小泉元首相時代の元政務秘書飯島勲安倍内閣官房参与が5月14日(2013年)から北朝鮮の首都ピョンヤンを訪問している。観光に出かけたわけではあるまい。昨年の12月28日、拉致被害者家族会メンバーが首相官邸を訪れて拉致の早期解決を要請した。
安倍晋三「もう一度総理になれたのは、何とか拉致問題を解決したいという使命感によるものだ」
まさかそんなことはあるまい。拉致問題解決は処理しなければならない懸案の一つであったかもしれないが、政権を無責任にも投げ出して失った名誉回復が最大の目的だったはずだ。
心にもないことをさも心にあるかのように大袈裟に言うところが如何にも安倍晋三らしい。
安倍晋三「この内閣で必ず解決する決意で拉致問題に取り組む」
そう締めくくったことの手がかり着手に早速取り掛かったといったところに違いない。
飯島勲の北朝鮮訪問の詳しい目的や現地での日程は明らかにされていなくても、安倍晋三が拉致解決に向けて直接行動に出たと誰もが見たはずだ。
例え安倍晋三が国会でその目的を問われても、「総理大臣としてノーコメントだ」とか、「政府はノーコメント」と答えようが、それは望む結果に繋がらなかった場合には受けるかもしれない批判を前以て避ける予防措置としか受け取られないだろう。
拉致解決の糸口を掴むために訪朝しました、手ぶらで戻って来ましたでは格好がつかない。例え手ぶらであったとしても、拉致を議題にしてもいい感触が掴めた、次回の機会に繋げたいと継続可能性を演出すれば、手ぶらの批判をかわすことはできる。
いずれにしても、大方の人間が飯島勲は安倍晋三の指示を受けて拉致で動いたを共通の事実としているはずだ。
但しこの行動は現在、北朝鮮に対してはその核兵器及びミサイル開発問題や拉致問題等の包括的解決を方針として、米国、北朝鮮、日本、韓国、中国、ロシアの6カ国を枠組みとして協議を行うとしている共同行動に対して単独行動となる。
包括的解決に対する単独行動を安倍晋三はどう解決するのだろうか。しかも飯島勲の訪朝を、6カ国協議の米国側首席代表であるグリン・デービース米国務省対北朝鮮政策特別代表は代表として対北朝鮮政策協議のために5月13日に韓国、15日に中国、16日に日本と順に訪問する途次の韓国ソウルで、「聞いていなかった」(YOMIURI ONLINE)と、前以て報告がなかったことを伝えている。
15日には中国北京で、日本政府から「わずかな説明(があった)。まだ情報が足りない。評価は、日本で詳しい説明を聞いてからにしたい」(同YOMIURI ONLINE)と、北朝鮮が飯島勲の訪朝をメディアを通して伝え、日本の国会で問題となってからの、6カ国の枠組みに反した報告の遅れに間接的に言及している。
韓国政府に対しても前以ての報告がなく、韓国政府は飯島訪朝から1日経過した5月15日に日本政府から説明があり、説明が遅れたことについて遺憾の意が伝えられたと明らかにしている。
そして5月16日日本を訪問したデービース特別代表に杉山外務省アジア大洋州局長が面会、「NHK NEWS WEB」記事によると、〈平成14年の日朝ピョンヤン宣言に基づいて、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的な解決を目指す日本政府の方針に変わりはないとして、理解を求めたものとみられます。〉と解説している。
この解説は6カ国協議の枠組みの制約を受けて拉致解決のみを目的とする単独行動が許されていない日本政府が置かれている状況からして、当然の文言であろう。
拉致解決のみを目指した訪朝ですなどと口が裂けても言えないはずだ。
だが、果たして日本政府に北朝鮮の核開発問題、ミサイル開発問題を北朝鮮と話し合うだけの力と資格があるのだろうか。
北朝鮮の国家としての最大の目的は米国に核保有国であることを認めさせることである。認めさせることが米朝国交の前提とすることができる。
対して米国にとっての最も重視している優先順位の最上位は核問題である。北朝鮮が非核化に向けて行動を起こさなければ、対話には応じない姿勢でいる。
この関係に日本がどれ程に関与できるというのだろうか。アメリカが同じテーブルについていて、あるいは北朝鮮とアメリカのみのテーブルで話し合いが行われて初めてスタートできる核問題であり、ミサイル問題であろう。
一方、北朝鮮の日本に対する望みは日本から戦争賠償を得て、北朝鮮経済の立て直しに役立てることで、米国に核保有国であることを認めさせる目的とは個別問題となっているはずだ。
いわば北朝鮮は核問題もミサイル問題も日本と包括的解決の議題とする対象には入れていないはずだということである。
日本とのみ交渉しても、拉致解決ならぬ、埒の明かない問題となるだけだろう。必然的に拉致解決のみが議題となる。
但し北朝鮮が拉致解決に動くためには金正恩は自己の父子権力継承による権力掌握の正統性を根拠づけている一方の権威たる父親の金正日が拉致の張本人ではないことを日本側が認めること、張本人であることが露見する可能性を孕む拉致実行犯の引渡しを日本側が求めないことを条件とすることが予想される。
要するに拉致被害者の帰国はこの2つの条件をクリアする必要が日本側にある。
だが、核開発問題やミサイル開発問題、拉致問題等の包括的解決から拉致だけを抜き取った解決は、そのことによって戦争賠償を北朝鮮に約束した場合、現在行なっている北朝鮮に対する西側の経済制裁を無効にする役目を果たすことになる。
いわば日本自らが経済制裁を発動した国連安保理決議を破ることになる。
もし日本が北朝鮮の核放棄とミサイル開発放棄を先だとした場合、北朝鮮は当然のこと、拉致解決に応じないはずだ。北朝鮮がいずれをも放棄する決意を固めたとしても、アメリカの保証を優先することになるだろうからである。
安倍晋三は拉致解決のために6カ国協議を枠組みとした包括的解決のハードルをどうクリアするのだろうか。クリアするだけの知恵を持っているのだろうか。