名古屋入管ウィシュマ・サンダマリさん死亡はおとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせていたことからの手遅れか(3)

2021-09-27 09:14:48 | Weblog
 では、ネットで探した両剤の副作用をここに載せてみる。

 「ニトラゼパム錠5mg」(睡眠誘導剤)

まれに下記のような症状があらわれ、[ ]内に示した副作用の初期症状である可能性があります。
このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。
•呼吸困難、判断力の低下、めまい[呼吸抑制、炭酸ガスナルコーシス]
•薬を中止しようとしても欲求が止められない、(中止などにより)痙攣・不安・幻覚、不眠[依存性]
意識が乱れ正常な思考ができなくなる、考えがまとまらない、時間・場所がわからない [刺激興奮、錯乱]
•全身けん怠感、食欲不振、皮膚や白目が黄色くなる[肝機能障害、黄疸]


 「クエチアピン錠」(抗精神病薬)
   
【警 告】
1.著しい血糖値の上昇から、糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡等の重大な副作用が発現し、死亡に至る場合があるので、本剤投与中は、血糖値の測定等の観察を十分に行うこと。
2.投与にあたっては、あらかじめ上記副作用が発現する場合があることを、患者及びその家族に十分に説明し、口渇、多飲、多尿、頻尿等の異常に注意し、このような
症状があらわれた場合には、直ちに投与を中断し、医師の診察を受けるよう、指導すること(「重要な基本的注意」の項参照)。
 
【禁 忌(次の患者には投与しないこと)】
1.昏睡状態の患者[昏睡状態を悪化させるおそれがある]
2.バルビツール酸誘導体等の中枢神経抑制剤の強い影響下にある患者[中枢神経抑制作用が増強される。]
3.アドレナリンを投与中の患者(アドレナリンをアナフィラキシーの救急治療に使用する場合を除く)(「相互作用」の項参照)
4.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
5.糖尿病の患者、糖尿病の既往歴のある患者

 クエチアピン錠(抗精神病薬)は糖尿病の疾患さえなければ重大な副作用は心配ないように見える。ニトラゼパム錠(睡眠誘導剤)の方が服用にはより注意が必要なことが分かる。

 また「睡眠誘導剤」は文字通り睡眠を誘導し、一晩の睡眠を安定的に保つ役割の薬剤であって、安定的な睡眠のあとに明瞭な覚醒を約束するもので、重篤な副作用さえ生じなければ、一晩を超えて日中の睡眠まで約束するものではないはずだ。

 3月5日の記録は「午前7時52分頃~」から開始されている。3月4日就寝前の服用から約10時間は経過していると見ることができるが、朝の8時近くになっても、〈A氏の手足を曲げ伸ばして反応を確認すると,A氏は,「ああ。」などと声を上げて反応したが,朝食や飲料の摂取を促しても,A氏は,「ああ。」などと反応するのみで,摂取の意思を示さず,看守勤務者が目の前で手を何度も振るなどしたのに対しても,反応しなかった。〉と、どうにか覚醒はしているが、寝たきりで能動的な意思表示を失った状態となっていた。

 このような状態はニトラゼパム錠の(睡眠誘導剤)に副作用として書かれている〈意識が乱れ正常な思考ができなくなる、考えがまとまらない、時間・場所がわからない〉のうち、意識は乱れていないが、「正常な思考ができない」状態であり、「判断力の低下」を示す兆候と言える。多分、「判断力の低下」に付随して「時間・場所がわからない」状態に陥っている可能性もある。

 当然、注意書きとして書いてある、〈このような場合には、使用をやめて、すぐに医師の診療を受けてください。〉に従わなければならない状況にあるはずだが、看護師は当日の箱長(看守勤務者中の最上位の者)が処方薬の「過剰投与になったら怖い」というので服用継続の可否を尋ねたのに対して「こういう薬は継続して飲ませる必要がある」と答えた。

 大体が常識的に考えても、服用から約10時間は経過していたなら、重篤な副作用が生じていない限り、服用前の体の反応と判断力を最低限は回復していなければならない。服用10時間経過後も、それらが回復できない薬の処方などあるのだろうか。看護師である以上、そのような薬の処方はないを常識としていなければならないはずだ。回復できずに体の反応と判断力が服用前よりも悪化していたなら、明らかに副作用と見る常識のことである。

 勿論、薬の効き方には個人差がある。当然、服用も個人差に応じなければならない。昨夜の薬の服用で〈朝食や飲料の摂取を促しても,A氏は,「ああ。」などと反応するのみで,摂取の意思を示さず,看守勤務者が目の前で手を何度も振るなどしたのに対しても,反応しなかった。〉と朝食時になっても正常な体の反応と正常な判断力の喪失が彼女本人の個人差による副作用だとしたら、逆に服用を控えて、以後の様子を見るなり、嘱託の庁内医師が勤務外の日であるなら、受診した外部の精神科医に問い合わせするなりしなければならない。だが、そのような配慮は一切せずに看護師はウィシュマ・サンダマリさんの心身の状態に応じることなく機械的に継続服用を求めた。このことを常識の範囲内だとすることができるだろうか。

 「(2)A氏に対する抗精神病薬及び睡眠誘導剤の処方に問題はなかったか」(75ページ)の、「ア 経緯と背景事情(3月4日受診時の状況等)」には、〈第三者である総合診療科医師は,「A氏に対する1日当たり100ミリグラムを1錠という処方量は通常量と言え,処方の仕方に問題はなかった」との見解を述べている。〉と処方量に間違いないと証明している。だが、薬には副作用があり、看護師は医師に頼らなくても、副作用なのか、副作用ではないのかを見抜くことができる、あるいは疑うことができる常識だけは備えているはずだし、備えていなければならないはずだ。

 「イ 評価と要改善点」(76ページ)

医師である2名の有識者からは,

〇医師からA氏がこのような状態になったらこのように対処するようにという指示がなかったのであれば,名古屋局職員が服用の継続の当否を判断するのは難しかっただろうとの指摘がなされた。

また,1名の有識者からは,

○週末で医療従事者が不在となることが分かっていたのであるから,事前に名古屋局職員から戊医師に対し,処方された薬剤の留意点について説明を求めるなどして情報を得ておくべきであったし,同薬剤を服用した後,A氏に外観上の顕著な変化が現れたのであるから,その時点でも処方した戊医師に相談できる体制が必要であった。 名古屋局側と外部医師との間でのコミュニケーションの在り方に問題があったとの指摘がなされた。

そうすると,看守勤務者が3月5日もA氏に対して抗精神病薬及び睡眠誘導剤を服用させたこと自体に問題があったとまでは評価できないと考えられるが,休日に医療従事者が不在となるのであれば,休日の間に体調不良の被収容者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分な情報を得ておくべきであった。また,そうした薬剤の服用の結果,被収容者に外観上の顕著な変化が現れたと思われる時は,休日であっても処方した医師に連絡・相談し,又はそれに代わる対応をとることができる体制を,組織として整備しておくべきであった。

しかし,名古屋局では,こうした対応体制が整備されていなかった。

特に休日において,内外の医療機関との連携を強化する必要がある。

 2名の有識者は、要するに"外観上の顕著な変化"が生じた場合はどう対処するか医師から指示がなかったのだから、名古屋局職員が、つまり当時の看護師が「服用の継続の当否を判断するのは難しかっただろう」と擁護していて、"外観上の顕著な変化"を副作用ではないかと疑う看護師としての常識を問題の外に置いている。

 1名の有識者にしても同様である。ウィシュマ・サンダマリさんの3月5日の容態としてあった服用後約10時間後の「外観上の顕著な変化」をどう捉えるかの看護師としての常識は問わずじまいで片付けている。服用10時間経過後の体の反応と判断力が薬剤の服用前よりも悪化しているという状況は副作用抜きではあり得ないことだが、そうは見ていなかった看護師の常識を異常とも見ていなかった。

 看護師が最後の最後まで副作用と見る常識を発揮しなかったと考えられる理由は看守勤務者たちがウィシュマ・サンダマリさんの心身不調を「詐病・仮病」の類いと疑っていて、懲らしめの感情から、外部精神科医に睡眠誘導剤と抗精神病薬を処方されたのを幸いとばかりに彼女を静かにさせるために過剰服用させた結果の"外観上の顕著な変化"――服用前よりも悪化した体の反応と判断力であるということを承知していたからとするしか答を見出すことはできない。

 このことの状況証拠を一つ示すことができる。死亡した3月6日の報告に見つけることができる。

 ○3月6日(土)(52ページ)

A氏は,午前中,ベッドに就床し,大きく呼吸しつつ,首を上下左右に振ることを繰り返していたが,看守勤務者らの問いかけ等に対する反応は弱く,看守勤務者が着替えをさせた際に,「あー。」 と声を上げて顔をしかめる程度であった。

午後1時過ぎ以降,A氏は,次第に,就床しながら首をかすかに動かす程度となり、午後2時7分頃の看守勤務者による体調確認の際には脈拍が確認されず,外部医療機関に救急搬送されたが,午後3時分頃,搬送先の病院で死亡が確認された。

同日のA氏に対する主な対応状況は,以下のとおりである。

〔午前7時1分頃~〕
A氏の居室内の照明を点けた後,室外から看守勤務者が声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午前8時12分頃~〕
看守勤務者らは,A氏の居室に入室し,A氏の顔をのぞき込みながらA氏に繰り返し声を掛けたが,A氏がほとんど反応を示さず,バイタルチェックにおいても血圧及び脈拍が測定できなかったため,血圧等測定表の血圧欄には,「脱力して測定できず。」と記載した。

〔午前8時56分頃~〕
女子区の被収容者について点呼が行われた。男性の副看守責任者と女性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,A氏に対して,「おはよう。」「目を開けて。」 などと何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったりするなどもしたが,A氏は反応を示さなかった。看守勤務者は,A氏の手首に手で触れてA氏の脈拍があることを確認した。

〔午前9時10分頃~午前9時24分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,A氏に対し,朝食を食べるよう促したほか,A氏の下着を着替えさせるなどした。時折,A氏は,「あー。」などと声を上げることもあったが,看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった。

なお,この際,看守勤務者が,A氏に対し「ねえ,薬きまってる?」と述べたことがあった。

〔午前10時40分頃~〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,朝食の摂食と処方薬の服用を促すなどした。A氏は「あー。」「うー。」などと声を発することもあったが,看守勤務者の問いかけに反応しないこともあった。看守勤務者らは,A氏の上半身を起こし,処方薬のイノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤)及び(メコバラミン錠 末梢性神経障害治療剤)を服用させた。この際,看守勤務者1名が背中及び頭を支え,もう1名の看守勤務者が口内に薬と飲み物を入れた。A氏は,時折むせたり,飲み物を吐き出したりしながらも,薬を服用した。

〔午後零時56分頃〕
看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。

〔午後1時31分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後1時50分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏。」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時3分頃〕
看守勤務者は, A氏の居室の室外から,「A氏,A氏,聞こえる?」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時7分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの,脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

〔午後2時11分頃〕
男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施したが,測定不能であった。また,A氏の脈拍は確認できなかった。

〔午後2時15分頃〕
副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。

〔午後2時20分頃〕
看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。

〔午後2時25分頃〕
到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。

〔午後2時31分頃〕
A氏は外部の病院に救急搬送された。

〔午後3時25分頃〕
搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。

 3月4日就寝前の薬剤服用で3月5日は明らかに彼女の体の反応と判断力が服用前よりも悪化していたにも関わらず、3月5日も「午後9時30分頃~」に看守勤務者は彼女にクエチアピン錠(抗精神病薬)とニトラゼパム錠(睡眠誘導剤)を各1錠ずつ服用させた。2021年3月6日は土曜日で、毎週月曜日及び毎週木曜日午後1時15分から午後3時15分まで勤務の庁内内科医も、毎月第三火曜日午後3時から午後5時まで勤務の庁内整形外科医も不在で、月曜日から金曜日までの午前9時から午後5時45分までの勤務の女性看護師1名も、准看護師2名(男女各1名)も休日不在であった。当然、看守勤務者とその上司のみで対応することになるから、それぞれの場に応じた早め早めの適切な対応が必要になる。万が一に備えるのが危機管理で、名古屋出入国在留管理局も万が一に備えた体制は十分であったはずだ。

 最初に「午前9時10分頃~午前9時24分頃」に看守勤務者たちがウィシュマ・サンダマリさんの居室に入室し、朝食の指示、下着を着替えさせたことについて触れてみる。下着を着替えさせるのは昨日の3月5日から始まっている。3月5日のその箇所を改めて取り上げてみる。

 〈看守勤務者らがズボン及び下着を着替えさせた。A氏には,衣服の交換に合わせて体を動かすなどの反応はなかった。〉

 このような体の反応を彼女を静かにさせるために3月4日に外部整形外科医から処方された睡眠誘導剤か抗精神病薬を、あるいはその両方を過剰服用させたためと疑っているが、3月6日の午前9時過ぎの彼女の体の反応は看守勤務者らが彼女の居室に入室し、彼女に朝食を食べるよう促したほか、下着を着替えさせるなどしたが、時折、彼女は「あー」などと声を上げることもあったが、看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった状態にあった。

 要するにベッドに寝かせた状態でズボンと下着を着替えさせたのだろう。だが、足を持ち上げようとする気配も、尻を浮かそうとする意思も見せなかった。看守勤務者のなすがままになっていた。普通だったら、植物状態か、植物状態に近いと見られところだが、このような状態が3月5日は1日中続いていて、さらに「午後9時30分頃」に看守勤務者が介助してクエチアピン錠(抗精神病薬)とニトラゼパム錠 (睡眠誘導剤)を各1錠ずつ服用させた翌日3月6日の3月5日に続く心身の反応なのだから、医師も看護師も、准看護師も不在ということなら、普段利用している土曜日も診療している外部医療機関に連れていくか、愛知県全般の各市町村に休日夜間診療所を設けていて、名古屋市もその例に漏れず、救急搬送ではなくても、「平日夜間・土曜・日曜・祝日・年末年始」の救急診療を受け付けているのだから、連れていかなければならない体の状態だったはずだが、そういった処置は採られることはなかった。

 「ウ 休日,夜間等の庁内医師らの不在時の対応」(11ページ)には、〈休日,夜間等の庁内医師らの不在時に,看守勤務者が被収容者の体調不良を把握した場合は,直ちに看守勤務者から看守責任者に報告することとされていた。

 報告を受けた看守責任者は,当該被収容者の症状等に応じ,外部医療機関への救急搬送又は救急外来への連行,休養室での容態観察,救急常備薬の投与等の対応判断し,措置後,事後的に担当収容区の統括入国警備官,処遇部門首席入国警備官に報告していた。〉と従来からの規則を述べているが、規則通りの措置にしても何ら顧みられることはなかった。 

 その理由はズボンと下着を着替えさせた際に看守勤務者が彼女にかけた言葉にある。「ねえ,薬きまってる?」

 この場面で言っている「きまる」は薬物の効果で精神が高揚状態、あるいは恍惚状態になっている様子を指す言葉である。だから、主語は「薬」という単語でなければならない。「薬」という言葉を使わなくても、主語は「薬」を意図していなければならない。

 ウィシュマ・サンダマリさんに対して看守勤務者たちが「何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったり」したのは睡眠誘導剤や抗精神病薬の副作用が原因の意識混濁状態だとは見ていないからできたことであろう。もし副作用だと見ていたなら、手術後にまだ全身麻酔が効いていて昏睡状態にある患者は静かに寝かせておくようにそっとしておくはずである。要するに処方された薬で眠っている状態にあるわけではないことを承知いる状況下で、「ねえ,薬きまってる?」と聞いた。大体が薬剤の服用の影響で意識が混濁状態にあると見ていたなら、彼女の容態を気にかけなければならない立場と時と場合に置かれた看守勤務者が口にするにふさわしい言葉とは決し言えないし、冗談を口にしていい場面でもない。となれば、揶揄する気持ちは含まれていても、ウィシュマ・サンダマリさんのそのときの体の状態を言葉の意味のままに問い掛けた事実だけが残ることになる。

 要するに彼女の心身の不調を「詐病・仮病」の類いと疑ってかかって、3月5日と同様に懲らしめの感情から薬で眠らせておいたと疑うことができる。あるいは静かにさせて、手のかからない状態にしておいた。問題は一人の女性看守勤務者のみが行なったことなのか、担当の看守勤務者たちがグルで行なったことなのかである。

 看守勤務者たちが「何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったり」したのは睡眠誘導剤や抗精神病薬の副作用が原因の意識混濁状態だとは見ていないからだけではなく、薬で眠らせていることを悟られないための演技である可能性が出てきて、グルで行なっていた疑いが濃くなる。

 薬を飲ませていたと疑うと、3月5日「午前9時18分頃~」の発言、〈看守勤務者がA氏に何を食べたいかを尋ね,A氏が聴き取り困難な「アロ・・・」 といった声を発したのに対し,看守勤務者1名が「アロンアルファ?」と聞き返すことがあった。〉の「アロンアルファ?」にしても、シンナーと同列の「薬」として反応した発言の可能性が出てくる。

 尤も「アロンアルファ?」は有機溶剤を含まないということで、実際にはシンナーの代用にはならないそうだが、女性看守勤務者がその知識がなかったなら、シンナーの代用となる有機溶剤入りの一般的な接着剤の連想から、「アロ・・・」と口から漏れた言葉を「アロンアルファ」に反射的に引っ掛けたということもある。

 調査チームの検証、「3 A氏に対する収容中の介助等の対応の在り方」「(介助を要する状況の下で,A氏への対応は適切に行われていたか)」(80ページ~)には、〈3月1日に体調不良によりA氏がうまく摂食等ができない状態にあったことを受けた「鼻から牛乳や。」との発言,3月5日や死亡当日の午前に,A氏が脱力し,明確に意思を示さないなどの状態であった中での,3月5日の「アロンアルファ?」と聞き返した発言及び3月6日午前の「ねえ,薬きまってる?」との発言など。〉に関して、〈そうした発言をした看守勤務者の一人は,A氏の介助等により業務に負担が生じていた状況が長期化しつつあった中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いから軽口を叩いたものであった旨供述している。〉としている。

 「鼻から牛乳や。」はウィシュマ・サンダマリさん自身を笑ったもので、この笑いにはよく言ってからかい、悪く言うと、嘲笑が含まれている。同僚を笑わす意図の言葉であったとしても、からかいや嘲笑に同調する衝動を与えるだけで、「気持ちを軽くする」作用は持たない。もし気持ちが軽くなったりしたら、彼女に憎しみの感情か蔑みの感情を持っている場合であろう。「ざまあみろ」という感情が働けば、気持ちが軽くなる。当然、彼女に「フレンドリーに接したいなどの思いから」の「軽口」などではない。

 「アロンアルファ?」は職員の気持ちを軽くするために叩いた軽口だとするのは一応は筋は通るが、彼女は看守勤務者が「フレンドリーに接したいなどの思い」を示したとしても、伝わる心身の状態にあったわけではない。〈「あー。」「あーあー。」などと声を発するのみで,意思表示がはっきりしない状況であった。〉のである。職員の気持ちを軽くする役には立っても、看守勤務者のフレンドリーさは彼女に対しては意味をなさないことになる。

 もしフレンドリーさを何とはなしに感じ取って貰うだけもいいということで発した言葉なら、〈看守勤務者がA氏に何を食べたいかを尋ね,A氏が聴き取り困難な「アロ・・・」 といった声を発した〉以上、看守勤務者は聞き返して「アロ」から連想できる食べ物か飲み物を何としてでも探り当てて、その食べ物か飲み物を用意し、介助するなりして相手の味覚と食欲を満足させるべきだったが、食べ物とは連想が断絶した「アロンアルファ?」と聞き返したのは、食べ物を探り当てる気などなく、瞬間的にそこに連想が働いたからであって、その連想に意味を求めなければならない。「フレンドリー」でも何でもなかったということである。

 最後に「ねえ,薬きまってる?」の検証について。彼女の意識混濁状態を薬物の効果で精神が恍惚状態に入っていると見立てることは同僚を笑わすことはできても、ウィシュマ・サンダマリさんに対しては失礼を通り越して侮辱に当たる。「フレンドリー」が「侮辱的」という意味を取るなら、「フレンドリーに接した」ということになるだろう。

 問題は看守勤務者たちが彼女の心身の不調を「詐病・仮病」の類いと疑ったことによってそのときどきで現れることになっている処遇態度であるという視点から調査・検証しているかどうかであって、していなければ、「調査報告書」は欠陥を抱えることになる。

 以上の3つの発言に対する「イ 評価と要改善点」

 〈この点について,3名の有識者から,(83ページ)

 看守勤務者の不適切な発言については,介助等の負担の中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いからであったとしても,明らかに人権意識に欠ける不適切な発言であり,職員の意識改革を徹底する必要がある。〉

 〈介助等の負担の中,職員の気持ちを軽くするとともにA氏本人にもフレンドリーに接したいなどの思いからであったとしても〉云々と相手の証言をそのまま受け入れている。勿論、不適切発言の要因は人権意識の欠如ではあるが、この手の欠如を看守勤務者に可能とする素地は被収容者に対して上下の力関係を築いているからであり、つまりは既に触れたように看守勤務者が被収容者に対して支配者として君臨している関係性を多かれ少なかれそこに見なければならない。そしてこの支配者としての君臨は当然のこととして被収容者に対する処遇全般に現れることになるという両者の関係性を計算に入れて看守勤務者たちの行動を評価していかなければならないことになる。 

 だが、そういった視点を欠いたままの検証が行われている。大体が「3名の有識者から」だとか、「2名の有識者から」などとどこの誰とも名を名乗らないのは責任の所在を曖昧にしていることになり、信用が置けない。

 3月6日のウィシュマ・サンダマリさんの「反応」を改めて見てみる。「午前7時1分頃~」は、〈室外から看守勤務者が声を掛けたが,A氏は反応を示さなかった。〉、「午前8時12分頃~」は、〈A氏がほとんど反応を示さず,バイタルチェックにおいても血圧及び脈拍が測定できなかったため,血圧等測定表の血圧欄には,「脱力して測定できず。」と記載した。〉、「午前8時56分頃~」は、〈A氏に対して,「おはよう。」「目を開けて。」 などと何度も声を掛け,また,肩を手で叩いたり, 体を揺すったりするなどもしたが,A氏は反応を示さなかった〉、「午前9時10分頃~午前9時24分頃」は、〈A氏に対し,朝食を食べるよう促したほか,A氏の下着を着替えさせるなどした。時折,A氏は,「あー。」などと声を上げることもあったが,看守勤務者からの問いかけに明確に意思を示すことはなかった。〉・・・・・

 ウィシュマ・サンダマリさんは「午前7時1分頃~」から「午前9時10分頃~午前9時24分頃」までの約2時間半近くも、"明確に意思を示すことはなかった"ことを含めて、“A氏は反応を示さない”状態が続き、さらに血圧及び脈拍測定ができない状況にありながら、以後も同様の状態が続くが、ベッドの上に放置されたままでいた。「覚醒はしているが、精神活動は浅い眠りに近い状態。外界の認知に混乱が生じ、見当識(時間、場所、周囲の人物、状況などを正しく認識する能力)が障害される軽度の意識混濁」(「意識レベルの変化」(東京慈恵会医科大学神経病理学))にあるのではないかとは見ていなかった。「軽度の意識混濁」という知識はなかったとしても、「おかしいな」、「大丈夫なのかな」と心配することもなかった。もし薬で眠らせていたとしたら、「おかしいな」とか、「大丈夫なのかな」と心配しなかったことは合点がいく。

 では、以後の「午前10時40分頃」から死亡に至る「午後3時25分頃」までのウィシュマ・サンダマリさんの体調の変化と看守勤務者側の対応を拾い出してみる。

 〔午前10時40分頃~〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し,朝食の摂食と処方薬の服用を促すなどした。A氏は「あー。」「うー。」などと声を発することもあったが,看守勤務者の問いかけに反応しないこともあった。看守勤務者らは,A氏の上半身を起こし,処方薬のイノラス配合経腸用液 (経腸栄養剤)及び(メコバラミン錠 末梢性神経障害治療剤)を服用させた。 この際,看守勤務者1名が背中及び頭を支え,もう1名の看守勤務者が口内に薬と飲み物を入れた。A氏は,時折むせたり,飲み物を吐き出したりしながらも,薬を服用した。

〔午後零時56分頃〕
看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。

〔午後1時31分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが, A氏は反応を示さなかった。

〔午後1時50分頃〕
看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏。」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時3分頃〕
看守勤務者は, A氏の居室の室外から,「A氏,A氏,聞こえる?」と呼び掛けたが,A氏は反応を示さなかった。

〔午後2時7分頃〕
看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの,脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

〔午後2時11分頃〕
男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施したが,測定不能であった。また,A氏の脈拍は確認できなかった。

〔午後2時15分頃〕
副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。

〔午後2時20分頃〕
看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。

〔午後2時25分頃〕
到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。

〔午後2時31分頃〕
A氏は外部の病院に救急搬送された。

〔午後3時25分頃〕
搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。

 「午後零時56分頃」、〈看守勤務者は,A氏の昼食が全量未摂食で居室入口の食事搬入口に置かれているのを見て,搬入口の外から室内のA氏に向かって食べるようにと促したが,A氏が反応を示さなかったため,昼食用食器を搬入口に残置した。〉

 これもおかしい。これまでは看守勤務者が介助して食べさせていた。薬で眠らせているから、介助しても無駄だと分かっていて、〈昼食用食器を搬入口に残置した。〉のだろうか。もし介助に応じることができない程に体が弱っていたと見ていたとしたら、搬入口の外から声をかけたというのは「死人に口なし」の作文か、薬で眠らせていないことを装う演技ということになる。

 但し介助に応じることができない程に体が弱っていた可能性は十分にある。この約1時間20分後には救急搬送を要請し,AED装置の使用を試みたのだから。

 「午後1時31分頃」の状況は、〈看守勤務者は,A氏の居室の室外から,「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声を掛けたが, A氏は反応を示さなかった。〉とやはり「A氏は反応を示さなかった」となっている。だが、「A氏,喉渇いてない,大丈夫?」,「A氏,大丈夫?」と声をかけたのは余程心配な様子に見えたからとすることができるが、心配な様子に見ながら、上司である副看守責任者を呼んで、救急搬送しなくて大丈夫ですかと指示を仰ぐこともしなかった。

 以後も、「A氏は反応を示さなかった」状態が続くことになる。

 「午後2時7分頃」、〈看守勤務者らがA氏の居室に入室し, A氏の体を揺すったり,耳元で呼び掛けたりしたが, A氏は反応を示さなかった。 また,看守勤務者がA氏の体に触れて確認したものの, 脈拍が確認されず,A氏の指先が冷たく感じられた。さらに,A氏の血圧等を測定したが,測定不能であった。

 出入国在留管理庁のページ、「収容施設について(収容施設の処遇)」に、〈収容施設の構造及び設備は,通風,採光を十分に配慮しており,冷暖房が完備されています。〉と書いてあるが、人が「快適だ」と感じる温度は夏場は気温25~28℃で、冬場は気温18~22℃ということだから、名古屋市の2021年3月6日(土)の最高気温19.9、最低気温10.4は冬場の快適気温18~22℃を下回ることになって、暖房は使用していたと思われる。

 だが、〈A氏の指先が冷たく感じられた。〉しかも血圧等は、〈測定不能であった。〉

 この5分後の「午後2時11分頃」に〈男性の副看守責任者及び男性の看守勤務者がA氏の居室に入室し,女性の看守勤務者が再度,A氏の血圧等の測定を実施した〉のはウィシュマ・サンダマリさんの容態を初めて異常だと捉えたからだろう。しかも男性の副看守責任者までがお出ましになったのである。“A氏は反応を示さない”状態が続いていた際には異常と見ることもなかった。薬剤の副作用からの体の反応と判断力の低下ではないのかと一般的な常識さえも働かせることはなかった。薬で眠らせていたとすると、働かせてもいいはずの一般的な常識が働かなかったこととの整合性が取れる。

 この4分後の「午後2時15分頃」、〈副看守責任者が電話により救急搬送を要請し,通話を継続しながら,看守勤務者に対し,AED装置の使用を指示し,看守勤務者がA氏に対するAED装置の装着を開始した。〉

 5分後の「午後2時20分頃」、〈看守勤務者が, A氏の体にAED装置を装着し終えたところ,電気ショックを与えることなく心臓マッサージを必要とする旨の音声指示が流れたことから,心臓マッサージを実施した。〉

 救急搬送要請から約10分後の「午後2時25分頃」に、〈到着した救急隊員にA氏の救命措置を引き継いだ。〉

 「午後3時25分頃」、〈搬送先の病院でA氏の死亡が確認された。〉

 この「救急搬送」に対する「調査報告書」の説明を見てみる。 

☆☆ 「 (5)もっと早く救急搬送できなかったか 」前記(1)④)(74ページ~)

ア 経緯と背景事情(看守勤務者の認識)

3月5日及び同月6日に交替制で勤務に当たっていた複数の看守勤務者は,前記のようなA氏の体調の外観上の顕著な変化を認識していたものの,3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響によるものと認識し,A氏の体調の変化が生命に危険を及ぼすような要因によるものとは考えていなかった。

 イ 評価と要改善点

医師である2名の有識者からは,

○3月5日や同月6日のA氏の状況を踏まえても,救急搬送が遅かったというのは結果論であって,医師による診療や看護師による対応がなされていた中で,医療的素養がない職員において,それらの時点で,別の医師の診療を受けさせ又は救急搬送すべきとの判断を行うことは難しかっただろうし,職員らが3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響と認識していたのであれば尚更そうであるとの指摘がなされた。

また,1名の有識者からは,

○速やかに対応すべきであったが,看守勤務者らが精神科の投薬による影響と考えていたことは無理もないところなので,実際上は即時の対応は難しかったであろうとの指摘もなされた。

これに対し,2名の有識者からは,

○A氏の外観上の顕著な変化を踏まえ,3月5日か,どんなに遅くとも同月6日朝の点呼で反応が見られなかった時点で,速やかな対応がなされるべきであったとの指摘がなされた。

このように,看守勤務者の対応について,有識者の見解が一致をみているものではないが,名古屋局での取扱いについては,反省と改善を要する点があった。

まず,医療体制の制約があり,特に休日は医療従事者が不在となる中では,緊急を要する可能性がある状況が生じた場合には,看守勤務者から看守責任者等の上司に状況を報告するとともに,早期から救急搬送を視野に入れた対応を開始し,あるいは,医療従事者に相談するなど,体調不良者の容態の急変等に対応するための情報共有・対応体制を整備すべきであった。

しかし,当時の名古屋局では,組織として,休日における幹部への報告や医療的相談等の対応体制が整備されていなかった。休日等の医療相談体制の構築に努めることや,緊急時の対応については,過去の収容施設における被収容者死亡事案の再発防止策としても掲げられていた(110-まず,平成26年3月の東日本入国管理センターにおける死亡事案の再発防止策の一つとして,容態観察中の被収容者について,土日や夜間であっても非常勤医師に症状の報告・相談をする体制等の構築に努めることが示されていた。また,平成29年3月に東日本入国管理センターで発生した死亡事案を踏まえて発出された,平成30年3月5日付け法務省入国管理局長指示「被収容者の健康状態及び動静把握の徹底について」(※現在も出入国在留管理庁長官指示として効力を有する。)では,被収容者の体調不良の状況において「時間帯により看守責任者等が当該被収容者への対応を判断せざるを得ない場合は,体温測定等の結果に異状が見られなくとも,安易に重篤な症状にはないと判断せず,ちゅうちょすることなく救急車の出動を要請すること」等の周知徹底が各官署に対し指示されていた。)が,名古屋局でその実施が徹底されていなかったことは,反省すべき点である。

次に,看守勤務者は,外部病院の精神科で処方された薬の影響でA氏に前記のような外観上の顕著な変化が生じていると認識したとしても,あまりに反応が薄いなどの状況を疑問に感じ,A氏の全身の状態が想定以上に悪化しているのではないかとの「気付き」を得て上司に相談するべきであり,そのような対応ができるよう,組織として,看守勤務者等の職員の意識を高めておく必要があった。

しかし,名古屋局においては,そうした教育や意識の涵養が十分に行われていなかった。

(6)小括

以上をまとめると,A氏の死亡前数日間の医療的対応については,次のとおりである。

①A氏に対して抗精神病薬及び睡眠誘導剤を処方した戊医師の判断に問題があったと評価することはできず,A氏の体調に外観上の顕著な変化が見られた後も看守勤務者において同薬剤を服用させたこと自体に問題があったとも評価できないと考えられる。

しかし,医療従事者が不在となる休日に体調不良者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分に情報を得たり,服用後に外観上の顕著な変化が現れた時に,処方した医師と連絡・相談できる体制の整備が必要であったが,名古屋局ではそれが行われていなかった。

② 3月6日にバイタルチェックで一部項目が測定不能であったのに,それを受けた対応がとられなかった要因として,休日で医療従事者が不在であり,外部の医療従事者へのアクセスも確立されていなかったという医療体制の制約があった。バイタルチェックについての基準やマニュアルも作成されていなかった。

また,救急搬送等の対応に関しては,特に休日において,体調不良者の容態の急変等に対応するための情報共有・対応体制が整備されておらず,職員に対する教育や意識の涵養も十分に行われていなかった。

 〈3月5日及び同月6日に交替制で勤務に当たっていた複数の看守勤務者は,前記のようなA氏の体調の外観上の顕著な変化を認識していたものの,3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響によるものと認識し,A氏の体調の変化が生命に危険を及ぼすような要因によるものとは考えていなかった。〉

 ウィシュマ・サンダマリさんの「外観上の顕著な変化」を一般常識的に薬剤の副作用と捉えて、危機意識を持つことはなかったのはなぜなのか視点を相も変わらずに欠いたままの検証となっている。

 〈○3月5日や同月6日のA氏の状況を踏まえても,救急搬送が遅かったというのは結果論であって,医師による診療や看護師による対応がなされていた中で,医療的素養がない職員において,それらの時点で,別の医師の診療を受けさせ又は救急搬送すべきとの判断を行うことは難しかっただろうし,職員らが3月4日に外部病院の精神科で処方された薬の影響と認識していたのであれば尚更そうであるとの指摘がなされた。〉

 「医療的素養」があるないの問題ではない。薬を服用しているのは分かっていることであり、服用後約10時間経過後も服用前の体の反応と判断力よりも悪化している状況を前にして「おかしいぞ」と気づく常識の発揮である。当然、否応もなしに副作用という思いに突き当たらざるを得ない。大抵の人間が持っているそのような常識が自ずと働かなかったのはなぜなのかの疑問は薬で眠らせていたと疑うと解消させることができる。

 〈また,1名の有識者からは,

○速やかに対応すべきであったが,看守勤務者らが精神科の投薬による影響と考えていたことは無理もないところなので,実際上は即時の対応は難しかったであろうとの指摘もなされた。〉

 「精神科の投薬」が心身の悪化を招いている状況を看守勤務者たちも看護師も直視することはなかった。薬剤の投与前は反応を示していた彼女が投与後は、「A氏は反応を示さなかった」「A氏は反応を示さなかった」で片付けていた。悪化の状況を薬剤の副作用という視点から疑うことはなかった。常識的には考えられないことで、副作用を疑わなかったのは薬で眠らせていたと考えると、全てが氷解する。

 〈これに対し,2名の有識者からは,

○A氏の外観上の顕著な変化を踏まえ,3月5日か,どんなに遅くとも同月6日朝の点呼で反応が見られなかった時点で,速やかな対応がなされるべきであったとの指摘がなされた。〉

 当然な指摘だが、「外観上の顕著な変化」を薬剤の副作用と直結させる一般的常識を眠らせたままにしておいたのはなぜなのかを問う看守勤務者たちや看護師たちの責任については触れない事勿れな内容となっている。

 勿論、副作用と直結させる一般的常識を眠らせたままにしておいたのは薬で眠らせていたからと疑うことができる。

 〈しかし,当時の名古屋局では,組織として,休日における幹部への報告や医療的相談等の対応体制が整備されていなかった。〉

 体制の不備以前に薬剤の副作用を疑うごくごく一般的な常識が働いていい状況にありながら、なぜそのような一般的な常識が働かせることはなかったのかに焦点を当てるべきだったろう。

 〈次に,看守勤務者は,外部病院の精神科で処方された薬の影響でA氏に前記のような外観上の顕著な変化が生じていると認識したとしても,あまりに反応が薄いなどの状況を疑問に感じ,A氏の全身の状態が想定以上に悪化しているのではないかとの「気付き」を得て上司に相談するべきであり,そのような対応ができるよう,組織として,看守勤務者等の職員の意識を高めておく必要があった。〉

 薬で眠らせていたなら、その後遺症と見る常識が働いて、薬剤の副作用と疑うごくごく一般的な常識の働く余地はない。

 「 (6)小括」で、〈医療従事者が不在となる休日に体調不良者に服用させる薬剤の効果や副反応につき,処方した医師から事前に十分に情報を得たり,服用後に外観上の顕著な変化が現れた時に,処方した医師と連絡・相談できる体制の整備が必要であったが,名古屋局ではそれが行われていなかった。〉としているが、「イ 評価と要改善点」(76ページ)で既に述べられていることだが、「十分な情報」を得ていなかったとしても「副反応」(=副作用)と判断するだけの常識は備えていなければならなかったはずだが、そのような常識を働かせることができなかった点こそが本質的な問題点となる。そこに留意しなければ、いつまで経っても「体制」の問題として、「人の問題」が抜きにされることになる。

 薬で眠らせていたからではないかと疑うことがウィシュマ・サンダマリさんの心身の急激な変調を薬剤の副作用と見るごくごく一般的な常識が働かなかったこととの間に整合性が取れる。結果、「ねえ,薬きまってる?」という言葉を口にすることになった。

 彼女の心身の不調を最初から最後まで「詐病・仮病」の類いと疑い、そのように装うことに対して看守勤務者にしても、看護師にしても蔑む感情や懲らしめる感情を内に秘めて彼女に接したために彼女にストレスを与え、そのストレスが「詐病・仮病」の類いで装っていたのかもしれない様々な心身の不調を実際の症状に変えてしまう身体化を誘い出して、身体化障害へと形を変え、そのことに気づかない看守勤務者や看護師の「詐病・仮病」の類いと疑う態度が続いたために身体化障害を悪化させていたところへ持ってきて、おとなしくさせるために薬の過剰投与で眠らせた結果、彼女の心身を一気に深刻な状態に陥れたものの、そのような心身の不調が薬のせいだばかり思っていたために救急搬送が遅れて、手遅れを招いてしまった。

 もし薬の過剰投与があったとしたら、3月5日、3月6日の看守勤務者や看護師の彼女に対する様々な世話や介助、リハビリ等はほぼ全面的に薬で眠らせていたことを隠す「死人に口なし」の作文ということになる。

 勿論、確たる証拠があるわけではないが、「調査報告書」からこのように推理したのだが、勘ぐり過ぎではないことを願う。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 靖国神社の戦死者は大日本帝... | トップ | 名古屋入管ウィシュマ・サン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Weblog」カテゴリの最新記事