初動対応の危険な一般論化
昨20日の我がTwitter――
〈赤松農水相、担当大臣ながら、自民党が口蹄疫対策を首相官邸に申入れた日に外遊、危機管理意識ないと野党攻撃。01年2月ハワイ沖で愛媛県立宇和島水産高練習船えひめ丸が米源泉の衝突を受けて沈没、教員5人、生徒4人が死亡した事件の報告を受けながらゴルフを続行した森元首相が思い出される。 〉――
〈自民党が政府の初動対応の遅れが口蹄疫感染拡大を招いたと赤松農水相への不信任決議案提出を視野に政府の責任を追及する方針だとNHK。TBSテレビが複数の民主党幹部の証言として赤松大臣が外遊先でゴルフと報道、のちに根拠なかったと謝罪。えひめ丸事件、ゴルフ続行の森元首相を連想させたか。 〉――
誤報のおまけまでついたが、赤松農水相への集中砲火が止まらない。責任追及に対する赤松農水相の発言(抗弁?)を拾ってみた。
《赤松農水相、口蹄疫で辞任否定 自民、不信任案提出へ》(asahi.com/2010年5月20日20時10分)
20日の衆院決算行政監視委員会――
赤松「誠心誠意、大臣としての職務を全うしていこうと思う」
これは引責辞任の否定を意味する発言だそうだ。実際に初動対応に関わる責任があるなら、そこでの「誠心誠意」はなかったことになり、以降の「誠心誠意」も信用できないもの、口先だけの言葉と化す。
〈野党が被害対応の遅れにつながったと批判する4~5月の連休中の自らの外遊について〉――
赤松「大臣への連絡は24時間取れる体制になっている。私より優秀かもしれない副大臣や政務官が残り、同じ認識でことを進めている」
森喜朗もSPの携帯で事件の一方を受けながらゴルフを続行したとき、ゴルフ場にいても連絡を受けることができる体制にあったといったことを言っている。だが、ゴルフを続けたこと自体が攻撃材料となり、支持率を下げる原因となって、事件から2ヵ月後に、1年と20日程度しか持たずに退陣している。
赤松農水相は少なくとも攻撃材料となることを避ける危機管理意識に欠けていた。担当大臣として対策本部、もしくは口蹄疫発生地域の宮崎県に存在していることが求められていたのである。存在することが責任であり、存在しなかったことが責任放棄と取られている。
となると、「私より優秀かもしれない副大臣や政務官が残り、同じ認識でことを進めている」は意味を失う。「優秀かもしれない副大臣や政務官」の存在を持ち出したとしても、それ以って本人が存在していなかったことの埋め合わせとなるわけではないからだ。えひめ丸事件のとき、森喜朗が官房長官が官邸にいたはずだと言うのと同じになる。
「優秀かもしれない副大臣や政務官」の存在を持ち出すことで、自身の不在をたいしたことはないと免罪しようとしたのだろうが、大臣よりも「優秀かもしれない」人物が「副大臣や政務官」の地位にあって、「副大臣や政務官」よりも「優秀」でないかもしれない人物が大臣の地位にあるという、この逆説を当の本人たる大臣自らが結果として提出したことになる滑稽さに気づいていない。
要するに才能によってではなく、年功序列による順番や当選回数、あるいは強力なグループの贔屓で大臣の椅子にありついたと勘繰られないこともない。
《身内からも「弾が飛んでくる」 赤松農水相「本日も反省の色なし」》(J-castニュース/2010/5/20 19:37)が赤松農水相の発言をより詳しく伝えている。
5月11日の衆院農林水産委員会で責任者が国内にいなかったことについて批判を浴びたことに対して――
赤松「私ひとりがいなかったからといって、いささかも支障があったとは理解していない」
この発言に於いて、実質的に問題とされているのは、そこに存在したか存在しなかったかということであり、存在することへの認識が問われているにも関わらず、その危機管理を怠ったために止むを得ず自身の存在を不在と同等の価値に置こうとする倒錯を演じることとなっている。
いわば、「私ひとりがいなかったからといって」、農林水産行政が「いささかも支障」がないと、存在=不在とするなら、赤松大臣そのものの存在意義が問われることになる。
確かに代理の者が代理の役目を十分に果たしたということで、「私ひとりがいなかったからといって、いささかも支障」はなかったかもしれない。だが、あまり「優秀」でないかもしれなくても、それでそこに存在しなかったことが片付くわけではない。逆の立場に立たされたなら、やはりそこに存在しなかったことを取り上げて責任を追及するだろう。
5月19日の会見、記者から「何が遅れたと思うか」と問われて――
赤松「僕、ご批判を受けることは全く構いませんけれど、例えば、じゃあ、『この時点で、20日の時点で、何々しなかったことがこういうふうになった原因じゃないか』と言われるなら、どうぞ、そう言ってくださいと。だけど、みんな具体的に何も言えないんだよね、聞くと」
事実、そのとおりだろう。具体的な失態はなくても、存在していなかったこと自体が問われていることに気づいていないから、そう言える。
5月18日の記者会見での発言についてはメモを棒読みして答える。
「記者から辞任に関する考え方を問われたため、私は『批判があれば受け止めるが、私自身、農林水産大臣として、状況に応じ、適切な防疫措置及び、経営支援対策を講じてきた』ということを述べたものであります」
しかしこの発言は前の発言と矛盾している。「私より優秀かもしれない副大臣や政務官が残り、同じ認識でことを進めている」し、「私ひとりがいなかったからといって、いささかも支障」はないということなら、外遊中と同じく存在しなくてもいい、あるいは不在を続けてもいいということになるからだ。
TBSテレビが5月20日朝、5月19日夜に民主党幹部が明かした話として「赤松農水相が外遊中に海外でゴルフをしていた」などと報じたことについて全面否定――
赤松「怒りに震えているね。あり得るわけがないじゃん、そんなことは。(外遊に)行った人は職員を含めて10名ぐらいいるんだから、その人たちに聞いても分かるし」
外遊にしても、「私より優秀かもしれない副大臣や政務官」が代りに行えば、不在のままでいいことになる。存在しなくても構わないということに。
「私ひとりがいなかったからといって、いささかも支障」はないはずだ。いっそ辞任して、永遠に存在しない、永遠に不在を続けたらどうだろうか。何が起ころうと、攻撃対象となることはない。
ところが赤松農水相責任論に心強い味方が現れた。《政府対応に問題あった 口蹄疫対策で首相》(中国新聞/'10/5/18)
最初に鳩山首相の認識。
記者「政府や県の対応に問題点はなかったか」
鳩山首相「拡大を何としても防ぐということに対しては、それなりの一定の(問題)部分はあると思う」
「これ以上感染を決して広げないよう、特に九州の皆さんに安心していただくために、政府一体となって万全を期す」
「農家の方々に、経営のことは政府がしっかりやるから大丈夫だと理解していただくことも大事だ」
感染経路の特定について――
鳩山首相「十分に把握するのは難しい」
但し鳩山首相は赤松農水省の責任を認めたわけではない。
《赤松農水相の責任、明言避ける 口蹄疫対応巡り鳩山首相》(asahi.com/2010年5月19日12時12分)
〈19日朝、家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)への対応が後手に回ったとの批判がある赤松広隆農林水産相の責任問題について〉、〈明確な言及を避けた〉としている。
鳩山首相「どこに責任があるかという話以前の問題として、まず感染拡大を食い止めて、国民、特に九州の農家に安心を取り戻すことに万全を期す」
赤松農水相に対する心強い味方とは上記「中国新聞」記事に出ている枝野幸男行政刷新担当相の記者会見での発言である。
枝野「この手の問題では、当事者から常に『初動が遅い』と批判を受けるものだ。・・・・そのことは謙虚に受け止め、最善を果たすことが重要だ」
あくまでも初動対応に遅滞がなかったかの責任問題は個別に検証すべきもので、それを枝野行政刷新担当相のように一般論化した場合、初動対応の遅滞に対して、「この手の問題では、当事者から常に『初動が遅い』と批判を受けるものだ」を常套句として、どのような場合でも責任を免罪することができることになる。
阪神大震災の救出に関わる初動対応の遅れも「この手の問題では、当事者から常に『初動が遅い』と批判を受けるものだ」で許されることになる。結局は誰も責任を取らなかったが。
枝野発言は危険な一般論化、逃げ口上としかならない。
何か批判を受けたり、問題が起きたりすると、“謙虚に受け止める”を政治家は多用するが、それは“謙虚に受け止める”とすることで終わらせることの代名詞としているに過ぎない。いわば、謙虚であることを一応示して受け流す意味として使っている。
政治家使用の信用できない最たる発言と看做さなければならない。
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