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『はぐれ刑事純情派』2―#02

2019-02-17 12:00:21 | 刑事ドラマ'80年代









 
1989年春にスタートした『はぐれ刑事純情派』第2シリーズでは、若手刑事枠が新藤刑事(木村一八)から浅野刑事(吉田栄作)にバトンタッチ。実は引き続き出演予定だった木村さんが暴力事件を起こして降板、急きょ吉田さんにお鉢が回って来たんだそうです。

まだ初々しい吉田さんの出番はそれほど多くない第2話ですが、これは切なくも温かく、忘れがたいエピソードです。


☆第2話『悲しき15歳、春を売る女』

(1989.4.12.OA/脚本=篠崎 好/監督=吉川一義)

安浦刑事(藤田まこと)は浅野刑事と外食中、少女売春の現場に出くわし、サチエという15歳の少女(増田未亜)を保護するんだけど、身柄を引き取る両親がいないと言う。

安浦がサチエをアパートまで送って行くと、部屋は散らかり放題で電気もガスも停止状態。どうやら彼女の父親はとっくに子供を捨てて行方不明、母親も新しいオトコを作って育児放棄し、もう3ヶ月も帰宅してないらしい。

しかもまだ幼い妹が2人いて、サチエは妹たちの食費を稼ぐために仕事を探し、売春組織にスカウトされた。彼女は学校の教育も受けておらず、ゆえに売春に対する罪の意識がそもそも無いのでした。

だけど、その割りに安浦が警察の人間であることを知った時、明らかにサチエは怯えていた。その理由はいったい何なのか? イヤな予感を抱えつつ、安浦は横須賀にいるサチエの母親=八重(赤座美代子)に会いにいきます。

八重は新しいオトコ(平泉 成)に自分が子持ちであることを隠してるようで、しばらく帰る気は無いらしい。そして安浦は、衝撃的な事実を彼女から聞かされます。

「サチはもう15なんですよ? 妹や弟の面倒ぐらいは……」

「弟? 子供は女の子3人じゃないのかね?」

「いいえ、4人ですけど。3つになる男の子が1人。アキラっていいます」

「アキラ……」

八重には結婚歴がなく、子供たち4人の父親はそれぞれ別人で、出生届けも出してないらしい。だから娘たちは学校にも通えない。どうしょうもないクズ女です。

しかし問題は、アキラという男の子(伊藤淳史)の行方です。近隣住民も2ヶ月くらい前まで男の子の泣き声をよく聞いたのに、最近は気配が無いと証言。しかもサチエがベビーカーを押して夜中に出ていく姿まで目撃されている!

そんな捜査が進んでるとも知らないサチエは、未遂に終わった売春のギャラを貰うため1人で組織=ヤクザの事務所を訪れますが、卑劣なヤクザに万札1枚で処女を奪われてしまいます。

街中を必死に探し回った安浦は、駅のガード下で震えながら佇むサチエを発見。彼女が握りしめる1万円札を見て、すべてを察します。

「メグミちゃんもミユキちゃんも、心配してるぞ? ……アキラくんも」

「!!」

「アキラくん、どこにいるんだ」

「……ごめんなさい」

アキラの遺体は近所の公園に埋められてました。

幼いアキラは聞き分けがなく、ある日、アイスクリームをしつこくねだられたサチエが、ついカッとなって突き飛ばしたら、アキラは頭を打って気を失ってしまった。怖くなったサチエは妹たちを連れて外へ出掛け、帰って来たらアキラは冷たくなっていたという。

署に駆けつけてサチエを怒鳴りつけ、殴ろうとする八重に、安浦は言います。

「あんたにこの子を殴る権利があるのか!? あんたに出来なかった子育てを、あんたに替わってこの子は……三人の子供の面倒をちゃんと見て来たんだ! 投げ出しもせず懸命に、母親替わりを務めようとしてたんだよ! その間あんたはいい加減な女やってただけじゃないか!」

「やめて! やめて下さい! お母さんは悪くないんです、悪いのは私なんだから!」

そう叫んで八重をかばったのは、ほかでもないサチエです。

「お母さんはね、一生懸命働いて、学校に行かない私に、ちゃんと字だって教えてくれたんだもん。ほら、野沢幸恵って、ちゃんと名前だって書けるんだから……幸せに恵まれますようにって、お母さんつけてくれたんだもん」

どんなにクズな女でも、母親は母親。どんな酷い目に遭わされても、親だけは否定できないもんです。

さすがの八重も泣きながらサチエを抱きしめますが、たぶんクズな生き方は一生変えられない事でしょう。実の親による虐待が増え続ける現実社会を見れば明白で、世の中はとっくに破滅なんです。たぶんこのエピソードも、現実に起こった事件がモデルになってる筈です。

だけど、これはドラマなんです。現実社会は破滅でも、ドラマなら登場人物を救うことが出来ます。検死の結果、アキラの死因は窒息死と判明。つまりアキラが死んだのは、サチエに突き飛ばされたからじゃなかった!

そう言えば、八重の新しいオトコを演じたのは平泉成さん。まだ『はみだし刑事情熱系』の刑事役で好感度を急上昇させる前の平泉さんが出てて、何も悪い事してないワケがありませんw

そう、真犯人は平泉さんだった。まだ八重が子供たちのアパートに通ってた頃、「ほかにオトコがいる」と思い込んだ平泉さんはアパートの場所を突き止め、留守中に忍び込んだ。それがあの、アキラが気を失った運命の日で、目を覚ましたアキラに騒がれた平泉さんは、夢中でその口を塞ぎ……

「殺すつもりなんか無かった……殺すつもりなんか無かったんです!」

そう叫んで泣いて見せる平泉さんに、いつも通り表情も変えずに放たれた、安浦刑事の一言。

「みんなそう言うんだ」

これぞハードボイルド! めちゃくちゃ格好良いです。ただの人情デカじゃ終わらない、これぞ藤田まことの真骨頂! この人にしか出せない凄味です。

しかし、売春組織も摘発され、事件はいちおう収束したものの、サチエたちが抱える問題は何一つ解決してません。夜の刑事部屋で独り、思いを馳せる安浦に、彼の良き理解者である横溝署長(梅宮辰夫)が声を掛けます。

「良かったな、あの子が殺人犯にならなくて」

「はぁ……それだけが救いです」

「待ってるぞ」

「は?」

「行く前にどうしても、やっさんとデートしたいんだとさ」

署長の黒くて広い背中の後ろに隠れてたのは、サチエでした。

最初に出逢ったファーストフード店で、美味しそうにハンバーガーを頬張るサチエを眺めながら、安浦はしみじみ言います。

「野沢幸恵か……いい名前だな。きっと、幸せになる」

「おじさん……」

「幸せにならなきゃな」

安浦の尽力もあったんでしょう、サチエたち姉妹は行政の手配により学校へ通い、それぞれ新たな人生を送ることになりました。改心した母親と4人で一緒に……なんていう甘いファンタジーにならないで良かったと思います。

このエピソードには泣かされました。現実にあり得る話どころか、実際はもっと暗く厳しい話ばかりだろうと思います。それをフィクションの形で世に知らしめつつ、せめてもの救いを描くことで、彼ら彼女らの幸せを祈る。創り手たちの優しさに胸を打たれます。

再三書いてきたように、藤田まことさんが演じることで、その温かさにリアリティーが生まれるワケです。見るからに無垢そうなゲスト=増田未亜さんのキャスティングも完璧でした。

増田未亜さんは当時16歳。小学生時代から児童劇団に所属した生粋の女優さんで、'87年のスポ根ドラマ『はずめ!イエローボール』で初主演。翌年リリースされたVシネマ『宇宙防衛少女イコちゃん2』にも主演し、マニア層からの支持も獲得。そして'89年春にはレコードデビューも果たし、今回の『はぐれ刑事純情派』へのゲスト出演はちょうどその時期でした。

2007年頃まで活躍されてましたが、刑事ドラマへの出演は少なかったようで、Wikipediaには2001年『科捜研の女』第3シリーズ第7話ぐらいしか記載されてません。

ヌード写真は24歳頃のものと思われますが、変わらぬ清楚さで本作(16歳時)とのギャップを感じません。萌えますw
 

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3 コメント

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Unknown (biti)
2020-08-23 00:20:28
藤田まこと様、昔からの大ファンです!
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Unknown (KT Jackson)
2021-03-13 02:34:26
こんばんは。
観たことない回だと思いますが、
情景がありありと浮かび、読みながら
泣いてしまいました。まるで、目の前に
その回がブラウン管から流れてるかのよう。

考えさせられる話ですね。
私の友人がまさにサチエのような家庭でした。
中学からスナックで働き、親の借金を
返していた話を思い出しました。
また別の話で、自分の子供にドッグフードを
食べさせる親を見たという話を聞いたときは
心をえぐられる思いをしました😭
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Unknown (harrison2018)
2021-03-13 09:19:29
1つ1つがニュースにならないほど、そんな事実が数え切れないくらい沢山あるんでしょうね。ほんと胸が痛むし、せめてドラマの中では幸せになってもらいたいっていう、スタッフの優しさに泣かされます。

で、それを藤田まことさんが演じるからこそ嘘臭くならないんですよね! あんなお顔なのに、なぜかカッコいい!w 出てくる女性キャラがみんな惚れちゃうのも納得するしかありません。
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