国会議員の記名式の互選による首班指名選挙が行われ、岸田文雄自民党総裁が第100代総理大臣に指名された。
選挙のたびに思いだすことが二つあり、本日はその一つ「国定忠治の入れ札」である。
小学校中学年の頃に浪曲で聞いた思い出であるが。
代官を殺して11人の乾分と共に赤城山に籠った忠治は、少人数での脱出のために知力・胆力に優れた3名を残して、その他の者は思い思いに落ち延びさせることを決意したが、これまでの働きを思うと自分の口から意中の3名を指名することができなかったので、乾分の互選(入れ札)で決めることにした。
乾分のうち最古参の兄貴分である「稲荷の九郎助」は、前年の不覚悟もあって身内から軽んじられていることを十分に承知していたが、日頃から「阿兄(あにい)」と立ててくれる弥助の意味ありげな笑みにも押されて自分可愛さのあまりに「くろすけ」と入れ札をしてしまう。
開票の結果は知恵者の浅太郎に4票、分別盛りの軍師・喜蔵に4票、大力の嘉助に2票、九郎助に1票で、上位3名は忠治の思惑通りの結果であった。九郎助は、弥助の入れ札が自分では無かったことと、忠治のためにはあまり寄与しないであろう自分の名を書いた浅ましさにさいなまされた。
この情景を2代目広沢虎造は、名調子で《♬~九郎助それでも男かと、怒鳴る忠治の声がする~♬》と描いていたと記憶しているが、念のためにとYou-Tubeを検索しても発見できなかったので、演者については記憶違いかも知れない。
記憶しているのはここまでであるが、後年になって、この題材が菊池寛の「入れ札」であることを知った。もしかして演義を菊池寛が小説としたのかも知れないが、そこには。
忠次たち4人と別れ秩父の縁者を頼ることにして山を下りた九郎助の後を追ってきた弥助が、「親分が阿兄を連れて行かないのは納得できねえ。11人のうちで阿兄の名前を書いたのは俺1人だけと思うと、奴等の心根がわからねえ」と告げる場面が描かれている。
弥助の嘘を判っている九郎助は思わず脇差に手を掛けるが、弥助の嘘を咎めるには自分の恥を打ち明けなければならないことに気付くとともに、忠治・身内はおろか弥助でさえもお互いを信じて自分のしたことに気付いていないと思うと、尚更に自分の卑しにさいなまれる筋立てになっている。
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