2020年7月のコロナ禍に公開された、大林宣彦監督のオリジナル企画による遺作です。亡くなられたのは同年4月なので没後の公開となりました。
大林監督は前作『花筐/HANAGATAMI』('17) のクランクイン直前に肺ガンで「余命3ヶ月」の宣告を受けており、そこから3時間に及ぶ大作を2本(!)完成させられたという、その事実だけで涙なくしては語れません。
そして2本とも明確にして切実な反戦映画であり、この遺作は前作に比べると難解さが緩和され、よりストレートな大林さんのメッセージ、というか「願い」がダイレクトに伝わって来ます。
だから、これは是非とも皆さんにも観て頂きたいです。「映画で歴史は変えられないけど、未来は変えられるかも知れない」っていう大林さんの想いを、1人でも多くの方に受け止めて頂きたいです。
大林さんが脚本に着手された'17年の時点ですでに、世の中はかなりヤバい方向に向かっており、コロナ禍になってより一層、私ら人間はヤバい本性をむき出しにしちゃってます。このまま行けば本当に大戦争になりかねない……っていうか、多分なるでしょう。
そうなる前に今一度、これまで私らが犯して来たことのムゴさと愚かさを振り返ってみようじゃないかと、そういうコンセプトで創られた作品なのは間違いないと思います。
ながら見のテレビやインターネットだと「他人事」で済まされかねないけど、暗闇で集中しながら観る映画、皆がより感情移入しやすい映画ならば、若い世代にも願いが届くかも知れない。そういう事だろうと思います。
私は受け止めました。もう若くはないけど戦争は知らず、どこか対岸の火事みたいに思ってたけど、天災や疫病と同じように戦争も今そこにある危機と恐怖と理不尽であり、人間というモンスターがこの世に存在する限り、いつ我が身に降りかかってもおかしくないことを痛感しました。
もちろん、そこは大林さんですから重くならず、作品は遊び心満載のエンターテイメント大作に仕上がってます。だからこそ伝わるんですよね!
私のフェイバリット日本映画は大林さんの『さびしんぼう』('85) だけど、生前の黒澤明監督も同作を大変気に入られ、若い世代へのバトン役を大林さんに直接託されたんだとか。大林さんはそれをずっと意識されてたそうで、この映画には黒澤監督の想いも込められてるワケです。
敬愛申し上げる大林監督が文字通り命懸けで、最期の力を振り絞って撮られた渾身の大作を、劇場で観られなかったことが残念でなりません。この状況はほんと戦時下に近いのかも知れません。
さっき大林監督が最期の力を振り絞って……なんて書きましたけど、実際は構想しておられた更なる「次回作」への繋ぎとして、久々(本格的にロケするのは20年ぶり)に故郷の尾道で「気軽に楽しめるエンターテイメント」でも撮ってみるかって、そんなノリだったんだそうです。ホントにまったく、なんて人だ!w
今夜限りで閉館する、尾道で唯一残る映画館「瀬戸内キネマ」を訪れた青年3人(厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦)が「日本の戦争映画大特集」の最終オールナイト上映で映画の世界にタイムスリップするという、確かにパッと見はありがちな娯楽ファンタジー。
だけど実際は、若者3人が戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争下の沖縄などを巡り、そこで出逢って恋に落ちた女性たちを救おうとするんだけど、結局1人も救えないまま広島であの夏の日を迎えてしまうという、悲惨と言えばあまりに悲惨なストーリー。当たり前です、それが戦争なんです。
そこで描かれるのは敵国との戦いよりも、むしろ「お国のため」という大義名分の下、日本人が日本人に対して現実に犯して来た残虐非道な行いの数々。状況によって人間が如何に冷酷になれるか、そして如何に同じ過ちを何度も繰り返して来たか、それが全て「映画」であるからこそ痛烈に思い知らされます。
ヒロインたちを新人の吉田玲、成海璃子、山崎紘菜、そして常盤貴子が演じ、歴史上の人物たちを高橋幸宏、小林稔侍、白石加代子、入江若葉、尾美としのり、蛭子能収、片岡鶴太郎、南原清隆、武田鉄矢、村田雄浩、稲垣吾郎、柄本時生、浅野忠信、渡辺裕之、笹野高史、川上麻衣子、伊藤歩、根岸季衣、渡辺えり、窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、寺島咲、有坂来瞳、中江有里etc…と、大林映画の常連やゆかりの俳優さんたちが演じておられます。隅から隅まで凄い顔ぶれで、まさに最終作に相応しい豪華キャスト!
ちなみにヒロインたちの役名が、成海さん=斉藤一美、山崎さん=芳山和子、常磐さん=橘百合子。私と同じく'80年代に青春を過ごされた映画ファンなら、それらの名前を聞いただけでキュンと来てジンと泣けるのでは?
そう、我らが金字塔=尾道三部作『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』のヒロインたちと同じ名前です。これは脚本執筆に参加された内藤忠司さんの提案だったそうだけど、やっぱり大林映画の集大成、有終の美を意識せずにいられません。
もちろん、大林監督と言えば映像の魔術師であると同時に、脱がせの魔術師。今回も山崎紘菜さんと成海璃子さんが当たり前のように脱ぎ、それぞれ濡れ場も演じておられます。特に成海さんは私のストライクど真ん中な女性なもんで、相手役の細田善彦くんがチョー羨ましいです。
とはいえ、前作『花筐』もそうだったけど、オールヌードでありながら乳首やアンダーヘアはCGで見えないよう加工されており、さながら昔のアニメみたいになってますw
観客をストーリーに集中させる為の配慮なのか、あるいは今時そうでもしないとタレント事務所の許可が下りないのか?
映画の中じゃ意味のあるヌードでも、そこだけ切り取られてネットに上げられたら単なるエロ画像になっちゃう。それをブログに載せて何度も公開停止処分を食らってるバカも巷にいますからねw(私のことです、念のため)
そんな風に映画を取り巻く環境も時代と共に変わって来たけど、CGよりも手作り特撮に凝りまくる我らが大林映画の温かみは、最後の最後まで健在すぎるほど健在で、今回もやっぱり面白かった! いやホント、3時間の長尺がちっとも苦になりません。ほんとにオススメです!
私は正直なところ、数ある大林映画の半分も実は観てないんだけど、観た作品はどれも例外なく、いろんな意味で楽しませて頂きました。クリエイターの端くれとして少なからず影響も受けて来ました。間違いなくマイ・フェイバリット映画監督です。
さようなら、そして本当にありがとう! 大林宣彦監督!
橘百合子…懐かしい名前です。セーラー服の女の子と自転車を見ると「百合子さん」を思い出します。
ビデオなどのジャケットになっている百合子さんは、スチルで見るとたいして美少女じゃないんですよねw。しかし映画の中の百合子さんは実に可憐です。
特に渡船の上で夕日を浴びる百合子さんは、言葉で言い表せないくらい美しいです。ジャケットは映画のワンシーンにして欲しいです。
映像の魔法と言ったら富田靖子に失礼かもしれませんが…。
この映画に出演された吉田玲さんは柴口勲さんの映画「隣人のゆくえ」という映画に金子みすゞというどこかで聞いたような役名の少女で出演されていますが、この映画を見た大林宣彦さんは玲さんを海辺の映画館のキャストに起用したそうですが、その隣人のゆくえが来週からシネマロサにて上映されるのでお時間あるときに見てください。あなたのハートに何が残りましたか?©木村奈保子さんと問い掛ける作品です。