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『太陽にほえろ!PART2』#06

2019-02-02 12:00:10 | 刑事ドラマ'80年代









 
この第6話は明らかに、パート1におけるスコッチ刑事(沖 雅也)の主役回・第242話『すれ違った女』のリメイク的な意図で創られた作品と思われます。

が、スコッチとは一味違った喜多刑事(寺尾 聰)の軽妙なキャラと、10年という歳月の流れ=時代の変化によって、ストーリーもテイストもかなり違ったものになってます。


☆第6話『心満たされず…』

(1987.1.9.OA/脚本=小川 英&尾西兼一/監督=高瀬昌弘)

冒頭、深夜における事件発生で、宿直の喜多さんが寝起きで出動し、被害者から事情聴取しながら欠伸をするというw、あまりにラフな姿勢からしてストイックなスコッチとは好対照。というか、七曲署全史においてもこんな刑事は他にいませんw

それは寺尾さんのキャラだから許されるワケで、影響を受けたブルース(又野誠治)が勘違いして(対抗意識を燃やして?)篁係長の前で鼻くそをほじったり、どんどんお行儀が悪くなって行くのは困ったもんでした。かつてはマカロニ(萩原健一)も所構わずツバ吐いたりしましたけど、おっさん臭いブルースがやると下品なんですよねw

それはともかく、事件は大手建設会社=東日建設の課長を乗せた車が襲撃され、仮面を被った犯人にボストンバッグごと書類を盗まれた、というもの。

犯行に使用された凶器はスタンガン。当時はまだ馴染みの無い代物で、わざわざ「それはアメリカで普及してる痴漢撃退用の……」なんて説明が入るところに時代を感じます。

被害者の課長も運転手も、犯人が小柄で耳にピアスの穴があった事から、女性の犯行じゃないかと証言。男がピアスをするのもかなり珍しかった時代です。

しかし、被害者である東日建設の様子がどうもおかしい。調べたら大物政治家との癒着が噂されており、恐らく奪われたのはただの書類ではなく、賄賂として運搬中だった現金だと喜多さんは睨みます。

となると、犯人はその日にリベートの金が運ばれることを知っていた、すなわち社内の人間である可能性が高く、捜査一係は内部調査を開始。

そして喜多さんは、外資部の秘書を務める女子社員=千鶴(相本久美子)に眼をつけます。

役職的に千鶴はリベートの裏事情を知り得るポジションであり、事件当夜の確かなアリバイも無い。しかも同僚OLたちの話によると、彼女は以前から事件そっくりな裏金強奪計画を、トイレにおける井戸端会議などで話していたという。

本当に犯人が女性なら、確かに千鶴は怪しい。しかし当人は「冗談で言っただけよ」と涼しい顔。資産家の娘で金にも困っておらず、動機がまるで見当たらない。この辺りまでの展開は、事件の内容は違えど『すれ違った女』とよく似てます。

千鶴にちょっと気があるDJ(西山浩司)は「彼女の計画を聞いた他の誰かが実行したのでは?」と、千鶴をあくまで疑う喜多さんに異を唱えます。そんなやり取りもボン(宮内 淳)とスコッチの間にありました。

ただし、喜多さんとDJの場合は「千鶴がシロかクロか」で5千円を賭けるという不謹慎さでw、その辺にもキャラの違いと時代の流れが感じられます。

とにかく喜多さんは、千鶴を徹底的にマークします。彼女は喜多さんと同じ城南大学出身の後輩であり、資産家に生まれて何不自由なく育てられた境遇もよく似てるのでした。スコッチが「すれ違った女」の抱える虚無感に共鳴したのと同じように、喜多さんも自分自身の影を千鶴に見たのかも知れません。

千鶴は大企業に勤めながら夜は清掃のアルバイトに励み、休日にもまた別の仕事をするというワーカホリックぶり。そこに彼女の抱える虚無感らしきものが見え隠れします。

共犯者がいる可能性を考えた喜多さんは、千鶴がいつも身につけてる、いまいち彼女には似合ってないブローチに眼をつけます。調べると、人事課長の島崎(清水章吾)が千鶴の誕生日にプレゼントしていたことが判明。どうやら彼女は、妻子ある島崎課長と不倫の関係にあるらしい。

当然ながら島崎は全面否定。事件当夜のアリバイもあり、共犯の線は限りなく細いんだけど、彼の態度に喜多さんは不審を抱きます。

折しも千鶴の自宅近くで、犯行に使われた上着や帽子が発見されます。その帽子に、彼女の髪の毛が付着していた!

あまりに出来すぎた展開を訝しながら、喜多さんは東日建設に乗り込み、あえて島崎課長を含む同僚たちの目の前で、千鶴に容疑の確定を宣告します。その乱暴なやり方に、さすがの千鶴も「サイテーな先輩よ!」と激怒。会社を飛び出し、喜多さんを振り切って姿を消しちゃいます。

千鶴が向かった先は、2時間サスペンスでお馴染みの岸壁。島崎課長に呼び出された彼女は、そこで見知らぬ若い男に危うく崖下に突き落とされそうになるも、駆けつけた喜多さん&DJに救われます。

細身で小柄なその男の耳には、ピアスの穴が! 現金強奪の真犯人はこのチャラ男であり、陰で操ってるのは島崎課長。自分に疑惑の眼が向けられるのを恐れ、自殺に見せかけて千鶴を殺そうとしたのです。

「嘘よ! そんなの嘘よ!!」

どうやら千鶴は、本当に何も知らなかったようです。彼女が冗談で話してた裏金強奪計画を聞きつけた島崎は、それを利用することを思いつき、いきつけの店のチャラいバーテンを金で雇い、「男装した女性」に見せかけて犯行に及ばせた。大金欲しさと、持て余してた千鶴の愛情から逃れる為に……

島崎が怪しいと睨んでた喜多さんは、わざと目の前で千鶴に容疑確定を宣告し、彼を罠に嵌めたのでした。

島崎の逮捕&送検を千鶴に報告し、かつて何不自由ない生活の中で虚しさを抱えてた自身の心情を、喜多さんは彼女に吐露します。

「キミを見た時、あの頃のオレと同じ……いつでも何かに苛立って、傷ついてる自分をどうすればいいか分からないでいる……そんな風に見えたんだ」

「……真剣だったんです。あの人への気持ちだけは本当だったんです」

「分かってる」

「……私、もう一度1人でやってみます。先輩!」

「頑張って。後輩!」

豊か過ぎるがゆえに感じる、底の深い虚しさ。1987年初頭という、まさにこれからバブルに突入する時期ならではのテーマで、'70年代とは「虚しさ」の種類がちょっと違うかも知れません。

そこに「不倫」が絡んで来るのは、ヒロイン以外に真犯人を設定する為に必要だったにせよ、そのせいで話の焦点がボケちゃったきらいがあります。まぁ、これもまた「時代」ですよね。

とにかくスコッチ編の『すれ違った女』と多くの共通点がありながら、結末は真逆。犯人の正体は裏の裏をかいて「男を装った女に見せかけた男」で、主役である喜多さんはDJとの賭けに完敗ですw

『すれ違った女』も殺人が絡まないお話で、決して重くはないんだけど、この『心満たされず…』はやたら軽く感じますね。さすがは'80年代。レビューを書いててもイマイチ手応えがありませんw

ヒロイン=千鶴に扮した相本久美子さんは、当時30歳。1974年に近藤久美子の芸名で歌手デビュー、'76年に本名の相本久美子に改名してからバラエティー番組『TVジョッキー』の司会等で注目され、人気アイドルの仲間入りを果たされました。

デビュー翌年から女優業へも進出、刑事ドラマは『非情のライセンス』『新幹線公安官』『メイド刑事』『ハンチョウ』等にゲスト出演されてます。

この『太陽にほえろ!PART2』第6話が放映されたその年に結婚され、しばらく芸能活動を控えておられましたが、離婚を経て、子育てが一段落した1999年頃から本格復帰。現在も女優・歌手・タレントとして活躍されてます。
 

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