古稀からの手習い 水彩ブログ

人生の第4コーナー、水彩画で楽しみたいと思います

年ふれば齢は老いぬ・・・(「関戸本古今集」を白狸筆で臨書)(三行書きのデザインの勉強)

2021-05-17 06:59:23 | 書道
東し布礼盤よ者悲はおいぬし閑盤あ連と 花をし三礼盤毛の於もひ裳なし
年ふればよはひ(齢)は老いぬしかはあれど 花をし見れば物思ひもなし

前ブログに続き、伝藤原行成筆「関戸本古今集」を白狸筆で臨書させていただきました。
(半切4/5大 画像処理によりフィルター掛け)
(歌意は末尾[註]を)

関戸本古今集では3行ものの和歌も見かけますが、その3行目の多くは凡そ4文字までで、
この歌のように8文字のものは少ない様に見えます。

最初にこの作品を見たときは“「花」がど真ん中にあり、
太細(見た目としては濃淡)の差がはっきりした躍動感のある書だな”
ぐらいの印象でした。

しかし、よくよく見ると“何と計算された構成なのだろう”と思い直しました。
能筆家は優れた『デザイナー』であることをあらためて思い知らされました。

もとより、この歌が書かれた見開きのページがあり、
そこには詞書を含めたいくつかの歌があり、しかもその紙には色模様があり、
・・・とその中でのこの3行を見なければなりませんが、
この歌だけに限定して見ても、の話であります。

どういうデザインがなされているのか、
本来なら、間(ま)のとり方や品格などの感覚的なものを含めたものであるべきでしょう。
しかし、そこは私にはかなわない領域です。
今回、臨書するにあたっては、
主に、目に見える、太細の変化とか字や行の流れなどの観点から、
自分なりに感じたことを書かせていただきます。
ちょっとくどくなりますが、お付き合いいただける方がいらっしゃればうれしいです。


右1行目。
書き出しから数文字、
軸線はタテ線の流れに沿い次第に左に行き、
“礼”の偏が強調され、その向かう先は“花”のようにも見えます。
すぐ下“盤”の字も左半分を太くしてあります。
中ほどから下へは、主に右下がりのナナメ文字で、右下へと“花”から遠ざかるが如く。

中2行目。
行全体はほぼ真っ直ぐながら、その中でところどころのカーブの変化を。
上段途中の“連”の傾斜は、下の“と”との連綿線とでタテの流れを作るとともに、
右“礼”の偏の強さを引き出そうとしたものでしょうか。
この“連”と右の“礼”の2文字で、左3行目“ひ”の右張り出しに応えているようにも見えます。
中ほど“花”より下は、“を”“し”とタテ線を続け、
その“し”の末尾にシンクロするように“三”を配し、タテからヨコへと絶妙に繋げています。
更に“れ”“者”ではヨコ線を強調して、2行目のみならず、全体を締めています。
“三れ盤”はヨコ線中心ながら、上の“し”からくるタテの流れも。

左3行目。
行全体の流れも右下へですが、
途中“ひ”までと最後の“し”までの2段構えでの右への移行。
“ひ”の張り出し先は、右1行目“礼”の偏と呼応して“花”へと向かい、
この辺り、3行ものの面白さでしょうか。


“し”は4か所ありますが、1行目2文字目以外の、
各行にある3つの“し”の使い方にも細かい配慮がなされているようです。
これらは、ナナメ一線に配され、しかもそれぞれ字形(字の最後の収め)が異なっています。

“盤”の字も3か所で、それぞれの位置で最適の字形が使われているようです。

そして、桑田三舟編「伝藤原行成筆『関戸本古今集』」には次の解説が。
“「花」はすべての方向に響きを出していることに注目”と。

これこそが、今昔を代表する書家相互間に共鳴しあう『響き』なのでしょう。

そんなこんなを意識しながら臨書させていただきました。

ただただ、原本筆者の天才的凄さを感じながら・・・。

[註]

本歌の詞書には
「前太政大臣  
染殿后のお前に、花瓶に桜の花をささせ給えるを見てよめる」
とあります。

前太政大臣とは藤原良房で、
染殿后(そめどののきさき)は55代文徳天皇(在位850年~856年)の后で
藤原良房の娘(藤原明子)です。

染殿后との子が56代清和天皇(856年8歳で即位 清和源氏の祖)で、
良房はこの時皇族以外で初めての「摂政」(幼少の天皇に代って政治を行う)に就いたとのことです。

花瓶に挿された桜は后になった自分の娘とも重なります。
また“物思い”とは思い煩ったり悩んだりすること、とあります。

この歌が歌われた細部の時期は分かりませんでしたが、
どうやらこの歌、父娘で栄華を極めた人の老境の歌で、
我々庶民からすれば、“そりゃそうでしょうよ”とでも・・・。






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2 コメント

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Unknown (mori)
2021-05-17 07:22:35
流れるような筆の運び、墨の濃淡、全般のバランス等々素晴らしい作品だと思いながら、細部中身は全く分からず、一つ一つに「そうか」と頷きながら説明を読ませて頂きました。
特に「花」と「し」の説明には驚きと感心が同時におきました。
返信する
Unknown (サガミの介)
2021-05-17 09:58:39
いつも感じることですが作品の優しさ柔らかさは作者の筆致からくるものなのでしょう。
書を嗜む人は全般的なバランスや作品の持つ想いなどすべてを理解し、作品の構想を練り、その上で筆の運びや力の配分、方向感など技術の粋を集中するものなのですね、書家の生きた歴史や背景、とても私にはついていけない深いものだとあきらめかけています。
返信する

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