麻生太郎がインド訪問で見せた対中国観に見る相変わらず単細胞な浅知恵

2013-05-06 08:39:04 | 政治

 インドを訪問していた単細胞麻生太郎が5月4日、インド商工会議所連盟等が主催する講演会で講演、講演後の質疑応答で中国に対する警戒感と日本の採るべき軍事的対応を述べている。

 《麻生副総理「中国とスムーズにいった歴史ない」日印米豪の協力強調》ZAKZAK/2013.05.05)

 記者の質問は解説文を会話体に直した。

 記者「インドでも中国と領有権をめぐる紛争があり、安全保障や海洋分野での日本とインドの関係を強化すべきではないか」

 麻生太郎「インドは陸上で中国と国境を接し、日本は海上で接触を持っているが、我々は過去1500年以上の長きに亘り、中国との関係が極めてスムーズにいったという歴史は過去にない」

 要するに麻生は日本を善の立場に置き、中国を悪の立場に置いて発言している。中国は日本と違って歴史的に見ても友好な外交関係を築く能力がない国だと貶(けな)した。

 かなりの蔑みである。

 だったら、中国とは政治関係のみならず、経済関係も一切やめたらどうかと言いたくなるが、もしやめるわけにはいかないと言うことなら、もう少し考えた物言いをすべきだが、単細胞に出来上がっているから、無理な注文といったところなのだろう。

 記者「中国の軍事的台頭に対抗する日印関係はどうあるべきか」

 麻生太郎「インドと日本は哲学で結ばれ、価値によって突き動かされる同盟国同士ではないだろうか。

 豪州に米国が駐留軍を置くという事態は、地域のスタビリティー(安定)を大事にしなくてはならないという表れだ」

 発言の後半は記事解説を待つまでもなく、既に設立している「日米豪印戦略対話」に基づいた対中国包囲網強化の必要性への言及である。

 前半の発言の「価値」とは安倍晋三が常々言っている「自由、民主主義、法の支配、基本的人権等々の普遍的価値観」を指し、そういった価値観を共有できる外国と外交関係を推進していくとしている、いわゆる「価値観外交」の共有を謳った。

 「インドと日本は哲学で結ばれ」の発言は哲学が日印両国関係の強力な絆となっているという物言いとなる。と言うことは、両国間の多くの利害は絆が一致させる力となることを意味することになる。

 恐れ入る単細胞な浅知恵だ。

 断るまでもなく、外交の基準はあくまでも国益である。但し如何なる二国関係に於いても、すべての面に亘って国益が合致するということはない。日米関係に於いても為替や関税、商習慣等で利害を異にする。

 インドと日本が軍事的に対立することはなくても、インドは国益の程度に対応した濃淡の関係を日本と築いていくはずだ。

 いわば国益は如何なる「哲学」に優先する。哲学で結ばれているからと言って、国益を犠牲にすることはないはずだ。

 安倍晋三は今年3月末にモンゴルを訪問、エルベグドルジ大統領との首脳会談後、「自由や民主主義、法の支配といった普遍的価値を共有する戦略的パートナーシップに弾みがついた」(MSN産経)と訪問の成果を誇ったが、モンゴルは、日本とは普遍的価値観を共有していない中国と長距離に亘って国境を接し、戦略的パートナーシップの関係を構築している。

 いわば日本とモンゴルがいくら戦略的パートナーシップの関係を構築しようとも、モンゴルの対中、対日を天秤にかけた国益に応じて日・蒙の戦略的パートナーシップは蒙・中の戦略的パートナーシップによって相対化の力を受けるということであって、日・蒙の戦略的パートナーシップが常に絶対ではない関係に曝される。

 と言うことは、「自由や民主主義、法の支配といった普遍的価値」も絶対ではなく、常に相対化の力を受けることになって、殊更誇る外交基準足り得ないことになる。

 だが、安倍晋三は単純に誇ることができる単細胞を見せた。

 勿論、蒙・中関係も日・蒙関係を受けて同じ相対化に曝されることになる。但しどちらの相対化が優位性を獲得できるかも問題となる。

 安倍晋三のモンゴル訪問については4月1日(2013年)当ブログ記事――《安倍晋三の水戸黄門葵の印籠の如くに言う「価値観外交」の有効性 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之
に書いた。

 麻生太郎は単細胞にも日本に都合のいい、日本側からのみ見た「哲学」と「価値」を持ち出して、日印米豪の対中包囲網とする軍事的・政治的協力体制構築強化の必要性を訴えたが、この「哲学」と「価値」にしてもインドと中国の関係を受けて相対化に曝されない保証はない。

 インドは中国と国境を接していて、1962年の中印国境紛争では中国側の侵攻によって軍事衝突まで起こしている。いわばインドにとって中国は再度の侵攻の将来的な可能性を否定できない警戒レベルの高い軍事大国だが、だからこそ、「自由や民主主義、法の支配といった普遍的価値」を共有する他国と中国に備えた何らかの協力関係を結んだとしても、そのような協力関係を中国と友好な関係を維持する国益上、相対化させないということはないだろう。

 インドは第1次安倍内閣時代の安倍晋三が提唱、2007年5月設立の非公式軍事同盟の「日米豪印戦略対話」の一員である。この「日米豪印戦略対話」は日本が扇子の要となって、日印、日米、日豪の各二国間同盟によって維持されているという。

 関係国の顔ぶれを見れば、明らかに対中を意識した戦略対話であるはずだ。

 日印二国間同盟によって日印首脳は毎年相互訪問を継続している密接な関係を築いている。

 さらに日印は「外相間戦略対話」を日印交互に開催している。この外相間戦略対話は「日米豪印戦略対話」の構築を進めている間に構想され、第1回外相間戦略対話は日米豪印戦略対話が2007年5月に設立される前の2007年3月22日、日本で当時の麻生太郎外相とムカジーインド外相との間で開催されている。

 今年の対話はクルシード・インド外相が来日して3月26日岸田外相との間で第7回目を行なっている。

 日本の外務省のHPによると、この対話で、岸田外相から、シン・インド首相訪日の成功に向け引き続き準備を進めたい旨述べた上で政治・安全保障分野で両国の対話と協力が進展していることは喜ばしく、この観点から次官級「2+2」対話や局長級日米印三カ国協議等の政治対話を充実させたい旨述べ、海洋に関する対話とサイバー協議の第2回会合を本年中に開催したいとの考えを伝えたという。

 これに対しクルシード外相からインド側も「2+2」対話や日米印協議、海洋に関する対話、サイバー協議を進め、日本との政治対話を一層深化させていきたい旨述べたとのこと。

 以上の文脈からして、「日米豪印戦略対話」がそうであるように、その対中包囲網に対応させた対話であることが分かる。

 但しこの対話が描き出す日印関係がそれぞれの国益に応じて相対化の力を受けない独立した対中包囲網となり得るかである。

 クルシード外相自身が今回の訪日前に対中包囲網を否定している。《インド外相:「中国包囲網」構築に否定的》毎日jp/2013年03月21日 20時59分)

 クルシード外相が3月26日からの日本訪問を前に3月21日に日本人記者団と会見したときの発言である。

 クルシード外相(中国を牽制するため、日本や米国、インド、オーストラリアが戦略的協力を深めるべきだとの声が日本などで出ていることに関連して)「インドは中国を念頭にした多国間関係は築かない。

 日本が中国への懸念を深めているのは理解できるが、領土問題などの争点は、2国間の建設的な対話で平和的に解決すべきだ。インドも中国と領土問題を抱えているが、印中関係発展の妨げになっていない」――

 「日米豪印戦略対話」にしても、この対話を構築する日印二国間同盟にしても相対化を受けるというメッセージであり、中国に対する、インドは対中包囲網の構築には加わらないというメッセージであろう。

 この相対化は「日米豪印戦略対話」が想定している対中包囲網効果を想定以下とすることになる。

 麻生太郎がこの発言を情報としていなかったとは考えられない。例え情報としていなかったとしても、インドの中国との間の地理的関係をも含めた政治情勢を考えたなら、外国がインドと結ぶどのような戦略的関係も中国によって左右されるインドの国益に対応して相対化の力学を受けることを想定していなければならなかったはずだ。

 にも関わらず、「我々は過去1500年以上の長きに亘り、中国との関係が極めてスムーズにいったという歴史は過去にない」と発言、中国の反発を誘発することに成功したとしても、「インドと日本は哲学で結ばれ、価値によって突き動かされる同盟国同士」だと、国益という点からしたら確実性が希薄であることに気づかずに「哲学」とか、自由や民主主義、法の支配等々の「価値」を持ち出して同盟関係強化を求める外交センスはまさに浅知恵としか言い様がない。

 安倍晋三にしても靖国参拝を敢行したい衝動を持ちながら中韓との間に政治問題化・外交問題化することを恐れて参拝を控えている。村山談話、河野談話を見直したい国家主義者らしい衝動を抱えていながら、やはり政治問題化・外交問題化を恐れて、見直したい意思を曖昧化している。

 自らがこうあるべきだとしている信念さえも内閣運営上の利害を優先させて相対化の力を加える。麻生太郎は安倍晋三のそういった相対化を常日頃から間近に見ていながら、外国との関係にしてもそれぞれの国益という利害を受けて相対化の力学が働くことに思いを及ぼすことができなかったから、あのような相対化を含意しない日本を中心に置いた単細胞・浅知恵な発言となった。

 鈍感な男だ。

コメント (3)
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