安倍晋三の「成長戦略第2弾スピーチ」を絵に描いた餅とする人口問題

2013-05-19 07:40:41 | 政治

 一昨日の5月17日、安倍晋三が政策提言集団だとかの日本アカデメイアで「成長戦略第2弾スピーチ」と題して講演を行った。例の如く、立派な政策を並べ、日本の経済回復、日本の成長はこれで大丈夫だと思わせるに十分な力強さに満ち満ちていた。

 そこでの発言は首相官邸HP――《安倍総理「成長戦略第2弾スピーチ」》(日本アカデメイア/2013年5月17日)に依った。一読すれば、大いなる元気を貰うことができる。

 発言の順を追って、主なところを拾って、ケチをつけていく。

 冒頭、次のように言っている。

 安倍晋三「政権発足から5か月が経過しました。

 今週、無事、25年度予算が成立いたしました。年末からの予算編成で、年度をまたぎましたが、国民への影響を最小限におさえながら、結果を出す政治を、また一歩前に進めることができたと考えています」

 「結果を出す政治」だと、決めつけているところが素晴らしい。余程自信過剰に陥っているらしい。内閣支持率が保証する政策実行能力ではない。
 
 安倍晋三「ゴールデンウィークは、本格的な経済外交をスタートさせました。ロシアと中東です。

 大企業のみならず、中堅・中小企業の皆様も含めて、総勢100名を超える、経済ミッションにも同行していただき、官民一体で、日本の「強み」を売り込んでまいりました。

 1週間で2万8千kmを移動する強行軍ではありましたが、ここにご出席の多くの方にもお付き合いいただいたわけでございますが、ロシアも、中東も、伸び盛りの成長センター。医療システム、食文化、エネルギー、インフラなど幅広い分野にわたり、日本企業がかかわるプロジェクトが動き出しました。手ごたえは、十分です」――

 「1週間で2万8千kmを移動する強行軍ではありました」と言っているが、移動距離が結果を生み出す要因ではない。政策と実行方法と結果が問われている。

 また「手応え」イコール結果ではない。

 これらの認識を持っていたなら、あるいは政策の実現に関わる危機管理意識を持っていたなら、常に結果への意識が働いて、結果の保証とはならない事柄をさも結果を保証する事柄のようには取り上げないはずだ。

 問題はロシア訪問を「経済外交」のみで把えている点だが、領土返還交渉の進展具合で経済外交が支障をきたさない保証はない。
 
 「2.民間投資を喚起する成長戦略」の項目で、「世界から日本に取り込む」政策と「日本から世界に展開する」政策を相互関連させて紹介している。

 安倍晋三(日本から世界に展開する)「(長引くデフレと自信喪失解消の)実現の鍵は、日本が生み出した優れたシステム、技術を、世界に展開していくことであります。

 医療、食文化、宇宙、防災、エコシティ。今や、従来のインフラだけにはとどまりません。

 私たち日本人が築き上げてきた、誇るべき様々なシステム。これを、世界が求めています。大きな商機です。

 トップセールス、戦略的な経済協力、そして、国際標準の獲得。新しい「インフラシステム輸出戦略」を打ち立て、現在10兆円のセールスを、2020年までに3倍の30兆円まで拡大してまいります」

 安倍晋三(世界から日本に取り込む)「もう一つの鍵は、世界の技術、人材、資金を、日本の成長に取り込むことであります。

 日本で、大胆な投資を喚起しなければなりません。

 その主役は、企業です。ここにも経営者の皆さんがたくさんいらっしゃいますが、政府もがんばりますので、皆さんには、ぜひともチャレンジしていただきたいと思います。

 その目指すところは、投資によって労働者の生産性を高め、手取りを増やすことです。意欲を持って働く人たちが、報われなければなりません。

 経済界には、先般、報酬引上げを要請いたしましたが、今年の春闘では、たくさんの企業がよく応えてくださったと思います。報酬が上がることは、消費を拡大し、景気を上昇させて、企業にもメリットがあります。

 政府も、投資しやすい環境づくりをはじめ、成長戦略を骨太に実行します。経営者の皆さんにも、雇用や報酬という形で、働く人たちに、果実を行き渡らせて頂きたいと思います。

 『世界で勝って、家計が潤う』。アベノミクスも、いよいよ本丸です」――

 「日本から世界に展開する」ことと「世界から日本に取り込む」こととは「技術、人材、資金」の日本と世界の相互交通性を言っているはずである。

 発展的な相互依存関係の構築と活用を指す。基本的には共に栄える共存共栄の思想の裏打ちがあって成り立つ相互的な政策であるはずである。それが「世界で勝って、家計が潤う」となる。

 一つの企業、一つの産業が世界で勝つという状況はあり得るが、それでも内実は多くの面に亘って相互関係にある。勝つことだけに拘って、共に栄える共存共栄の思想、その謙虚さを基本のところで失念していたなら、思い上がりが先行して、勝てる勝負も勝てなくなる。

 大体が「世界で勝って、家計が潤う」といく程、物事はそう単純ではない。単純に考えているところにも危うさを感じる。

 「3.イノベーションを促す実証先進国」

 安倍晋三「トランジスタ・ラジオの開発で、世界をリードしたソニーは、その後、資本にまさる大企業に、後塵を拝することとなりました。

 『ソニーはモルモットだ』と揶揄する声に対し、創業者である井深大(まさる)さんは、こう述べて、社員に奮起を促したと言います。

 『決まった仕事を、決まったようにやるということは、時代遅れと考えなければならない。

 『常に新しいこと』を『製品に結びつけていく』。そのような『モルモット精神』を上手に活かしていけば、いくらでも新しい仕事ができてくる』

 新たなイノベーションに挑み続ける「モルモット精神」を持つ企業に、大きなチャンスを創る。これが、安倍内閣の役割です」――

 そしてそのための規制改革を約束した。

 「決まった仕事を、決まったようにやるということは、時代遅れ」と言った井深大の言葉を紹介しているが、「決まった仕事を、決まったようにやる」行動性・思考性の原因が暗記教育にあるということを安倍晋三は気づいているのだろうか。

 政治が一方で各種規制改革に取り組み、日本の教育が暗記教育によって「決まった仕事を、決まったようにやる」暗記型の行動性・思考性の人間を育てて社会に送り込こむことが続いたなら、自ら新しい発想に挑戦するのとは逆の改革した規制に改革の都度依存するだけの社会をつくることになる。

 政治の規制改革を待つまでもなく、新しい発想によって民間の側から規制を打ち破っていく挑戦的姿勢を持つことができければ、創造的な産業も創造的な社会も構築できないはずだ。

 そしてその基本となるのは考える人間を育てる教育――暗記教育からの脱却以外にないと思うが、安倍晋三にはそのような発想はない。

 「4.世界に勝てる大学改革」

 安倍晋三「人材も、資金も、すべてが世界中から集まってくるような日本にしなければ、「世界で勝つ」ことはできません。

 今、世界で活躍しようと考えて、日本の大学を選ぶ若者が、世界にどれだけいるでしょうか?

 『世界大学ランキング100』というものがあります。日本の大学は、残念ながら、2校しかランクインしていません。

 『日本の大学』ではなく、『世界の大学』へ、

 日本の大学は、もっともっと世界を目指すべきです。『日本の大学は、日本人を育てるためのものだ』などという狭量な発想を捨てることが、私の考える『大学改革』です」――

 「日本の大学は、日本人を育てるためのものだ」とする考えは日本人を上に置いていることからの権威主義的な発想から来ている。無意識下に日本人優越意識を存在させているからこその日本人上位性であろう。

 特に他のアジアやアフリカの発展途上国の人間を下に見ているから、人材交流がアメリカ等の先進国よりも劣っていることになる。
 
 日本人を上に置き、発展途上国の人間を下に見るこの権威主義は暗記教育が教師及び教師が伝える知識・情報を上に置き、生徒を下に置いて教師の知識・情報に従うだけ権威主義的構造と相互関連し合っている。

 当然、日本の教育システムを改革することから始めなければ、日本の大学から世界の大学への発展は困難となる。

 大体が長いこと世界第2位の経済大国を誇ってきならが、100位以内に2校しかランクされていないということは考える教育とはなっていないことを物語っているはずだ。

 このことに気づいていない安倍晋三の「私の考える『大学改革』」であるなら、土台なしで壮大な高層建築を構想するようなものであろう。

 6.攻めの農林水産業

 安倍晋三「私は、現在1兆円の「六次産業化」市場を、10年間で10兆円に拡大していきたいと思います。
             
         ・・・・・・・・・

 (供給サイドの構造改革)供給サイドの構造改革も、避けて通れません。

 農業や農村の現場をとりまく状況は厳しさを増しています。

 この20年間で、農業生産額が、14兆円から10兆円へ減少する中で、生産農業所得は、6兆円から3兆円へと半減しました。

 基幹的農業従事者の平均年齢は、現在、66歳です。20年間で、10歳ほど上がりました。これは、若者たちが、新たに農業に従事しなくなったことを意味します。

 耕作放棄地は、この20年間で2倍に増えました。今や、滋賀県全体と同じ規模になっています。

 高齢化の急速な進展は、一見すれば「ピンチ」ですが、意欲ある若者にバトンタッチできれば、構造改革に一気にドライブできる「チャンス」になると私は思います。

         ・・・・・・・・・

 (農業・農村の所得倍増目標)今日、私は、ここで正式に、『農業・農村の所得倍増目標』を掲げたいと思います」――

 安倍晋三(美しいふるさとを守る)「農業の素晴らしさは、成長産業というだけにはとどまりません。

 棚田をはじめ中山間地域の農業は、田んぼの水をたたえることで、下流の洪水被害の防止など、多面的な機能を果たしており、単なる生産面での経済性だけで断じることはできない大きな価値を有しています。

 そのため、このような多面的機能も評価した、新たな『直接支払い制度』を創設することが必要と考えています。

 息を飲むほど美しい田園風景。日本には、朝早く起きて、汗を流し田畑を耕し、水を分かち合いながら、五穀豊穣を祈る伝統があります。

 農業を中心とした、こうした日本の「国柄」は、世界に誇るべきものであり、断固として守っていくべきものです。

 製造業が、日本の高度成長の基礎となった産業であるとするならば、農業は、『国の基(もとい)』、すなわち、世界に誇るべき日本の伝統・文化を生み出した基礎であると考えます」――

 「息を飲むほど美しい田園風景」、「世界に誇るべき日本の伝統・文化を生み出した基礎」だと、日本の農村と農業を高く価値づけている。

 だが、現在の農村の過疎化、高齢化、所得の減少化、耕作放棄地の増加、いわば「息を飲むほど美しい田園風景」とは正反対の農村の荒廃はすべて自民党政治がつくり出した日本の風景である。

 製造業やその他の都市の産業を発展させるために農業政策を置き去りにして人材、特に若者を“金の卵”と称して農村から奪った。要するに製造業やその他の都市の産業が金の卵を手に入れるために産む母体である農村という鶏を殺してしまった。

 本質的な原因は農業では食えなかったからだ。

 農村の特に若い女性は戦後も暫くの間は人身売買の対象とされた。身売りされ、売春を強要されたり、女工として昼夜別ない過酷な労働を強いられたりした。

 農村の若者にとっては日本の製造業の発展は自分たちの貧困を解決してくれるまさに救いの神であった。大人たちも農閑期に限って、あるいは食えない農業を捨てて1年を通して都会に出稼ぎに出た。

 金の卵は戦争中の産めや増やせの人口政策によって戦後も増え残った食い扶持を減らす意味もあったはずだ。そして製造業その他の産業が発展をし続けて、発展に応じた労働者数を必要とするようになり、農村の過疎化を順次加速させていった。過疎化が高齢化等々につながっていった。

 だが、「現在1兆円の『六次産業化』市場を、10年間で10兆円に拡大」する、あるいは「今後10年間で、六次産業化を進める中で、農業・農村全体の所得を倍増させる戦略を策定し、実行に移」すについては、それ相応の人材・雇用を必要とする。

 一方で規制緩和、制度改革、技術改革で製造業を含めた日本の産業を成長させていき、「世界に勝つ」としている。

 当然、成長に応じてそれ相応の人材が現在以上に必要となり、雇用が増加する。

 但し人口減少社会となっている。成長・発展していく農業にしても。成長・発展していく産業にしても、双方を成り立たせるためには人口減少化を受けた人材(=生産年齢人口)が限られた状況下で必要とする人材を確保しなければならない不可能に挑戦しなければならないことになる。

 かつては可能とした農業から製造業やその他の産業へとの、農村の過疎化や高齢化、衰退化を招く原因となった人材の移動は以降は望むことができないことになる。

 双方が人材の争奪戦を演じれば、人件費が高騰して、高騰すれば農業も製造業その他の産業も国際競争力を失うというジレンマに陥る。

 当然、「成長戦略第2弾スピーチ」が結果を出すためには出生率を格段に上げ、人口を減少から増加に転じる有効な政策が必要となる。

 だが、安倍晋三の今回の「成長戦略第2弾スピーチ」は人口政策に一言も触れていない。

 いくら頭の悪い安倍晋三でも、日本の成長・発展には人口増加がか隠すことのできない基本戦略となることに気づいているからこそ、待機児童問題や育児休業3歳までに取り組んでいるのだろうが、人口問題を前提として「成長戦略第2弾スピーチ」を成り立たせていないことの認識は結果という実現に疑いを抱かせるに十分である。

 「成長戦略第2弾スピーチ」を絵に描いた餅としないとも限らない欠如意識と言える。

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