戦艦武蔵戦後70年節目の亡霊の如き出現と戦前軍国主義を背後霊とした安倍晋三戦後日本社会出現との関係性

　太平洋戦争中の昭和19年10月にフィリピンのレイテ湾に向かう途中、アメリカ軍の攻撃を受けて撃沈されに当時世界最大級の戦艦「武蔵」と見られる戦隊が同海底で発見され、インターネット上に公開された。

　公開したのはアメリカのIT企業マイクロソフトの共同創業者で資産家のポール・アレン氏。

　日本の専門家は、「今回の映像には『武蔵』であることを裏付ける決定的な証拠が映っている」（NHK NEWS WEB）と話している。

　戦後70年節目の亡霊の如き出現である。

　戦艦武蔵は世界の戦争の戦い方が大艦巨砲主義が主流であったことに則って大日本帝国海軍によって計画され、1938年（昭和13年）3月29日建造開始、約4年後の1942年8月5日に就役している。

　だが、その当時は既に速度と攻撃力で戦艦に劣らない、さらに小回りが効いて機動性に富んだ戦闘機を戦力の中核に位置づける航空主兵論に軸足を移しつつあったと言う。そして航空主兵論は戦艦型の艦船建造から戦闘機を艦載できる航空母艦型の艦船建造への転換を促したという。

　そのような状況下での大艦巨砲主義をものの見事に体現した戦艦武蔵野の出現であったのだから、この出現自体が亡霊の如くと形容されて然るべきかもしれない。

　「Wikipedia」を参考にすると、日本軍は1942年6月、ミッドウェー海戦の敗北で航空優先の戦備方針を決定するが、この決定を受けて戦備計画を立てたものの、計画の遂行・実施は――いわば計画自体の具体化は不徹底のまま推移したという。

　軍部の中に大艦巨砲主義に拘る者が無視できない数で抵抗勢力化していたのではないだろうか。

　航空優先の戦備方針を決定、航空主兵論に軸足を移したのは1942年8月7日から始まる日本軍守備・米豪上陸攻撃のガダルカナル島の戦いに敗れて1943年2月1日から7日にかけて撤退作戦を敢行、その翌年の1943年3月25日付の「第三段作戦計画発令」まで待たなければならなかった。連合艦隊作戦要綱を制定発令し、航空主兵を目的とした兵術思想統一が行われたという。

　ミッドウェー海戦の敗北、ガダルカナル島の戦いの敗北・撤退を学習した結果の戦闘機優先の航空主兵論への転換であったはずだ。

　問題は大艦巨砲主義の化身ともいうべき戦艦武蔵就役は1943年3月25日付「第三段作戦計画発令」のたった約8ヶ月前の1942年8月5日だということである。

　欧米では航空主兵論時代の夜が開けつつあるときに大艦巨砲主義の旗を大々的に掲げて登場した。

　1944年（昭和19年）10月22日にレイテ沖海戦に参戦すべく入港していたブルネイを出港、1944年10月24日にアメリカ軍戦闘機の数次に亘る波状集中攻撃を受けて満身創痍となり、来襲戦闘機数75機による第6次の攻撃で夜の7時35分に敢え無く沈没するに至ったという。

　大艦巨砲主義から航空主兵論への転換を決定づけた象徴的幕切れとも言うことができるはずだ。

　軍国主義の一つの集大成でもあり、時代遅れとなった大艦巨砲主義を時代遅れのまま背負って沈没した戦艦武蔵が戦後70年を節目として亡霊の如くに発見され、日本の今の時代にその姿を現すこととなった。

　安倍晋三は「戦後レジームからの脱却とは、占領期間に作られた、占領軍によって作られた憲法やあるいは教育基本法、様々な仕組みをもう一度見直しをしてその上に培われてきた精神を見直して、そして真の独立を、真の独立の精神を取り戻すことであります」と言って、戦後レジームからの脱却を謀っている。

　占領時代と占領軍の政策を否定している以上、「真の独立と真の独立の精神を取り戻す」基準は戦前の日本国家と戦前の日本人の精神に置いていることになる。

　戦前日本国家を理想国家像とし、戦前日本人の精神を理想の日本人像として、その復古に政治家として自らのライフワークとしていることになる。

　いわば戦前軍国主義の復古でもある。

　その姿を第1次安倍内閣にではなく、第2次安倍内閣発足後、今年戦後70年目になってから、露骨に曝すことになった。

　一旦はこの世から姿を消しながら、戦後70年を節目とした今年、時代遅れの大艦巨砲主義を背負い、軍国主義の一大的な象徴でもある戦艦武蔵が発見され、現在の日本にその姿を彷彿させていることと安倍晋三が戦前軍国主義国家日本を理想国家像とし、戦前日本人の精神を理想の日本人像として、その復古に賭けている。

　共に戦後70年目を節目としてまるで軌を一にしたような両者の出現は果たして無関係な出来事だろうか。

　安倍晋三の出現を象徴する戦艦武蔵の出現に思えて仕方がない。

　日本はアメリカに敗戦し、アメリカを主体として連合軍に占領された。戦艦武蔵が日本人の手によってではなく、撃沈させたと同じ国籍のアメリカ人に発見されたということも、なにか象徴的である。