集合的無意識については、ユングの見解についてまだまだ理解不足がありますので、結論じみたことは言えないのですが、その他本書「無意識の心理」において、特に印象に残った記載がいくつかあります。一つは、エネルギー保存の法則を19世紀最大の発見であると述べたくだりで、補償作用についての論考を見ても、ユングにとってこの物理的法則が心的エネルギーにおいても適用されるというインスピレーションが最初からあったことは間違いのないことだと思います。本書において、ユングはこのエネルギー保存の法則を発見した、マイヤーの心理分析を行い発見に至るまでの過程を集合的無意識に関連付け論じています。マイヤーは物理学者ではなく、医師であったのですが本来は、このような法則は物理学者などにより創出されるべきものであったにも関わらずマイヤーが見出したのには理由があり、彼は発見したのではなく、思い出したのだそうです。思い出すというのは比喩なのですが、これは彼が直覚をもって原像(集合的無意識)から引き出した結果ということで、その源泉は古くから伝わる霊魂不滅や仏教における輪廻の思想にあります。
さて人類の長い歴史の刻印たる集合的無意識ですが、この恐るべき特徴は善のみならず人々が行ってきた悪の部分も刷り込まれているという点で、集合的無意識自体独自の生命ないし魂を持っているということです。しかもこの声なき声は非常に強く、自分の意志を凌駕し、無意志状態に陥し入れさせることもあります。これが所謂分裂病の患者に見られるキツネ憑きの状態です。集合的無意識はこの点大変危険なものであると言えるのですが、それに至る理論的支柱として、古代ギリシャ哲学のヘラクレイトスの思想におけるエナンディオドロミーの法則を引用しています。エナンディオドロミーとは、一言でいうと「背反」ということですが、すべてのものは対立関係の中の調整機能の原理の中に存在し、「一切のものはいつかその反対物に転化する」という理論です。ユングは本書の中でこのエナンディオドリミーは人生の午前から午後にかわる頃から始まり、それまでの有用とされていた価値を見直しがなされるが、その過程において、それまでの(人生の)価値転換がなされ、それによる衝撃が精神上のバランスを崩すきっかけとなっているということです。視野が狭い人ほどこのような傾向に陥りやすく、人間的なものについては絶対的なものはなく、すべて相対的なものであるという強い自覚が必要であります。
さて人類の長い歴史の刻印たる集合的無意識ですが、この恐るべき特徴は善のみならず人々が行ってきた悪の部分も刷り込まれているという点で、集合的無意識自体独自の生命ないし魂を持っているということです。しかもこの声なき声は非常に強く、自分の意志を凌駕し、無意志状態に陥し入れさせることもあります。これが所謂分裂病の患者に見られるキツネ憑きの状態です。集合的無意識はこの点大変危険なものであると言えるのですが、それに至る理論的支柱として、古代ギリシャ哲学のヘラクレイトスの思想におけるエナンディオドロミーの法則を引用しています。エナンディオドロミーとは、一言でいうと「背反」ということですが、すべてのものは対立関係の中の調整機能の原理の中に存在し、「一切のものはいつかその反対物に転化する」という理論です。ユングは本書の中でこのエナンディオドリミーは人生の午前から午後にかわる頃から始まり、それまでの有用とされていた価値を見直しがなされるが、その過程において、それまでの(人生の)価値転換がなされ、それによる衝撃が精神上のバランスを崩すきっかけとなっているということです。視野が狭い人ほどこのような傾向に陥りやすく、人間的なものについては絶対的なものはなく、すべて相対的なものであるという強い自覚が必要であります。