東京大空襲訴訟高裁判決「旧軍人・軍属への補償は戦闘行為などの職務を命じた国が使用者として行うもので、合理的根拠ある」の意味

2020-08-31 07:29:53 | Weblog
 当ブログのテーマと関係ないが、先ず安倍晋三首相辞任から。

 安倍晋三のウルトラC

 安倍晋三が2020年8月28日の記者会見で潰瘍性大腸炎が再発し、激務に耐え得ないとかで自民党総裁任期を1年を残して首相を辞任した。記者会見で次のように述べている。

 安倍晋三「今後の治療として、現在の薬に加えまして更に新しい薬の投与を行うことといたしました。今週初めの再検診においては、投薬の効果があるということは確認されたものの、この投薬はある程度継続的な処方が必要であり、予断は許しません」

 新薬服用の効果はあったが、その効果を病状回復にまで持っていくためにはある程度の継続的な処方が必要であり、それまでの期間、現在の体調では国民の負託に応えうる自信が持てない。よって辞任することにした云々となる。

 もし病状回復までの新薬服用の効果期間を1年と置いていたらどうだろうか。1年後の総裁選に遣り残したことがあると立候補も可能となる。憲法改正、北方領土返還、拉致被害者帰国、地方創生戦略の見直し 格差拡大是正、東京一極集中是正・・・・等々。遣り残したことの方が多いくらいである。

 ここで鍵となるのは官房長官の菅義偉が自民党総裁選に出馬することを自民党幹事長シーラカンスの二階俊博ら政権幹部に伝えて、二階俊博からは「頑張ってほしい」と激励されたとマスコミが伝えているし、8月31日朝のNHKニュースは、「二階派幹部は、菅氏が立候補すれば派閥として支援する可能性を示唆した。」と報じている。

 もし菅義偉が首相になったとしても、任期は来年の9月まで。この間に総選挙がある。野党結集の影響を受けて、政権を失わない程度に一定程度、議席を減らしてくれれば、政権を失うこと程怖いことはないという経験をしている自民党からすれば、安倍待望論が湧き起こらないとも限らない。菅義偉をワンポイントリリーフとすれば、安倍晋三の再登板は遣りやすくなる。再登板なら、総裁任期は3年だから、3年間、じっくりと腰を落ち着けて安倍政治に取り組むことができる。うまくいけば、さらに3年間・・・・。そのために辞任を1年早めた????

 既にこういったシナリオが出来上がっているのかもしれない。安倍晋三にとってはウルトラCのシナリオだが、反安倍陣営にとっては悪夢のシナリオとなる。

 2020年8月24日エントリ当ブログ《NHKSP「忘れられた戦後補償」から見る民間被害者への補償回避は憲法第14条が定める「法のもとの平等」違反 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に対して次のようなコメントを頂いた。

 軍人恩給は報奨 (ニガウリ)2020-08-24 17:17:33 軍人軍属恩給は聖戦(正義の戦争)に対する尽忠報国へのご褒美(報奨)として与えられている。その趣旨から当然のように、職業軍人に厚く与えられている。そこに問題がある。沖縄では準軍属として遺族年金を受けている人がいるが、彼らは戦争に協力したと報告書に自書しなければ準軍属としては認められなかった事も問題である。

 軍人軍属恩給を「問題がある」と批判しているが、軍人軍属に対する恩給が「ご褒美(報奨)」として位置づけられているのか、ちょっと気になって調べてみた。一部抜粋。

「恩給制度の概要」(総務省) 
 
(6)昭和28年(1953年)旧軍人軍属の恩給復活(法律第155号)

II 恩給の意義、性格

 恩給制度は、旧軍人等が公務のために死亡した場合、公務による傷病のために退職した場合、相当年限忠実に勤務して退職した場合において、国家に身体、生命を捧げて尽くすべき関係にあった、これらの者及びその遺族の生活の支えとして給付される国家補償を基本とする年金制度である。

III 恩給の対象者

 現在、「共済制度移行前の退職文官等」及び「旧軍人」並びに「その遺族」が対象となっている。(約23万人。うち98%が旧軍人関係)

 要するに恩給制度は旧軍人を主たる対象としている。そして恩給そのものは「国家に身体、生命を捧げて尽く」したことに対する国家による補償――「国家補償」を基本的性格としているとしている。

 一方で戦争被害に遭った民間人には、2020年8月15日夜放送のNHKスペシャル「忘れられた戦後補償」によると、引揚者、被爆者、シベリア抑留者などに対しては救済措置は施されたが、空襲被害者等に対しては何ら補償を受けることができなかった。理由は「国家に身体、生命を捧げて尽く」す「公務」のための死亡・傷病ではなかったからということであり、引揚者、被爆者、シベリア抑留者程には苦労していないということからなのかもしれない。

 名古屋空襲で被害を受けた市民の補償請求訴訟に対して最高裁は1987年(昭和62年)6月26日に、「戦争犠牲、戦争損害は、国の存亡にかかわる非常事態のもとでは、国民のひとしく受忍しなければならなかったところであって、これに対する補償は憲法の全く予想しないところ」という判断を示した。

 1945年3月10日の東京大空襲の被災者と遺族113人が旧軍人・軍属には恩給や遺族年金が支給されるのに民間被災者に補償がないのは「法の下の平等」を定めた憲法に違反するなどと主張し、2007年3月9日に東京地方裁判所に提訴した補償請求訴訟では2009年12月14日に「原告請求棄却」の判決を下し、この判決を不服として東京高裁に控訴、2010年(平成22年)7月23日第1回口頭弁論、2012年(平成24年)4月25日に請求を棄却した一審・東京地裁判決を支持し、原告側控訴を棄却した。

 原告は最高裁にさらに上告。最高裁は2013年5月8日、審理を1度もせずに「民事訴訟法の上告と上告受理の条項に当たらない。原告らの請求をいずれも棄却する」と上告を棄却、原告側の敗訴が確定した。

 以上がネット等で調べた空襲被害者の補償訴訟の経緯である。

 要するに東京大空襲訴訟に関しては東京高裁判決が旧軍人・軍属及びその遺族に対する恩給等の補償の正当性を論理づけていることになる。高裁判決をネット上で捜したが、見つけることができなかった。

 但し判決の一部を電子書籍の中から見つけることができたが、引用を禁止している。と言っても、著作権法32 条1 項は、〈公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。〉と規定している。

 要するに引用が分かる形にすれば、引用できることになっている。引用電子書籍に対して敬意を評するために1584円を出して購入することにした。

  「戦争経済大国」(斎藤貴男著/ Google Books)
 
 〈戦時災害保護法が廃止されたのは生活困窮者に対しては、その困窮が戦争により生じたものかであるか否かなどその理由に関係なく一律に保護を与えるとの方針に基づくものであり、同方針に基づき、戦時災害保護法の廃止と同時に生活保護法が、また、昭和22年には児童福祉法が、昭和24年には身体障害者福祉法が、それぞれ制定されたこと、他方、戦争傷病者戦没者遺族等援護法は(中略)その趣旨は戦地に赴いて戦闘行為に参加するなど死傷の危険性の高い職務を国から命ぜられ、その職務に従事した軍人軍属等については、その職務上の負傷、疾病または死亡につき国がその職務を命じた使用者あるいは使用者類似の立場から補償を行うというものであること、また、恩給法は、国との雇用関係にあった旧軍人に対し、文官に対すると同様に国が使用者の立場から補償を行うという趣旨のものであったことからすると、これらの法律が軍人軍属を対象として補償を定めたことには合理的な根拠があるということができ、この対象とされなかった者との区別が非合理あるということはできない。このことは、既に前傾最高裁判昭和62年6月26日第1小法廷で判示しているところである。〉

 東京高裁判決のこの箇所は原告の訴えに対応した判断である。原告側から別の訴えがあって、その訴えに対応した別の判断の存在は判決の全文を知ることができないから、どう応えようもない。中途半端な解釈になるかもしれないし、以下の解釈が既に誰かの手によってなされている可能性も否定できないが、自分なりに感取したことを並べてみる。

 但し引用判決が判決の主たる部分を占めていることは次の報道からも証明できる。

 〈東京大空襲訴訟、二審も国の賠償責任認めず 東京高裁〉(日経電子版/2012/4/25)(一部抜粋)

 〈東京大空襲では約10万人が死亡したとされる。原告らは、旧軍人・軍属には恩給や遺族年金が支給されるのに、民間の被災者に補償がないのは「法の下の平等」を定めた憲法に違反するなどと主張した。

判決理由で鈴木裁判長は「空襲で多大な苦痛を受けた原告らが不公平感を感じることは心情的には理解できる」としつつ、「旧軍人・軍属への補償は、戦闘行為などの職務を命じた国が使用者として行うもので、合理的根拠がある」と述べた。〉――

 引用判決とこの報道内容は相互に対応していて、主たる判決を占めていることが分かる。

 判決は要するに「戦争傷病者戦没者遺族等援護法」の趣旨は旧日本国家を旧日本軍と一体と看做して(=国から命ぜられ、その職務に従事し)、「戦地に赴いて戦闘行為に参加するなど死傷の危険性の高い職務」「上の負傷、疾病または死亡につき国がその職務を命じた使用者あるいは使用者類似の立場から補償を行うというものである」として、旧日本国家=旧日本軍が軍人・軍属に対して「使用者あるいは使用者類似の立場」にあったと看做している。

 恩給法にしても、「国との雇用関係にあった」ことから、「国が使用者の立場から補償を行う」と正当性の根拠としている。

 いわば旧日本国家=旧日本軍と軍人・軍属は「雇用関係にあった」。と言うことは、民間人空襲被害者は旧日本国家=旧日本軍と雇用関係になかったから、補償対象外に置かれたとしていることになる。

 このことは上記、〈恩給の意義、性格〉と対応する。「国家に身体、生命を捧げて尽く」す「公務」内の死及び死傷であるから補償するとして、「公務」外の民間人を補償対象外に置いていることと何ら変わりはない。

 ここで「補償」という言葉の意味を取り上げておく。〈損失を補って、つぐなうこと。特に、損害賠償として、財産や健康上の損失を金銭でつぐなうこと。「goo国語辞書」〉とある。つまり「補償」は常に責任の発生に基づいた行為ということになる。責任が発生しない行為に関して如何なる「補償」も発生しない。

 日本政府は戦争責任を認めていない。自存自衛の戦争だとか民族解放の戦争だとか、正当化している。安倍晋三にしても、「侵略という定義は国際的にも定まっていない。国と国との関係で、どちらから見るかということに於いて(評価が)違う」と戦前日本の戦争を侵略戦争だとは認めていない。

 だが、日本政府は「戦争傷病者戦没者遺族等援護法」と「恩給法」で、旧日本国家=旧日本軍と軍人・軍属が「雇用関係にあった」と看做して、「戦地に赴いて戦闘行為に参加するなど死傷の危険性の高い職務を国から命ぜられ」て被ることになった「負傷、疾病または死亡」させたことの責任を認めていることになる。責任を認めているからこそ、「補償」を対置させている。

 つまり「使用者あるいは使用者類似の立場」上の責任を認めた「補償」となっている。

 であるなら、例え民間人空襲被害者が旧日本国家=旧日本軍と雇用関係になかったとしても、国から命ぜられた旧軍人・軍属の「死傷の危険性の高い職務」の巻き添えを食らい、その「死傷の危険性」が民間人にまで及び、「負傷、疾病または死亡」を被った場合の日本国家の責任は免責できるとすることができるのだろうか。

 バスが整備不良やバス運転手の過剰勤務で事故を起こし、運転手・乗客に死傷者が出たなら、運転手・乗客共に整備不良の巻き添えを食らったことになり、バス会社は乗客に関しては雇用関係にはなかった、「使用者あるいは使用者類似の立場」になかったかという理由で補償を免れることができるわけではない。

 バス運転手が心筋梗塞、クモ膜下出血等の何らかの身体的原因か、飲酒等の運転規則に反して事故を起こして、乗客ばかりか、通行人をも巻き添えにして、死傷させたとしたら、乗客に対しても通行人に対しても雇用関係にはなかった、「使用者あるいは使用者類似の立場」になかったかとして、補償なしで済ますことができるわけではない。

 民法

第715条(使用者等の責任) ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。

3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 要するに民法の立場から言うと、各戦闘のために雇用関係にあった軍人・軍属を使用する旧日本軍(=旧日本政府)は被用者たる軍人・軍属がその戦闘の執行について第三者たる民間人に加えた場合の損害を賠償する責任を負うということになる。

 〈ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
〉とする免責を日本の戦争、あるいは各戦闘に適用可能とすることができるかどうかである。

 1941年(昭和16年)7月12日に内閣総理大臣直轄の総力戦研究所が日米開戦を想定した勝敗の帰趨を読み取る総力戦机上演習を行った結果、「日本必敗」とした。

 この「日本必敗」の根拠となった日米の国力(エネルギー資源も含む)・軍事力格差等を無視したのは当時の首相就任3カ月前の東条英機陸軍大臣で、総力戦研究所の職員を前にして行った訓示で日露戦争を例に取り、「勝てる戦争ではなかったが、しかし勝った。意外裡な事が勝利に繋がっていく」と、「意外裡」(=計算外の要素)に頼り、緻密性と合理性を持たせた戦略(=長期的・全体的展望に立った目的行為の準備・計画・運用の理論と方法)を蔑ろにした、勝てる見込みのない無謀な戦争を引き起こしたのだから、民法に於ける使用者責任の免責事項は日本の戦争に限っては適用不可としなければならない。

 日本政府は旧軍人・軍属が旧日本軍(旧日本国家)と雇用関係にあったからと言って、その雇用関係から生じた「負傷、疾病または死亡」等の損害に対して補償を済ますだけではなく、第三者(民間人空襲被害者)をも巻き込んだ損害にも補償する責任を負うはずである。

 当然、「戦争犠牲、戦争損害は、国の存亡にかかわる非常事態のもとでは、国民のひとしく受忍しなければならなかった」とする「受忍」論も不当な判断ということになるはずである。

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