一生

人生観と死生観

大野晋ー越境人逝く

2008-07-15 09:47:42 | 歴史
7月15日 晴れ
 今朝の朝日新聞一面と天声人語の記事。国語学者の大野晋さんが亡くなる。「国語練習帳」、「日本語の起源」などすばらしい著述で日本語の面白さを日本人にアピールした人だ。私は一度だけ岩波の手帳で電話番号を確かめ、図図しくも自宅に電話したことがある。運よくご本人が出て来た。岩波新書の仲間だということでなにか感想みたいなことをお話したと思う。彼はあまり気乗りのしない受身の応対に終始した。多分いろいろなファンがつまらぬ電話をかけてくるためだろう。
 さて彼の日本語論は独創的で、おそらく同業の国語学者たちにはそれほど評価されなかったのではないか。日本人は同僚の出すぎた振舞いを許さず、すぐ足引張りをすることが多いから。大胆といえば大胆な立論であった。日本語の中にタミール語起源のものが混じっているというのだ。タミールはインド亜大陸にあり、日本からは万里の波濤を越えてゆくところだ。考古学的にも今までつながりがあるとは聞いたいたこともない。大野さん自身で調べるしかなかった。彼は老齢になってからこの夢のような取り組みを実行したのだから、まったく感嘆するほかない。それは表題に書いた通りまさに越境する精神で、小心翼翼の従来の日本人学者とは違う。
 それがかりに100%正しくないとしても、大野さんの言うことは小さな内向きの世界しか作ってこなかった日本の国語学者の世界を一挙に拡げる萌芽であったとしなければなるまい、と私は思っている。
 越境人大野さん、安らかに!