鳩山元首相をして党外交担当最高顧問就任がその気にさせた(?)イラン訪問と野田首相擁護の矛盾

2012-04-13 10:43:01 | Weblog

 人間は他の誰よりも自分自身を最も信頼する。その典型例の最たる一人が鳩山元首相であり、最も“トラスト・ミー”に仕上がっている人間ではないだろうか。

 首相退陣後、一旦は衆院任期終了後の引退を表明していながら、自分自身の言葉を裏切って引退を撤回できたのは何よりも自身の能力に対して“トラスト・ミー”の盲目的な自信過剰があったからだろう。

 その“トラスト・ミー”な鳩山元首相が政府から要請を受けたのでもない個人的な立場でイランを訪問したことが批判を浴びた。

 但しその訪問を批判する閣僚がある中、唯一、野田首相が党首討論でその“トラスト・ミー”なイラン単独・独善的訪問を擁護した。

 この批判と擁護の相反する態度は内閣不一致の様相を示していないだろうか。

 経緯を見てみる。

 4月7日(2012年)、イランの首都テヘランを訪問、サレヒ外相と会談。《鳩山元総理 イランを訪れ外相と会談》NHK NEWS WEB/2012年4月8日 2時26分)

 口を開くたびに枕詞として、「トラスト・ミー」を連発したかどうかまでは記事は紹介していない。連発しなかったから紹介しなかったのか、連発したけど、信用できない“トラスト・ミー”だから、紹介しなかったのか。

 鳩山元首相「日本は戦争と原発の事故と、2回、核の被害を受けた国であり、核の被害の悲惨さを経験している。イランには、核兵器の開発は行わないでいただきたい」

 サレヒ外相「そもそもイランには核兵器の開発を行なう意図はない。信頼してほしい」

 鳩山元首相の発言は少なくともイランに核兵器開発の意図ありを前提としている。その意図がないと見ている国に、「開発は行わないでいただきたい」とは言えない。

 だが、言っていること自体は日本の政治家なら誰でも言えること、誰もが言うことを型どおりに口にしたに過ぎない。

 問題はその意図が現在のところ意図で終わっているのか、あるいは意図から一歩踏み出して、どれ程具体化させているか、イランが国際決議に反して濃縮ウランの生産に向けた取り組みを一層強化していると見ている西欧諸国はその点を重視し、明らかにすべき交渉を様々に働きかけ、査察も行なっている。

 対してサレヒ外相はあっさりとその意図を否定した。当然、意図の具体化は一切存在しないことになる。

 具体化が存在しないなら、核関連施設への立入検査を全面的且つ無条件に認めて、意図の具体化が存在しないことを証明してもよさそうなものだが、国際原子力機関(IAEA)の1月末(2012年)の調査団派遣でも、2月末(2012年)の派遣でも、要請していた軍事施設への立ち入りに関してイラン側の協力は得られず、何ら成果を上げることができなかった。

 鳩山元首相はこの矛盾を突いたのだろうか。

 サレヒ外相が「そもそもイランには核兵器の開発を行なう意図はない。信頼してほしい(トラスト・ミー?)」と発言したのに対して、ハイ、そうですかと子供の使いをしたわけではないことは1年3か月ぶりに来週再開のイランと欧米等関係6か国との交渉について行った鳩山元首相の発言が幸いにも証明してくれる。

 鳩山元首相「対話を通じて問題を解決することが重要であり、イランは交渉では柔軟な対応をお願いしたい」

 少なくとも問題の所在を前提としているが、この発言にしても日本の政治家なら誰でも言えること、誰もが言うことを型どおりに口にしたに過ぎない。

 サレヒ外相「イランも来週の交渉は、大変重要な意義があると思っている」

 鳩山元首相の型どおりの発言に対する型どおりのお返しとなっている。“公式的発言”と形容できる見解を述べたに過ぎない。

 以上を見る限り、イランを動かすことができたようには見えない。動かすことができなければ、訪問の意味を失う。

 そして4月8日のアフマディネジャド大統領との会談。《鳩山元首相 イラン大統領と会談》NHK NEWS WEB/2012年4月9日 5時3分)

 会談後の記者会見。大統領に伝えた発言。

 鳩山元首相「日本は核兵器の開発について技術的な能力はあるが、核兵器を持たない国だという国際社会の信頼を50年かけて勝ち得てきた。イランも疑惑を払拭するため対話で問題を解決する努力を続け、武力の行使が起きないようにしてもらいたい」

 対話は後付けの具体的な行動があって初めて問題解決を可能とする。求めるべきは具体的な行動としてのIAEAの核関連施設への無条件の立入検査であろう。

 やはり日本の政治家なら誰でも言えること、誰もが言うことを型どおりになぞったに過ぎない。

 〈調整が続いていた欧米側との交渉を行う開催地について、トルコのイスタンブールに決まったと伝えられ〉たと語ったという。

 鳩山元首相(イラン訪問は議員としての個人的な活動だとしたうえで)「総理大臣を経験したときに培った人脈を大事にして、国益に資することは何かと考えて行動したつもりだ。政府の立場と異なるメッセージを出したわけではなく、ご理解を願いたい」

 日本にとっての国益とはイランの核開発疑惑の完全払拭と払拭に対応した西欧諸国の経済制裁解除、イラン原油の全量輸入再開であろう。

 だとしたら、やはりIAEAの核関連施設への無条件の立入検査以外にないはずだが、型どおりの発言以外にそのことを求めたとする発言を見つけることができない。

 ここまでは何のためにイランを訪問したのか、特段の理由があったとは思えない意味不明な、形式的な会談模様を呈しているに過ぎないが、イラン大統領府の会談についての公式発表が物議を引き起こすこととなった。

 《鳩山氏“イランの発表はねつ造”》NHK NEWS WEB/2012年4月9日 23時35分)

 大統領府(会談の内容について)「鳩山氏は、『IAEAは、イランなどに二重基準を適用しており、公正ではない』と述べた」

 対して鳩山元首相は4月9日、イラン帰国後の国会内記者会見で、「トラスト・ミー」を発言した。

 鳩山元首相「完全に作られたねつ造で、遺憾に思っている。私が大統領に伝えたのは『核保有国を対象にせず、非保有国の平和利用に対して査察を行うというのは、公平ではないことは承知している。ただ、日本も長年、国際社会の疑念を払う努力を進めてきたので、イランも疑念を晴らす努力をしてもらいたい』ということだ」

 鳩山・サレヒ会談での発言と矛盾している。サレヒ会談では「イランには、核兵器の開発は行わないでいただきたい」と、少なくとも核兵器開発の意図ありを前提としていた。

 そのことに矛盾させて、IAEAが未だ疑惑を払拭できない核兵器開発問題をここでは何ら疑惑もなしに核非保有国の平和利用だと断定している。「イランも疑念を晴らす努力をしてもらいたい」と言っている言葉は平和利用だとする断定に対応させた言葉であろう。

 いわば核兵器開発の疑念を晴らして、平和利用であることを証明して貰いたいとする、あくまでも平和利用を絶対前提とした発言趣旨となる。

 鳩山元首相はどこでどういう方法で核非保有国の平和利用だと見做すことができたのだろうか。
 
 イランは真に平和利用のみなら、無条件の査察受入れに何ら障害はないはずだ。「トラスト・ミー」の言葉に有言実行、裏切らないゆえに外交の達人と称されることとなった鳩山元首相の訪問をわざわざ煩わすこともなかったはずだ。

 イランにしても過酷な経済制裁を受けて、国内経済を悪化させ、国民生活を困窮・圧迫させることもなかったはずだ。

 大統領府の発表に怒り心頭に達した・・・・のかどうか分からないが、鳩山元首相は在日イラン大使館に「事実と違う」と抗議した。抗議に対してイラン側は訂正に応じた。

 但しである。《イラン側、鳩山氏発言を削除 ただ「発言は事実」》asahi.com/2012年4月10日22時59分)

 〈在日イラン大使館が10日、鳩山氏に謝罪した。英語版とペルシャ語版のウェブサイトから発言も削除した。〉――

 大統領府担当者(朝日新聞の取材に)「発言は事実だが、日本との間で緊張を引き起こしたため」

 鳩山元首相が「核保有国を対象にせず、非保有国の平和利用に対して査察を行うというのは、公平ではないことは承知している」と言って、核兵器開発疑惑のない「平和利用」だと断定している以上、記事は、〈10日の自民党外交部会で外務省側は「(鳩山氏の発言は)違う文脈で使われたのかもしれない」と説明した。〉と書いているが、「IAEAは、イランなどに二重基準を適用しており、公正ではない」と発言したと受け取られたとしても、さして違いはあるまい。
 
 元々イラン訪問に不快感や不賛成を示していた閣僚の間から、イラン大統領府のこのような発表に対して苦言とも言うべき発言が飛び出した。

 《「こんな時期に行くなと言い続けた」 イラン訪問の鳩山氏に官房長官不快感》MSN産経/2012.4.9 12:56)

 4月9日の記者会見。

 藤村官房長官「例え個人の立場でも、こういう時期に訪問しない方がいいとずっと言い続けた。

 (イラン大統領府の発表に対して)政府としてコメントしない。わが国は核問題解決に向けたIAEAの役割を重視しており、イランにIAEAと完全な協力を行うよう求めている」

 苦々しさが伝わってくる発言となっている。

 《外相 鳩山氏にイラン訪問で苦言》NHK NEWS WEB/2012年4月10日 13時7分)

 4月10日閣議後の記者会見。

 玄葉外相(鳩山元総理大臣から帰国後に電話があったと明らかにしたうえで)「鳩山氏には、『イラン側の発言についてはよく分析するが、イラン側が何をどう言ったかを外に向かって言うべきではない。IAEAに関する報道には真意を含め、しっかりメディアに説明したほうがいい』と申し上げた。

 あくまで個人の立場で、本当に政府と関係がない。党も要請していないし、外交顧問という立場もなかったと、私は理解している。『さはさりながら、外からは元総理大臣とみられるので、よく思いを致してほしい』と鳩山氏に言った」

 何とまあ、突き放した発言となっていることか。

 「外交顧問という立場もなかったと、私は理解している」と言っているが、民主党最高顧問の鳩山元首相に対して外交担当の役目をわざわざ仰せつかったことが従来からの“トラスト・ミー”な気分の彼をしてなおのこと“トラスト・ミー”の気にさせたことは疑えないはずだ。
 
 オレの外交能力を認めたかとばかりに。

 ついでに記事が伝えている石原自民党幹事長の批判。

 石原幹事長「鳩山元総理大臣を外交問題を担当する党の最高顧問に任命し、イラン訪問を止められなかった野田総理大臣の責任は非常に重い。鳩山氏には、アメリカ軍普天間基地の移設問題を迷走させた過去があり、まさに日本にとっては『要らん』外交だ。言ったか言わないかは分からないが、イランの大統領に『言った』と言われることが懸念されていた。国益を著しく損ねている」

 野田首相は民主党代表でもあるから、外交担当を任じたこと自体、任命責任に相当する。

 その任命責任逃れかどうか分からないが、4月11日の谷垣自民党総裁との党首討論で鳩山イラン訪問を擁護している。

 谷垣自民党総裁「今日は実は、外交についてもいろいろ議論をしたかった。ちょうど、今日は韓国の総選挙でもありますね。まあ、2つだけ申します。要するに、鳩山さんがイランに行かれた。これは、アメリカも反対したけれども、イランには早速利用されていますね。二元外交というそしりもあります。鳩山さんは、これは普天間で日本外交を大きく傷つけた。今回もまた日本外交の信頼性を傷つけたと思います。御党の外交の最高顧問です。これからも最高顧問として活動を続けていただくという態度を総理はおとりになるのですか」

 「それからもう一つ、ミサイルの問題。これは、米中韓と協力して、何としても留めなければなりません。総理もこれは頑張っていただきたいと私は思います。ただ、田中防衛大臣、今まで国会の議論を聞いておりましても、私はきちっとこの問題に対応することができるとは思いません。一体どうなさるおつもりですか」

 野田首相「まず、鳩山元総理でございますが、今回のイラン訪問は、政府の要請、党の要請で行かれたわけではなくて、個人の判断としていかれました。そのことによって何が起こったかということでございますけれども、私は、基本的には国際社会の取り組み。あるいは政府の基本姿勢をふまえて、対応されたというふうに思っています。ご指摘を頂いたことは、IAEAはダブルスタンダードというお話が報道ではでました。イラン大統領府のホームページにも出ましたけれども、それは明確に鳩山元総理は否定をされましたし、そのことに在京のイラン大使館からはおわびがございましたし、イラン大統領府のホームページもペルシャ語も英語も削除をされたということでございますので、基本的には、基本ラインをふまえて対応していただいたというふうに考えております」(以上MSN産経記事から)

 他の閣僚が鳩山元首相のイラン訪問は間違っていたと言っているのに対して野田首相は間違っていないと擁護している。このことは同じ内閣に於ける意見の不一致を示すものであろう。

 であるばかりか、「基本的には国際社会の取り組み。あるいは政府の基本姿勢をふまえて、対応された」とする擁護は鳩山元首相のイランの核開発は平和利用だとした断定とも同時に対応した擁護となる。

 いわば基本的には国際社会はイランの核開発は平和利用だとして取組み、日本政府の基本姿勢も平和利用だとしていることになる。

 勿論、ここに矛盾が生じる。

 野田首相はこの矛盾に答える説明責任を負ったことになる。

 閣僚の不快感も批判もなんのその、鳩山首相の“トラスト・ミー”は萎えることを知らない。《鳩山氏「非常に行ってよかった」 イラン訪問批判に反論》MSN産経/2012.4.10 14:42)

 4月10日の自らが主催する議員グループ会合。

 鳩山元首相「結果を一言で言うと、非常に行ってよかった。

 核兵器のない世界をつくりたいと強く申し上げ、イランのアフマディネジャド大統領はじっくり耳を傾けた。言葉は通じた。先方からも機微なよい話をしてもらった。

 イランに赴き、日本の立場を真剣に訴えることが政治家、首相を経験した人間としての使命かと思った」

 自画自賛の“トラスト・ミー”は素晴らしい。

 北朝鮮を訪問し、金正恩に対して、「核兵器のない世界をつくりたい」と強く申し上げ、言葉を通じさせることができるだろうか。

 北朝鮮とイランとは事情も条件も違うと言うことはできない。核兵器のない世界をつくるということはイラン一国の非核化だけではなく、北朝鮮にしても非核化でなければ、核兵器のない世界を成り立たせることはできない。

 国際政治の現実は甘くはない。経済制裁を以てしても、イランにしても北朝鮮にしても核兵器保有の衝動を抑え切れないでいる。既に保有して、効果的な運搬手段の開発に進んでいる可能性も疑うことができる。

 自民党は鳩山元首相を参考人招致し、国会で追及する方針でいる。野次馬根性からすると、ますます面白くなりそうだ。

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