シウリザクラの果実。名前の由来。バラ科サクラ属(ウワミズザクラ亜属)。
シウリザクラの果実は球形の核果で緑から黒く熟す。核には2本の線が入り、苦くて食べられない。
シウリザクラの名はアイヌ語由来だと言われる。「日本の野生植物・木本Ⅰ(平凡社)」にもそうはっきり書いてあり、辻井達一(元・北大植物園園長)の「日本の樹木」では、「シウリ・ニ」「シウ・ニ」は「苦い木」の意味でシウリザクラのことをそう呼んだから「シウリザクラ」の名がついたのだろうとしている。
シウリザクラの学名も「Prunus ssiori」となっているから、「シウリ・ニ(苦い木)」から学名も標準和名も名付けられたというのは、その通りと考えられる。
ただ、本当にアイヌが「シウリ・ニ」と呼んでいたかという点については疑問符がつく。「アイヌ植物誌(草風館)」や「アイヌと植物(アイヌ民族博物館)」にはシウリザクラに関する記述はない。
アイヌに限らず、古代人が植物に名前をつけて呼ぶのは、「食べられる」「薬になる」「繊維がとれる」など有用な植物に対してのみで、利用しない植物にまで名前をつけることはしない。
シウリザクラの学名命名者はフリードリヒ・シュミットというロシアの食物学者らしいが、彼が新種登録するときに、シウリザクラのことをアイヌにいろいろ質問しただろうと考えられる。
「これは何か」という問いに対して、名前はないので果実の特徴から「苦い実の木」と答えたのではないか。アイヌの言う「シウリ・ニ(苦い木)」から学名も標準和名もつけられたのであるから、アイヌ語由来だというのは正しいが、「シウリ・ニ(苦い木)」はシウリザクラのアイヌ語名であるとは言えない。
アイヌにとっては、名もない木であり、苦い木ということなのだと思う。