5月12日を皮切りとした平野官房長官と徳之島側関係者との3回の会談の最後の16日の会談(あと1回は5月15日)で、会談相手の移設賛成派住民がメモにした7項目の地域振興策を要望項目として提示、〈一通り目を通した平野氏は「移設と振興策は別だが、7項目はすべて呑む」と言い切った。〉とその経緯を「毎日jp」記事――《普天間移設:徳之島受け入れ7条件「すべてのむ」官房長官》(2010年5月20日 2時34分)が書いている。
記事は地元3町長が受入れ拒否をしている状況下にあって、〈大胆な地域振興策で事態の打開を図るのが狙いとみられるが、「カネ」と引き換えに米軍の受け入れを迫る交渉手法に批判も出そうだ。〉と解説。
さらに、〈平野氏は会談で、奄美群島向けの10年度政府予算(奄美群島振興開発事業予算)が前年度比29%の大幅減となったことを謝罪、来年度予算編成での対応を約束した。徳之島へのドクターヘリ配備にも言及し、今後、徳之島の地元3町長や伊藤祐一郎県知事と振興策を詰める意向も示したという。〉と書いているが、予算削減への謝罪と削減を埋め合わせる来年度予算増額の意向を示したこと自体が既に予算と言うカネで釣る意思表示となっているばかりか、移設とカネを結び付けていることを示している。
にも関わらず、平野は「移設と振興策は別だが」と言っている。裏に何を隠している分からないあの無表情な、何食わぬ顔で言ったに違いない。
7項目とは――
(1)徳之島3町合計で約250億円の借金(公債)棒引き
(2)航路・航空運賃を沖縄並みに抑制
(3)燃料価格を沖縄・本土並みに引き下げ
(4)沖縄県が対象の黒糖製造工場への交付金を鹿児島県にも適用
(5)医療・福祉・経済特区の新設(健康保険税の免除)
(6)奄美群島振興開発特別措置法の所管省庁を国土交通省から内閣府へ移す
(7)看護学校、専門学校の設置
この7項目の要望の殆んどが県や徳之島という自治体が関わっている項目となっている。いわば単なる移設賛成派住民とか、民間団体が直接タッチできる問題ではない。特に(1)の「徳之島3町合計で約250億円の借金(公債)棒引き」に関しては、「借金(公債)」をどう処理するかは直接的には徳之島3町という自治体に所属する問題であって、移設賛成派住民、あるいは民間団体が勝手に提示していい要望項目ではない。
それを要望項目に入れたと言うことは、前以て町自治体の関係者と謀ったと見るべきだろう。
5月12日の徳之島徳之島町の町議との会談、5月15日の徳之島移設受入れ容認派関係者との会談。そして16日の移設賛成派住民(他の報道では移設推進の地元の団体となっている。)との会談を経ていく過程で、特に(5)の「医療・福祉・経済特区の新設(健康保険税の免除)」や、(6)の「奄美群島振興開発特別措置法の所管省庁を国土交通省から内閣府へ移す」を見れば分かるが、会談相手は平野官房長官と検討しながら、その検討内容を町自治体の関係者と連絡し合い、いわば自治体関係者が前2回の各会談の報告を受け、その報告に対する指示を出して、最後の3回目の会談で纏め上げた7項目を平野官房長官に最終提示したと見ることができる。
だが、最も確実な決定過程は7項目とも鳩山内閣で作成、それを5月12日の徳之島徳之島町の町議との最初の会談で提示した場合、それが町議側から提示された7項目だと粉飾したとしても、最初の会談で提示は用意がよ過ぎる、出来過ぎていると受け取られる恐れから、3会談をセット、各段階を経て到達した提示だと見せかけたとも疑うことができる。
この疑いの根拠は、平野長官が「移設と振興策は別だが、7項目はすべて呑む」と言い切ったとしているところにある。
それが最初の提示であった場合、一般的には「内閣に持ち帰って検討してみる」と言うべきであろう。いくら権力を持っていたとしても、平野官房長官が一人で決定していい地位にあるわけではないからだ。せめて言うことができることは、「私自身は7項目とも強力に後押しするつもりでいるが」の保証ぐらいまでである。
7項目とも鳩山内閣が作成した場合は、合意を既定事実としているから、平野長官にしても、「移設と振興策は別だが、7項目はすべて呑む」と言い切ることができる。
地域振興策で釣ることは間違っているとは思わない。「釣る」という言葉が悪ければ、正式の交渉ということになるが、記事は最後に次のように書いている。
〈会談の最後、平野氏は会談内容について出席者に固く口止めし、住民側は記者団に平野氏から振興策の話はなかったと口をそろえた。一方、出席者の一人は会談後、平野氏の「丸のみ」発言を徳之島の町長らに伝達。「微妙な変化が島にも出てきた」と賛成論の広がりに期待するが、3町長が交渉のテーブルに着く見通しは立っていない。【横田愛】〉――
「口止め」し、住民側がそれに応えて「振興策の話はなかったと口をそろえた」といった、いわば情報隠蔽を謀る交渉は裏取引そのものの証明以外の何ものでもないが、このような裏取引からは、“正式の交渉”といった正々堂々を窺うことは不可能で、例え徳之島側が提示した7項目の要望であったとしても、それを“丸呑み”することによって、結果として釣ったことになる。
以前のブログで基地移設のマイナスを上回るプラスの地域振興策を掲げて、3町長説得の正面突破を図るべきだと書いたが、やはり正面突破を図るべきだったろう。そうすることによって国民の目に正々堂々を見せることができる。正式の交渉だと胸を張ることもできる。〈平野氏は会談内容について出席者に固く口止めし、住民側は記者団に平野氏から振興策の話はなかったと口をそろえた。〉といった程度の低い情報隠蔽を図る必要は生じなかったはずである。
正面突破を試みずに程度の低い情報隠蔽を用いた裏取引に走った。情報隠蔽は報道関係者に対してばかりではない。国民の目からも交渉の経緯を隠そうとした行為に当たる。鳩山首相を初めとして平野官房長官がそういった体質を自らのものとしていて、そのような体質を起源として裏取引が展開されたということであろう。
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