「首相は11年にプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を達成する目標を掲げ、07年度予算で新規国債発行額を06年度発行額(29兆9730億円)より低い額に抑制する考えを表明。その姿勢を率先して見せるため、自身の給与を30%削減し、閣僚給与も10%カットする方針を示した」(06・9.27.『朝日』朝刊)。
政策実行に向けた何と美しい決意表明か。「美しい国づくり内閣」と命名した意気込みも頷ける「30%削減」である。不退転の姿勢で臨むべく、自らの給与を30%もカットし、他の閣僚に対しても給与カット10%の強制追従を行わせて、それを自らにプレッシャーをかけた率先姿勢と見せて美しい宣伝とする。
まさか内閣官房機密費て内々にカット分を補填なんていうことはしないだろうと思うけど、分かったものではないが、一般国民の生活を犠牲にしてでも数字上の達成を果たして、自らの決意表明の正しさ・政策遂行の正しさ、実行力を証明し、誇ることは間違いない。
その理由を次に述べると、先ず07年度予算に於ける新規国債発行額の前年度比減の強制達成はいくら景気が回復して税収増が望めたとしても、国債償却にも振り向けなければ「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化」の11年度達成は覚束なく、歳出削減が主体となると、小泉内閣相応か、あるいはそれ以上に予算編成を窮屈にすることを意味する。
消費税増税を予定しているわけではなく、まあ、ゆくゆくは打ち出すことになるのは目に見えているが、それまで経済成長優先と歳出削減による財政再建政策を取り続けるとなると、経済成長に関わる分野を対象とした活動促進のための税制面での優遇を小泉内閣に続いて取り続けざるを得ず、窮屈な予算編成を機能化するためにも〝優遇〟を補う、歳出削減の主たる発動対象を定めた〝冷遇〟でバランスを取る必要に迫られることも小泉内閣同様に運命づけられるだろう。
当然〝冷遇〟は経済成長に関わる分野以外の経済成長に直接関係しない分野に課せられる構造を、やはり小泉内閣と同様に取ることとなる。例えば製造業等の親会社が下請会社に請負単価カット等の犠牲を要求することで自社利益確保を図るのと同じく、一方を優遇するために一方を犠牲(=〝冷遇〟)にする構造の扱いが国の歳出削減を主とした予算編成と税政策でも行われるということである。
小泉内閣では企業にかける法人税等の減税や高額所得者に絶対的有利なゼロ金利政策といった〝優遇〟で税収入を減らした分を、「改革は痛みを伴う」を口実とした、削れるところはなりふり構わず削る手口で情け容赦もなく個人に対する所得税に関わる各種優遇措置の廃止、もしくは削減、及び社会保障関係の増税と自己負担増等で歳出削減に結びつけた〝冷遇〟で補い、それらに相互対応させた国債発行額を含めた予算編成政策を行ってきた。
その結果の大企業や都市部、高額所得者と、それに対する中小企業と地方、あるいは低所得者との間の格差であり、一方の発展に対する他方の衰退であった。一方の〝冷遇〟の上に成り立たせたもう一方の〝優遇〟とも言える。
歳出削減と増税の標的対象にされた中で、社会的弱者が最も犠牲を受けたと言うことだろう。公共事業予算の削減はゼネコン関係に向かったように見えるが、ゼネコン自身の利益獲得のための下請事業者への下請単価のカットが最終的には下請従業員を標的とした地位と給与の不安定をより多くもたらした。
安倍首相はかねてから、「勝ち組と負け組を固定化しない社会の構築」を掲げ、その実現のための「再チャレンジ政策」を打ち出したが、安倍政策が経済成長による税収増と歳出削減を予算編成及び「プライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化」の核とする以上、経済成長優先の税政策・予算配分政策の〝優遇〟を必要とし、それを補う〝冷遇〟を必然化させざるを得ず、結果として「負け組」の妊娠・出産につながり、ごく自然に小泉格差政策の踏襲に向かうことになる。
そのことは「再チャレンジ政策」が〝優遇〟と〝冷遇〟を前提として提唱されている政策であることも証明している。「再チャレンジ」が〝負け組〟を存在要素とすることで可能となる活動だからである。つまり「再チャレンジ」の舞台には勝ち組は登場せず、負け組のみが登場して「再チャレンジ」を演ずる構造上、常に負け組の存在が必要となる。逆説的に聞こえるだろうが、安倍晋三が「再チャレンジ政策」を成功させるためには負け組が必要であり、そのためにこそ負け組をつくる政策に取り組んでいると言える。
小泉格差づくり内閣に竹中平蔵と共に三人四脚で協力して、負け組をゴマンとつくり出して置きながら「勝ち組と負け組を固定化させない」などと言うから、マッチポンプだと批判される。要するに、負け組をつくらない原因療法政策ではなく、負け組を一生懸命つくっておいて、それを「固定化しない」という美しい対症療法政策を行おうとしているに過ぎない。ということは、マッチポンプであり続ける美しい宿命を抱えることにもなる。
当然、首相給与30%カット・閣僚給与10%カットなど、意味もないことになる。「給与カット」がある一方で生活上の〝冷遇〟を受ける格差が他方にあるようでは、「給与カット」は国民の腹の足しにもならないポーズでしかない。
大体が「給与カット」でどのくらいの国費を節約できると言うのだろうか。その数字を弾き出して、それがどのような継続的な効果を持つか国民に説明すべきである。〝姿勢〟を示すといった継続性を持たない、一時的な措置など必要ない。全公務員の大胆な給与削減を行い、それを恒常的制度とするというなら、拍手の一つも送ってもいい。
公務員宿舎やその他保養施設等にかける贅沢なまでのムダ遣い、無駄な交際費や使わなくてもいい高級公用車の使用、贅沢な福利厚生施設。その中には高額の経費をかけた贅沢な専用娯楽施設もある。あるいは集客施設に於けるコスト無視のズサン経営で赤字を抱えた各種公営事業、官公庁ぐるみの談合がつくり出す予算上の無駄・損失、随意契約という名の天下り元公務員に私益を与える故意に高額に設定した契約に含まれる余分な経費、タクシー券や出張費、ホテル宿泊費等の水増し請求がつくり出すムダ、公務員の生産性の低さの原因を成している非効率・非能率・怠惰・無能力を金銭で換算した場合のムダ――等々がもたらす国費の全体的な損失額から比較した場合、首相給与30%カット・閣僚給与10%カットの総額が上回ってムダがつくり出している国費の損失を補うということなら、意味ある〝カット〟となるだろうし、ポーズでないことの有力な証明ともなる。
ムダな国費の損失改善を出発点とすることによって、歳出削減を削減することが可能となり、そのことが予算配分の自由度を高めることになって〝優遇〟に対する〝冷遇〟を和らげることにつながっていくだろうし、そのような〝冷遇〟の緩和が「負け組」づくりの防止に役立ち、「再チャレンジ政策」を不要としていく。
ところが安倍晋三及びその〝美しい国づくり内閣〟は歳出削減政策と経済成長路線の維持に向けた勝ち組に対する各種〝優遇〟を行うことで、富の配分に〝冷遇〟面をつくり出して負け組を産出し、その負け組みを固定状態化させないために「再チャレンジ政策」を実施するという、言ってみれば〝悪循環〟を目指す政策を取っている。
このことはパレスチナのイスラム過激派ハマスがイスラエルの生存を許さずテロ攻撃し、イスラエルの反撃でパレスチナの悪化した経済によって生活困窮に陥った住民にカネや医療行為を施して人気を得るマッチポンプと同じ構造ではないか。
あるいはレバノンのヒズボラの自らの愚かしさが招いた災厄でしかないイスラエル兵拉致に対するイスラエルの報復攻撃によって家を追われ、負傷したレバノン住民に施しを行って熱狂的な人気をなお熱狂的に高めるマッチポンプと同じ穴のムジナに位置する政策であろう。
ハマスやヒズボラの施しをありがたいと感謝するパレスナチ人やレバノン人も美しく素晴しいが、安倍晋三とその美しい国づくり内閣の美しいマッチポンプに気づかずに高支持を与える日本人も美しく、素晴しい。
「天下り先へ、国費支払い6兆円超…延べ1078法人」(読売・2006/04/03)
中央省庁などの幹部OBを天下りとして受け入れた法人のうち、契約事業の受注や補助金などにより国から2004年度に1000万円以上の支払いを受けたのは延べ1078法人にのぼり、支払総額は6兆円を超えていたことが、読売新聞などの調べでわかった。また、契約事業の9割以上が随意契約だった。
これら法人の天下り受け入れ数は計3441人。防衛施設庁を舞台にした官製談合事件では、天下りOBの受け入れ企業に工事が重点的に配分されていたことが判明したが、中央省庁全体でも、天下りと契約や補助金交付との間に密接なつながりがあることをうかがわせている。
調査対象は、全府省庁と公正取引委員会や最高裁判所などを含めた計17の機関。民主党の要求を受け、各機関が、OBが役員に就任している公益法人と独立行政法人や、課長・企画官相当職以上で退職した幹部OBを受け入れた民間企業など各種法人のうち、公共工事などの事業受注、物品調達、補助金などで、年間1000万円以上の支払いを国から受けた法人について出した資料を調べた。
それによると、法人数は延べ1078で、これらの法人に在籍している天下り幹部OBは、役員2604人、職員や社員が837人だった。また、支払件数は計5万2054件で、総額6兆1686億円。このうち、業務などが随意契約で発注されたケースが4万9320件で全体の95%を占めた。支払総額は、国の今年度一般会計予算規模の約8%に達している。(以下略)」 ――
このうちの何%が天下り人間の懐に流れたことだろうか。徹底的に手をつけるべきところを殆ど手をつけず、放置したままなのは、それが解決困難な分野だからで(解決簡単なら、既に誰かが行っていて、解決済みとなっているはずである)、自らの給与カットにしても、低所得者を標的とした増税・歳出削減にしても、相手が政治圧力団体を構成しているわけでもないから、簡単に行える政策だからだろう。〝困難〟を放置・排除して、〝簡単〟を優先させる安易な方向への傾斜が〝美しい国づくり〟と言うわけである。
安倍美しい国づくり内閣は内政の困難さを拉致問題などを利用した外交政策上のパフォーマンスで美しく誤魔化すのではないだろろうか。