ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『特捜最前線』#085

2020-03-31 00:00:10 | 刑事ドラマ'70年代










 
☆第85話『死刑執行0秒前!』

(1978.11.15.OA/脚本=長坂秀佳/監督=天野利彦)

工事現場から白骨死体が発見され、その特徴から特命捜査課の船村刑事(大滝秀治)が14年前に携わった一家惨殺事件の、ただ1人だけ行方不明になってた被害者であることが判明します。

船村は嬉しそうに、刑務所で服役中の阿久根(河原裕昌)という死刑囚にそれを報告します。船村は所轄に逮捕された阿久根が無実であることを確信してるのに、当時は証拠が無く彼を救ってやることが出来なかった。だけど発見された遺体には、真犯人が誰であるかを示す証拠が残っている!

だけど、あまりに遅すぎた。なんと阿久根はすでに死刑執行日時が決まっているのでした。それは翌日の午後3時。もう残り約26時間しか無く、それまでに真犯人を逮捕しないと死刑執行は阻止できない!

船村は、君塚(桑山正一)という古書店のオヤジを緊急逮捕します。

穏やかそうな顔をして実は誰よりも鬼畜な一面を持つ、伊達や酔狂で頭を禿げ散らかしてない鬼刑事の船村は、17年前に容疑者の1人だった君塚の良き相談相手を装いながら、これまでずっと彼をマークして来たのでした。

17年前に殺されたのは、事業に失敗した君塚を助けたい一心で借金した彼の妻を、自殺にまで追い込んだ悪徳金融業者とその家族。そして1人だけ行方不明になってたのが、用心棒として同居してた暴力団員。ようやく発見された用心棒の遺体はあばら骨が折られており、そして君塚には空手の心得がある。

つまり犯行時に襲ってきた用心棒を、君塚が空手の突きで返り討ちした。ナイフの指紋は消せてもあばら骨は元に戻せず、君塚は証拠隠滅の為に用心棒だけ遺体を山中に埋めた……と船村は推理し、長年彼とつき合う中でそれを確信したワケです。

だけど、用心棒を殴ったのが君塚であることを決定づける証拠は無く、本人を自白させる以外に阿久根の死刑執行を阻止する方法は無い。

就職と結婚を控えた大事な時期の娘が2人いる上、長年親しくして来た船村に裏切られて怒ってる君塚を、担当検事による妨害も受けながら、残り20時間足らずで果たして落とせるのか!?

神代課長(二谷英明)はじめ特命捜査課メンバーたちが全力でサポートするも、やはり取調べは難航を極めます。そりゃ17年間も守り抜いて来たものを、今さら赤の他人を助けるために放棄できない君塚の気持ちもよく解ります。

早朝、疲れ果てて居眠りを始めた君塚に、船村は「盆と正月ぐらいにしか飲まない」というとっておきのお茶を1杯入れてやり、取調べを中断します。

半ばあきらめ、藁をも掴む思いで、君塚と再婚した現在の妻を訪ねてみたら、意外な展開が待ってました。やはり船村を裏切り者として憎んでたはずの妻が、彼を招き入れ、ある場所へと案内するのでした。

そこは、君塚が「古本を整理する」と称してよく籠ってた、ふだんは鍵がかかってる開かずの倉庫。君塚が連行された後、何かありそうな予感を覚えた妻が初めてそこに入ってみたら、中には木彫りの仏像が無数に並んでいたのでした。

「これは、君塚の14年間の苦しみの跡です……こんな物を彫らずにいられないほど罪の意識に苦しんでいた……それなら……それならあの人を救う道は、法の裁きを受けさせてやる以外、無いんじゃないかって……」

救える! 阿久根も君塚も! まだ間に合う!

再び君塚の取調べ……と言うより説得を始めた船村の前に、今度は弁護士になる為の国家試験を間近に控えた、君塚の次女(清水めぐみ)が立ちはだかります。

憶えたての法律を武器に船村たちの捜査の違法性を説く彼女に、船村は例によってハイテンション&早口による長台詞をまくし立てるのでした。

「我々は法律を論じてるワケじゃない。心です! 法律ならアンタの方が詳しいかも知れない。しかし弁護士というものは真実を無視し、無実の人間を死刑にしてまで犯罪者の人権を庇うものだと思ってるとしたらそりゃ違う! あなたも将来弁護士の道を歩もうとしてる人ならこれだけはよぉく解ってもらいたい! 弁護とは、真実に眼を瞑って誤魔化すことじゃない! お互いに真実をさらけ出した上で犯罪者の人権を庇うことだ!」

「…………」

「解るね? 私は、お父さんに真実を語らせることが、お父さんを助けることだと思う。お父さんは14年間、苦しみに苦しみ抜いた。私は、君塚さんを助けてあげたい!」

君塚が法律の専門書を主に扱う古書店を経営し、我が娘に法律を勉強させたのも、決して自分を守る為じゃなく、逃れようのない贖罪の気持ちがそうさせたんだと言う船村の説得に、次女は言葉を失います。そしてそれを横で聞いてた君塚もついに、17年前の犯行を認める供述を始めるのでした。

でも、君塚の自白だけでは決定済みの死刑執行を中止させることは出来ません。客観的な物的証拠、たとえば真犯人しか知らない新事実を君塚が提示しなければ、阿久根の無実を証明したことにはならないのです。

方法はただ1つ、17年前に用心棒の遺体を埋めた場所を君塚が差し示すこと。残された時間は僅か3時間!

特命捜査課がヘリをかっ飛ばし、君塚を現場近くまで連れて行きます。が、手助けしてやれるのはそこまで。君塚が自分の記憶だけで具体的な場所を示さないと証拠にはなりません。

けど、なにせ遺体を埋めたのは17年前のこと。しかも造成工事により地形は大きく変わっており、君塚は場所を特定することが出来ません。もう時間がない!

「オヤジさん、だいたいこの辺だというヒントだけでも教えてやるワケにいかないんですか!?」

焦る吉野刑事(誠 直也)に、橘刑事(本郷功次郎)が釘を刺します。

「素人みたいなこと言うな! 君塚が自分の記憶で此処だと言わない限り客観的物的証拠にはならん! オヤジさんが何のために苦労してると思ってる!?」

「しかし事情が事情です! 分かりっこありませんよ! あと40分で阿久根は死刑になっちまうんですよ!?」

そこで吉野は、気づかなくていいことに気づいてしまいます。いや、むしろ、今さら気づいたんかい!?と言うべきかも知れませんw

「あと40分……この時間さえ逃げきれば阿久根の死刑は執行される。そして来年には時効! まさかあのオッサン、それを狙ってるんじゃないでしょうね!?」

ずっと黙って君塚の右往左往を見つめていた船村が、そこでようやく口を開きます。

「バカなこと言うんじゃない! あの人の眼を見てごらん。無罪になりたければ勝手な場所を指差せばいい。そうすれば簡単に有罪の確証は崩れる。間違いなく無罪になる。それなのにあの人はああして一生懸命思い出そうとしてる。信じて待つ!」

「……すみません」

君塚の家族たちも固唾を呑んで見守ります。もしその場所を君塚が指し示したら、自分たちは殺人犯の家族になってしまう。それでも、彼女らは叫びます。

「お父さん、がんばって!」

そこに覆面パトカーを爆走させた紅林刑事(横光克彦)が駆けつけます。

「オヤジさん、ありました! ありましたよっ!!」

彼が不動産屋からふんだくって持って来たのは、この山を造成する前の下見写真。現在の地形図と照らし合わせれば、当時のこの場所が再現できる!

「そうだ、この道を上がって来た! あの杉の木を右に見て……あっちだっ!!」

降りしきる雨の中、二枚の図面と睨めっこしながら、君塚は用心棒の遺体が発見された位置へと近づいて行きます。

船村は、心の中で叫びます。

「そこだ、君塚さん……そこなんだ!」

そして君塚が振り返り、叫びます。

「船村さん……こっ、ここだ……間違いない、ここだあっ!!」

その瞬間、腰が抜けたように船村が座り込み、観てる我々視聴者の涙腺も爆発しますw

「かっ、課長に報告しろ! 早くっ!!」

「はいっ!!」

間一髪、阿久根の死刑執行が中止されたのは、まさにそのスイッチが押されようとした瞬間でした。けど、タイトル通り「0秒前」なら間に合ってませんw 実際は0.05秒前ってところでしょう。

足に力が入らない船村は、四つん這いになって駆け寄り、泥だらけになりながら君塚と抱き合います。こうして死刑囚=阿久根の生命が救われ、同時に真犯人=君塚の魂も救われたのでした。

「旨いお茶を、ありがとうございました」

「裁判の時には、弁護側の証人になるからね!」

満面の笑顔でOKサインを送る船村の頭は、普段にも増して激しく禿げ散らかってるのでしたw (おわり)


いやぁ~ホント、このクライマックスは何度観ても号泣させられます。冷静に振り返れば矛盾点、強引すぎる点が色々ありそうだけど、とにかく脚本と演出の勢いで突っ走り、芝居の熱量で見せ切っちゃう。

同じヒューマン路線でも品が良すぎる『太陽にほえろ!』じゃ到底できない芸当で、号泣率の高さにおいては『特捜最前線』の独壇場。特に船村刑事=大滝秀治さんの熱量に敵う者はどこにも見当たりません。参りました。脱毛、いや脱帽ですm(__)m

『太陽にほえろ!』にもボス(石原裕次郎)が死刑囚を冤罪から救う話があり、それはそれで名作なんだけど、やっぱり裕次郎さんゆえスマートかつヒロイックな話になっちゃう。観てる我々は心酔しつつも号泣には至らない。

それはそれで『太陽~』の魅力であり、私はどっちも好きだし、いくら『特捜~』が泣けても二者択一なら迷わず『太陽~』を選びます。そこは単なる好みの問題であり、優劣はつけられません。とにかくどっちも刑事ドラマ史に永遠に残る金字塔です。

セクシーショットは、君塚の長女を演じられた朝加真由美さん、当時23歳。ドラマデビューは'73年『ウルトラマンタロウ』のヒロイン=白鳥さおり役(#16にて降板)で、刑事ドラマは『Gメン'75』に5回、『特捜最前線』に2回ゲスト出演されたほか、現在に至るまで数多く幅広く活躍されてる正統派の女優さんです。
 

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