金正日のセンセイは安倍首相?

2006-10-23 06:39:56 | Weblog

 2度目の核実験

 新聞・テレビ等を見ると、北朝鮮が2回目の核実験をするかしないかで様々な憶測・情報が行き交っている。訪朝して金正日と会談、帰国後米国のライス国務長と会談した中国の唐家琁国務委員は金正日との話し合いを「幸いなことに無駄ではなかった」と伝えたと新聞は報道している。

 会談が「無駄ではなかった」ということは、常識的な解釈としては2回目の核実験凍結の言質を引き出したということでなければならない。

 韓国国防相が「金総書記が2回目の核実験は行わないと言及したと承知している」と述べたのは、常識的解釈に立っての観測であり、金正日に対する遠まわしな念押しではないだろうか。

 しかしライス米国務長官が中国の次の訪問国ロシアのモスクワに向かう機中で「唐氏は、金正日が核実験を謝罪したとか、今後核実験を行わないと言っていなかった」と述べたと『朝日』に出ている。

 「無駄ではなかった」はどこへ行ってしまったのだろう。

 金正日側からしたら、核保有と保有に向けた核実験は自己の独裁体制を保障する、今となっては最後の大事な切り札である。と、金正日はそう頭から信じ切っているだろう。国内経済の混乱があらゆる政策を行き詰まらせて独裁体制を内部崩壊させる可能性に対しては核保有は何ら体制維持の切り札とはならないと考えているのだろうか。内部崩壊は強権を以て何が何でを抑えつけて見せるという強い決意でいるのかもしれない。

 金正日にとって〝核〟が少なくとも外に対する体制維持の切り札であるなら、これも常識的に考えるなら、核実験しませんと約束したなら、切り札は切り札としての神通力を失っていしまう。

 切り札を切り札として手に維持するためには、するともしないとも明確に述べずに、アイマイなままにしておくことが最も賢明且つ効果的な方法であろう。2回目もすると言えば、関係国を厳しい態度に追い込む。しないと言えば、最後の威しを自ら放棄することになる。土壇場まで追い込むようなことをしたら、実験も核使用もアリだぞと疑心暗鬼させて相手の動きを鈍らせる便法さえ失う。例え自身の独裁体制に不利となっても、最悪の状況に追い込まれるギリギリまで温存させておく。それが切り札と言うものである――といったところではないだろうか。

 アイマイ戦術で思い出すのが安倍首相の首相就任前からの靖国参拝態度である。「参拝する、しないを明言しない」

 「参拝する」と言ったなら、対中首脳会談を実現させることができない。「しない」と言ったなら、自らの靖国思想を自ら裏切ることになるばかりか、安倍靖国思想の支持者・共鳴者の信頼を裏切って、支持率を下げることになりかねない。日中首脳会談を実現させ、関係改善に向けた話し合いを行う以上、それをご破産にする靖国参拝はしないだろうと相手に思わせ、自分の立場・靖国思想も維持できる両方にとってギリギリ都合のいい満足できる方法は「参拝する」とも言わない、「しない」とも「明言しない」どっちつかずのアイマイな姿勢を取る以外になく、自身が退任間近を迎えたとき、次期首相の靖国参拝如何に話題が移るだろうから、そのチャンスを窺って総理大臣の肩書で最後の最後に参拝を行う。「しない」と明言したわけではないから、ウソをついたことにもならないし、約束を破ることにもならない。参拝することで中国の感情を悪化させたなら、その修復は次期首相にお願いする。

 もし安倍首相が靖国参拝を首相在任中は参拝しないつもりでいたなら、そう明言するだろう。アイマイにしておく必要はどこにもない。中国は首相と外相と官房長官の参拝を否定しているのである。首相退任後なら、自由に参拝はできる。

 金正日と安倍晋三の態度アイマイ戦術は奇妙なまでに一致する。金正日にしても小泉首相の靖国参拝を注視していただろうし、安倍次期首相が参拝するかしないかも関心を持って眺めていただろう。安倍・胡錦涛日中首脳会談開催の経緯と推移も日中双方のテレビ放送を直接見て確かめていただろうし、側近から様々な情報も得ていたに違いない。

 当然、日中首脳会談を成功させた「参拝する、しないを明言しない」アイマイ戦術を承知していたはずである。問題はその靖国参拝アイマイ戦術を自身の核実験態度に応用したかどうかである。確かめようもないが、応用とまで行かなくても、参考とした、あるいはなかなかグッドアイデアだなと感心しただけのことが影響したということもあり得る。

 国家主義的な面で二人は共通点を抱えている。キム・ジョンイルは北朝鮮国民に自身への崇拝を求め、安倍晋三は自分が天皇の脇に控えて日本国民に天皇崇拝求める愛国主義者であり、両者は体制優先・国家優先、あるいは体制上位・国家上位を旨としている。国家指導者同士の共通点に何らか学ぶべき点を感じ取って、核実験アイマイ戦術に影響を与えた可能性も否定できないのではないだろうか。

 あるいは北朝鮮にとって日本は憎むべき敵国だからと、敵国の国家指導者が対中首脳会談開催に見せた奥の手を皮肉な気持から自分も使ってやれ、もしアイマイ戦術が悪いと言うなら、日本の国家指導者も同罪だ、道連れにしてやろうとそっくりと真似たと言うこともあり得る。

 以上の憶測が意外にも的中していたとなったら、結果的に安倍首相が金正日のセンセイとなったと言える。

 的中云々は別にして、金正日は中国の唐家琁国務委員に「核実験するかしないかは、両方を含めて言わないことにする」と表明したのではないだろうか。日中首脳会談での安倍首相の靖国参拝態度の前例から、北朝鮮と米国の関係が決定的に悪化しない間は核実験を控えるのではないかと受け止めたが、そのように公表した場合、金正日が最後の最後まで大事に温存している切り札を中国が無力化することになるために、それを避ける意味で「幸いなことに無駄ではなかった」と遠まわしな発言となったといったところではないだろうか。

 但し、米国側は合理主義的な判断からだろう、イエス・ノーをはっきりさせない、させないことでどちらにも変えることのできる金正日のアイマイ態度を受け入れなかった。それが「唐氏は、金正日が核実験を謝罪したとか、今後核実験を行わないと言っていなかった」といった発言となって現れた?

 そうだとしたら、あくまでもはっきりさせろと言うことなのだろう。はっきりとさせない限り、我々の方からは動かない。アメリカは自らの態度は終始一貫させることにもなる。

 安部センセイの靖国アイマイ戦術は中国には通じても、アメリカ相手だったなら、通用しなかったのではないだろうか。安倍首相が外国首脳のセンセイになり得るとしたら、生徒になるのは北朝鮮の金正日ぐらいのものだろうか。名誉なことではあるが。

コメント (2)
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