フィクション『同族会社を辞め、一から出直しオババが生き延びる方法』

同族会社の情けから脱出し、我が信ずる道を歩む決心をしたオババ。情報の洪水をうまく泳ぎ抜く方法を雑多な人々から教えを乞う。

ちょっと良い男

2024-10-29 14:50:15 | ショートショート

とある酒場で男の写真を見ていたら、

マスターがのぞき込んで言った。

『あれ、ずいぶんと雰囲気のあるいい男じゃない?』

私は、ふふ、と軽く笑った。

『そう思う?』

『うん、しぶいっていうか、ちょっとゾクッとくるような感じ』

私は、かるく頭を縦に振りながら答えた。

『…死んじゃったんだよ、この人』

『…!』

マスターは息をのんでいた。

『わたしさあ、この人の愛人だったんだよ。ふふ、愛人だったの』

『愛人って、あんた、亭主いるじゃない?亭主持ちの愛人?』

『何よ、良くあるじゃないの、この人は独身だったけどね、まあ、やもめっていうか。

奥さん亡くして…だけど偉い女にモテたからね。

だから、彼女たちからしたら私は愛人なのよ』

『へえー。自分の彼氏に愛人がいたけど、それは亭主持ちだった。なんだかひどくない?

何で亭主がいるような愛人を持っていたのさ?』

私は自分の事を愛人とは考えていなかったけれど、立場的には愛人なのだ。

ただ、むしろ彼のほうが愛人と呼んだ方がふさわしかったかも知れない、本当の意味で言えば。

だって私には配偶者がいて、彼は独り身だったのだから。

そして彼は女にモテてモテてしょうがなかったけれど、

何かしらのパートナーにはなっても、男女の関係にはならなかった。

それは私の呪いだったから。

ずっと私の事を忘れないで…

私だけ見ていて…

何故って、彼のお葬式の日、彼は私の心臓をぎゅっとつかんで私を殺そうとしたのだ。

しかしさすがに実態のない彼に私を殺すことは出来なかった。

私を殺そうとした彼の心を分るのは私だけなのだ。

いつだったか、こんな関係に嫌気が挿した私は彼に『一緒に死のうか』と持ちかけたことがある。

すると彼は『まだ死にたくない』と言っていた。

彼はこの世で生きて行く気持ちがあったのに、私より先に死んだ。

彼に好意を抱いていた女性達はさぞかし悲しんだことだろう。

そして私こそが彼を理解し彼の良きパートナーであったと確信しただろう。

…それを私は嫉妬と妬みと優越感で眺めている…

 

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秋風を感じて。

2024-09-24 17:33:18 | 美しく生きるという事

昨日はまだ暑かったので冷房を付けましたが、

今日は窓から入る風が冷たくて、あ、もう秋なんだと思いました。

秋を感じるのは、9月と言うことでもそうですが、

天気が一番でしょうか。

そして風。

この冷たさが、もう夏は終わったよ、何が何でも終わったよ、と言い張っています。

そこが淋しいですね。

この涼しさを待ち望んでいたのに、淋しいのです。

と考えると、私は夏が結構好きなんじゃないかな、と思うのです。

去ってしまった好きな人がもう戻らないと知って諦めのような悔しさを感じています。

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夏至が終わっていた。

2024-06-25 07:35:41 | 美しく生きるという事

夏至が大好きです。

毎年1月~夏至までが1年の絶頂期と考えていて、

夏至の翌日~年末までは衰退するのみです。

7月8月には夏休みもあるのですが、

太陽が傾いて昼間の時間が短くなるので淋しいのです。

そんなに大好きな夏至なのに、今年は過ぎてから思い出しました。

なんと言うことでしょう。

もうどうでも良いのでしょうか。

 

夏至が好きになったのは愛犬と散歩していた時です。

会社から帰ってからの散歩でもまだ明るい。

楽しかったし嬉しかった。

明るくなってから朝の散歩、明るいうちに夜の散歩。

冬は明るくなる前の朝の散歩、とっぷり暮れた後の夜の散歩で、

今が朝なのか夜なのか分らなかったから。

そんな飼い主都合のお散歩を愛犬は喜んでくれていました。

思い出すと切なくなります。

何も文句も言わず、ひたすら一緒に歩いて、帰ってからご飯を食べて。

途中で足を止めてこちらを振り返り『撫でて』というように私の顔を見るのが習慣でした。

もうお骨になってしまっている愛犬。

あれから1年以上経ってしまっていることに驚きます。

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昔の記憶が蘇るとき

2024-06-23 15:30:24 | 美しく生きるという事

今朝のラジオで『横浜市の八景島シーパラダイス…』と言う名前が耳に入り、

するするするっと昔の記憶が引きずられて現れた。

そこには、子どもが小学校低学年の頃に連れて行ったことがある。

なぜなら、帰宅後遊ばせたくない子どもがいたからだ。

その子どもは、よくうちに遊びに来ていた。

あるとき、長男が言う。

『可哀想にピーちゃんが投げられて…』

『え?何、何かしたの?』

どうやらその子どもがうちで飼っていた小桜インコ二羽を天井に放り投げたようなのだ。

私が留守にしていた時だ。

鳥は羽があるから飛んで死にはしなかった。

しかし…。

その子どもはうちの物も盗んだことがあった。

ペットにまで手を出すのか。

その子どもを家に上げないために家を留守にしなければならない。

そのために八景島シーパラダイスに行くという用事を作って留守にしたのだ。

それ以後その子どもを家に上げるな、と言っておいた。

 

いつもは記憶の底に封じ込められている記憶。

それがなんのきなしにいきなり、突然現れる。

びっくりすると同時に、当時の嫌な苦い思いもこみ上げて、

複雑な気持ちになった。

もちろん、その小桜インコ二羽はとうの昔に死んでいる。

嫌なことがあったね、とインコたちに声を掛けた。

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ユーミンの『埠頭を渡る風』を聴いて…

2024-06-10 19:02:33 | 美しく生きるという事

先週末、亭主が運転していて、私は助手席にいて、

ユーミンの『埠頭を渡る風』が流れて、

…ゆるいカーブであなたに倒れてみたら…と言うフレーズで、

どうにも切なくて、

だけど倒れたいのは亭主ではなくて、

かつて付き合っていた男性だったり、

大昔の片思いの人だったり、

きっとその人なら、私の甘えを受け止めてくれる、

そんな気がした。

けれど、そんな優しい人は、もうこの世にいなくて、

会えないのだと思うと、

どうにも胸が締め付けられる。

だから私は誰にも倒れられないの。

 

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