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北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

新しい不安定の弧【中篇】 シリア・イラク・イエメンと地中海からアラビア海へ中東全域を覆う暗渠

2016-08-20 22:16:45 | 国際・政治
■不安定は中東全域を蝕む
 新しい不安定の弧、ここには従来の不安定の弧に含まれた中東地域が含まれますが、中東地域の全域へその懸念が及んでいる実状を無視してはなりません。

 中東地域での最大の懸念要素は、ISILの台頭やアラブの春民主化運動を原因とする内戦、以上の影響に乗じたパワーバランスの変化です。ISILの台頭は確かに脅威ではありますが、世界規模のイスラム国家運動につながることは、少なくとも暴力至上主義と回教法典曲解を訂正できない現在のISILには不可能です。アラブの春民主化運動は、リビアやシリアの内戦、エジプトの騒擾とチュニジアの動揺、懸念すべきものがありますが、これらの行動そのものよりも、その結果として生じるパワーバランスの変化が、特に力の不均衡、空白地帯の醸成、などを通じ、地域大国の枠組みに影響が及ぼすことの方が長期的な課題です。

 中東情勢では最大の焦眉は、シリア内戦とイラクISILで、シリアへはロシア軍が展開しており、米英有志連合も空爆、一歩間違えれば世界大戦へと繋がる世界の導火線です。ここでは国境なき医師団が、シリア内戦でシリア軍に包囲されたアレッポの開放、アメリカ政府へ具体的な行動を促しました、アレッポは反政府勢力が展開している為シリア軍が完全包囲しているのですが、ここを開放するようアメリカ軍に要請する、という事は、外交的な呼びかけはやりつくし、経済制裁もやりつくし、この上でやれることは、と問われますと、もう、具体的な坑道、米軍にISILに加えてシリア政府との全面戦争に入りかねない支援しか想定できない為、難しい所です、人道危機ですが、過度に介入すれば、更なる人道危機へ繋がる、という懸念を忘れてはなりません。

 シリアのアレッポ包囲、人道危機へ発展しています。シリア政府は市外への離脱への安全回廊を設定し、全市民へ市外へ離脱するよう促していますが、回廊へは検問所が設置されるとともに、徴兵適齢期のシリア市民がそのまま通行できるとの保証がない為、これを断念するのではないか、シリア軍はアレッポ全域を戦闘地域として無力化する姿勢を示していますが、このままでは離脱を断念した市民がさらに追い詰められる可能性、更に、市街地の食料などの備蓄品は既に尽きており、シリア政府が実質的なISILとの共生関係を強いられたアレッポ市民がシリア軍による解放後、どのように扱われるかを考えますと、問題は根深いところです。

 イエメン情勢について。イエメンはアラビア半島のアラビア海側、世界最大の産油地域中東とアジア地域を結ぶ重要航路に面し、世界最大の石油貯蔵量を誇るというサウジアラビアの隣国です。同じく、国境なき医師団によれば、イエメン内戦、激化しているようです。反政府武装勢力フーシ派の首都制圧、内戦の拡大と共に周辺地域へ被害が出始めた事で有志連合が介入、一時的な停戦と共にサウジアラビア軍を中心とした有志連合の任務もひと段落しましたが、停戦後の和平への端緒へ繋げる事が出来ず、結果的にサウジアラビア軍を中心とする有志連合軍が再度介入、特にこの一週間は戦闘が激化しているとの事でして、今回はサーダ州にて、学校が誤爆され犠牲者が出ました。

 不安定の当事者は安定を求めます。この必要性と合致した、ロシアの中東進出、これはこの地域に新しい枠組みを形成することとなるでしょう。シリア内戦の長期化に際し、ロシアは一貫して関与を継続してきています、シリアの独裁政権に対しては欧米諸国は距離をおくと同時に、内戦へ関与することは、例えばアフガニスタン治安作戦、例えばイラク治安作戦、などの経験から忌避し続けてきました。ここにロシアはシリア政府支援という明確な意志を示し、その上で武器供与や軍事顧問派遣など支援策を実施してきました。欧米諸国はシリア政権の崩壊を期待しつつ、しかし関与しないという空隙を生み、そこにシリアとロシアの関係が構築されたかたちです。

 イランとロシアの接近も新しい兆候で、イランは宗派との相違からこの地域へ2000年以来の脅威となっているタリバンやテロ組織アルカイダとの対決姿勢を明示してきましたが、イランはイスラム国家建設以来、その革命のさなかでの外交官拘束や各国の在外公館を占拠するなど、不法行為により経済制裁を受けており、地域的な影響力の大きさとは反面、友好関係を締結できる諸国を求めていました。確かに近年であればアメリカとイランの関係良好化という動きはありますが、経済制裁解除、という程度にとどまるもので、この空隙にロシアはイラン領内に基地使用の協定を締結、軍用機上空通過など軍事協力態勢を強めました。

 この意味するところは、中東地域においてアラブの春民主化運動が、暴動化する状況に陥った場合にロシアの介入基盤を構築できた点に他なりません。かつて、アメリカなどは冷戦時代に民主化運動が例えばソ連の支援下に、もしくはその疑いがある場合において、その運動を支援することはなく、南米や中米においては独裁に定義される政権であっても、共産化を防ぐ上で必要ならば政権支援を実施してきました。こうした行動は近年、特に東西冷戦の枠組みが崩壊して以降為されなくなり、一方で民主化運動に対しては間接的な支援、留学生受け入れや政治亡命の受け入れという形で受け入れるほか、最大限のものとしてはシリアにたいして実施しているような、民主化運動勢力への訓練受け入れ、という範疇で為される程度です。こうした消極的姿勢は、アメリカの地域的ポテンシャルが、ロシアの積極的姿勢に対し劣勢に留まることを意味し、結果的にパワーバランスの変化という形へ収斂してゆくのです。

北大路機関:はるな くらま
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コメント (3)
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