ご存じのように「Hawaiian Wedding Song」という曲は1961年11月に初上映されたエルビス・プレスリー主演のパラマウント映画「Blue Hawaii」の中で使われました。
この曲のオリジナルである「Ke Kali Nei Au」は1925年5月に上演されたオペレッタ「Prince of Hawaii」のためにハワイの大作曲家Charles Edward Kingが作曲した曲で、英語の歌詞と「Waiting for Thee(君を待つ)」という英語のタイトルも付けられていますが、映画のため(たぶん)に「Hawaiian Wedding Song」というタイトルとAl HoffmanとDick Manningによる新しい(というか現在一般に知られている)英語の歌詞が付けられました。
ある日、当地の放送を聴いていたときに女性歌手の方(残念ながら途中から聴いたものでお名前は分かりません・・・涙)が「This is the original Hawaiian Wedding Song」と紹介して歌い始めました。
この紹介を聞いたときには、てっきり「Waiting for Thee」が聴けるものと期待したのですが、実際にはIrmgard Farden `Āluliの1950年作品「E Maliu Mai」でした。
たしかに歌詞の内容は結婚に関するものですので、もしかするとこれが結婚式で歌われたのかも知れませんね。
フェイス・ブックの和田かおりさんの書き込みでもステージで結婚式の扮装の男女に対してこの歌がうたわれたとのことですのでおそらく1950年以降にこの曲が結婚式で使われたということは間違いないでしょう。
ところで私の記憶によれば「Ke Kali Nei Auという曲はオペレッタPrince of Hawaiiの婚約のシーンで歌われたものであって、結婚のシーンではLei Aloha Lei Makamaeが歌われた」とハワイアン音楽の先輩方から教えてもらっていたのでした。
でもこのPrince of Hawaiiという劇がどんなものであったのか、どんな曲がどのシーンで歌われたのかは全く分からないので、ネットで「脚本」「台本」のたぐいを探したのですが、タッチの差で入手できず、かろうじて「Favorites from The Prince of Hawaii/ The Hawaiian Operetta by Chas E. King」という長~いタイトルの曲集だけが入手できました。(下写真中央)
この曲集には劇中で使われた24曲が収録されていましたので、眼を皿のようにして「Lei Aloha Lei Makamae」を探しました。
もしかすると別のタイトルで載っているかもしれない、と思ってすべての曲のメロディーを辿って見たのですがありませんでした。
せっかくですのでその24曲のタイトルやサブタイトル、作曲者名、著作権登録年、調、そして拍子を表にしてみました。左端の数字はこの曲集の出現の順番というだけで、Prince of Hawaiiの劇中における演奏順番とは無関係でしょう。もっとも劇そのものの内容は不明のままですが・・・・そしてその数字のバックが空色になっている16曲はキング編集になるKing's Book of Hawaiian Melodies (通称「ブルー・ブック」)にも掲載されている曲で、白抜き数字で緑バックの2曲は同じくキング編集のKing's Songs of Hawaii (通称「グリーン・ブック」)に掲載されているもの、そしてバック色のない6曲はこのオペレッタ曲集のみに載っている曲です。
「登録年」からお分かりのように半数の12曲(黄色バック)が1925年に登録されていますが、著作権登録年というのは必ずしも作曲年ではなく、単に「登録した年」ということでして、登録年よりも前に作曲したものを1925年というオペレッタ上演の年に登録した場合もあると思います。
そして上演当時すでにポピュラーであったと思われるNā Lei O Hawai`i (島の唄)、`Imi Au Iā `Oe(キングス・セレナーデ)、Kamehameha Waltz(カメハメハ・ワルツ)も劇中で使われたことが分かりました。
余談ですがこの「キングス・セレナーデ」は一時期日本では「王様のセレナーデ」という日本語タイトルで紹介されていたようですが、もちろんこの「キング」は作曲者の名前ですね。
======================================
ここでE Maliu Mai、Lei Aloha Lei MakamaeそしてKe Kali Nei Auの3曲が現在出版されている曲集(下の写真)でどのように触れているかを見てみました。
左は鳥山さんが心血を注いだハワイアン歌詞集で、これには1,001曲が収録されていますが、301曲と298曲そして400曲を収録した続編を含めて2,000曲という大量のハワイアン音楽の歌詞・コード・解説が書かれている大変ありがたい「参考書」です。
その中でこれら3曲は次のように紹介されています。
E Maliu Maiについては詳しい作者の紹介はありますが、「結婚式」で使われるかどうかには触れていません。
一方、Lei Aloha Lei Makamaeについては私が先輩方から聞いたと同様「プリンス・オブ・ハワイの主題歌で結婚式の場面で歌われた」とありました。
同じことがKe Kali Nei Auのところにも書かれています。
次は右側のHe Mele Alohaです。こちらのほうは収録曲が269曲しかありませんがやはり歌詞・コードそして解説がついています。これの日本語版もありますが、英語版が元になっているので英語版での紹介をいたしましょう。
この曲集での解説です。
E Maliu Maiには作者の紹介に加えて「結婚式で演奏される曲」と明確に書かれています。
Lei Aloha Lei Makamaeでは「チャールス・キングの作った大変美しいラブソングの一つで結婚式で好まれて演奏される」とあります。
そしてKe Kali Nei Auには「Hawaiian Wedding Songとしても知られている。この美しいデュエットはチャールスEキングの作。英語の歌詞はAl HoffmanとDick Manningによるもの」と紹介されています。
さて、ここからが今回のポイントです。
下の2曲では「Prince of Hawaiiについて全く触れていないのですが、大きな証拠があったのです。
それぞれの解説の後ろにある数字は著作権登録がされた年を示しています。
E Maliu Maiが1950年、Ke Kali Nei auが1925年は良いのですが、問題はLei Aloha Lei Makamaeです。
なんと「1934年登録」とあるのです。そうですThe Prince of Hawaii上演の1925年から9年もあとのことなのです。
念のためキングのブルー・ブック144ページに載っているLei Aloha Lei Makamaeの楽譜でも最初の登録年が1934年になっています。(「最初」という意味は曲の著作権保護期間を延長させる目的で小変更を行ったうえで再登録をすることがかなりおこなわれているので、それの大元の登録時を指しています。)
上にも書きましたが必ずしも登録年に作曲したとは言えないのでもしかしたら1925年にできていたのかもしれませんが、9年も棚上げしておくとはちょっと考えられません。
このことと上記曲集から「Lei Aloha Lei makamaeがThe Prince of Hawaiiの結婚式の場面で歌われた」という説は間違いなく(!)間違いと判断いたしました。
Hawaiian Music and MusiciansにはPrince of Hawaiiについての記事が2ページにわたって掲載されています(全24曲すべてがKingの作曲、というのは間違いですね)が、やはりLei Aloha Lei Makamaeがこの劇で使われているとは一言も書いてないだけでなく、ここで紹介されている「二大ヒットソング」はKe Kali Nei Auともう一曲はKu`u Leialohaとのことでした。
最後にハワイ旅行もままならない1962年に出版された故・早津敏彦氏の名著「ハワイアン・ガイドブック」も調べてみました。
この著書ではPrince of Hawaiiについて触れているにもかかわらず私が先輩方たちから間違って教わった「Lei Aloha Lei MakamaeがPrince of Hawaiiの結婚式の場面で歌われた」とは一言も書かれておらず、改めて早津氏の調査力に驚かされた次第です。
もっとも上演から90年近く経過した現在よりもわずか35~36年後の1960年ごろの方がこの劇の資料が揃っていたのかもしれませんが・・・
========================================================
今回のことで、たとえ大御所の方から教わったことでも裏づけ無しでそのまま外部に発信するのは危険、という教訓を得ました。今まで私が発信してきた情報もかなりの部分がこの種の「伝聞」だけに基づいていることを反省しています。
ハワイアン音楽の世界にはまだまだこの種の誤解がまかり通っているかもしれないのですべてにわたって慎重に対処する必要を感じた次第です。
なお、たまたま今回は鳥山さんの著書の内容について触れましたが、このことがあってもトリさんの著書がハワイアン音楽の世界に大きく貢献していることには少しも変わりがありません。
この情報はとっても興味深く拝見しました。
Prince of Hawaiiというオペレッタは全く知りませんでしたが、
Hawasiian Wadding Songがエルヴィスよりももっと古い曲であることなどを知りました。
また、Ke Kali Nei Auが婚約の曲として使われていた!ことは全く知りませんでしたし
新しい知識になりました。その根拠も同時に得られました。(受け売りですが・・・)
おっしゃる通り「裏づけ無しでそのまま外部に発信するのは危険」と言う事を
ほんのちょっとだけリーダー的立場にある自分にとって、改めて『歴史の事実に注意し
正しい裏付けを取る姿勢を貫かなければならない』と言う事を、心に刻みました。
チョイと難しい事を書いちゃいましたので・・・文章になっているんでしょうか??
とくにあらすじやどの場面でどの曲が歌われたかが全く分からないのです。
今回のレポードはそのような状況下でのものですので結論を発表するのにはちょっと躊躇しました。
でも間違い(と思われる)情報をこのまま放置しておくのもまずいと思って発表した次第です。
わたしも今まで数多くの間違った情報(!)を発信してきたかもしれないので、分かり次第修正してまいります。
でもブログですと簡単に修正できるのですが、一旦印刷物になってしまうとそれが効かないので出版前の慎重なチェックが必要ですね。
Lei Aloha Lei Makamaeでやり直したほうがいいですかね?(笑)
それはともかく、Kuroさんとyokoさん、良かったですね!
この際何回でも祝って差し上げてくださいね!
Mattさんの著書もブログもハワイアン音楽に大きく貢献してますm(_ _)m
今まで皆さんが話題にしても現物をほとんど見たことがないと思われる「プリンス・オブ・ハワイ」の曲集が入手できたときにはワクワクしました!
とても参考になりました。
自分の好きなことだけを追求していますので、全体としてのバランスが良くないのが私の大きな欠点です。
でもそれもアマチュアの強み?かもしれませんが・・・・