や旅団施設の戦闘工兵部隊よりも器材が大型化します。通行車両数も多く、この為、綿密な測量と連絡線との連接性も配慮せねばならない。

 施設建設、駐屯地や車両デポ等の建設を行い野外集積地や野戦整備工場建設等もこの施設建設に含まれます。デポ等は一箇所区で対応できるものではありませんし、一カ所に集積し航空攻撃や迂回攻撃を受けた場合の損害は計り知れませんので当然、分散配置されます。

 施設建設は後方に配置され、更にデポや集積地等は連絡線等通路で結ばれますし、その途中に架線があれば架橋し連絡線を確たるものとします。施設建設は応急か恒久の違いはあれ建設会社に近く、この建機を駆使し任務に当る事から建設工兵と呼ばれる所以ですね。

 国際貢献任務において自衛隊は1992年のカンボジア派遣を契機として確たる地位を構築する事が出来ましたが、その任務は建設工兵としての能力が、カンボジアPKO、国連カンボジア活動UNTACから導入された国家再建などのインフラ整備任務需要と重なった為です。

 PKO任務は近年、その役割の拡大に合わせて国家再建などの任務に加え、紛争地域への展開による文民保護という地域防護任務が求められ、我が国としては派遣の主力は建設工兵部隊である為、需要は完全に合致しませんが、インフラ整備能力は高く評価されています。

北大路機関:はるな くらま
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