もうチョットで日曜画家 (元海上自衛官の独白)

技量上がらぬ故の腹いせにせず。更にヘイトに堕せずをモットーに。

再び病院船を考える

2020年02月16日 | 軍事

 新型肺炎の感染拡大と水際防御網の破綻から、病院船の整備・保有が論じられている。

 病院船整備案は、国内で大規模災害が起きるたびに浮上するものの、建造までに至っていない。特に、2011(平成23)年の東日本大震災では病院船建造を求める「病院船建造推進超党派議員連盟」が防災担当大臣に病院船の建造推進に関する要請書を提出したが、病院船の建造・保有には幾多の障害があることから、有事には海上保安庁の大型巡視船の医療設備等を急速拡充することで決着している。よく引き合いに出される米海軍病院船「マーシー級」は全長272m、排水量7万屯の世界最大の病院船で、中古タンカーを改造して1984(昭和59)年以降に順次就役、12の手術室、集中治療設備80床、病床数1000床を備えている。平時にあって「マーシー」はサンディエゴ、姉妹艦「コンフォート」はボルチモアで60名の医療スタッフと12名の乗員という最小の人員で維持されているが、命令を受けた場合1200名の医療スタッフが軍及び民間から、300名の乗員が軍から招集され、5日以内に可動状態に入るとされている。両艦の活動を見ると、砂漠の盾作戦等の従事が殆どで、緊急時の民政用として活用されたのはスマトラ地震やハリケーン・カトリーナ支援等に限られ、その他は乗員の慣熟と緊急対処訓練を兼ねて年間1回程度の医療クルーズだけで、招集される医療スタッフや乗員も大半は予備役であると思われる。2018年6月17日付の本ブログで、病院船の運用は米海軍MSC(軍事輸送司令部)が行っているのでは?と書いたが、改めて調べてみると病院船は海軍艦艇に掲載されており、艦首に海軍旗を掲げている写真もあることから海軍籍であるかも知れない。しかしながら運用形態から見ると通常の海軍艦艇の範疇から外れたものであろうと感じる。

 日本の病院船計画が浮上しては立ち消えになる背景には、年間1・2回の出動のために多額の軽費が必要とされることであると思う。船腹の維持・医療器材の保守・更新経費もさることながら、搭載されるであろう大量の医薬品は年間数回更新する必要があり、全てを含めた運用軽費は相当な規模になると思う。更に、予備役の制度や民間人を徴用できる制度がないことから、人材の確保についてはさらに困難であると思う。確かに、即応予備自衛官制度はあるが、突発的に数百名の医療スタッフは確保できないのではないだろうか。病院船を運用するためには、多額の軽費のみならず、緊急出動を可能とする緊急条項を憲法に盛り込む必要があると考えるところである。


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