長良川は,岐阜県郡上市の大日ヶ岳に源を発し,伊勢湾に注ぐ日 本を代表する清流の1つです。その清流長良川を代表する魚類と言え ば,「アユ」と並んで「サツキマス」でしょう。
サツキマスはサケ科の魚類で,「渓流の女王」とも呼ばれるアマ ゴの降海型*1のことで,アマゴは陸封型*2をさします。長良川が清 流であることと,上流域にダムがないことが,サツキマスが今なお 遡上できる川となっている所以なのです。
サツキマスとアマゴ
サツキマスとアマゴは同種の魚ですが,多くのサケ科の魚類がそ うであるように,海に下ったサツキマスは,沿岸の豊富な餌(動物 性プランクトン,エビの仲間,小魚など)を利用して大きく成長し, 35~50cm程度に成長するのに対して,水生昆虫を主な餌として, 上流域で一生を終えるアマゴは30cm前後までしか成長できないもの が多いのです。
本来の分布域は神奈川県西部以西の本州太平洋岸,四国,九州の 一部であり,亜種のヤマメ(ヤマメは陸封型のことをさし,ヤマメ の降海型をサクラマスと呼ぶ)の本来の分布は,本州の関東以北の 太平洋岸と日本海側全域,九州の一部です。しかし,近年盛んに放 流が行われるようになったため,分布が乱れてしまったり,アマゴ とヤマメの交雑が報告されています。
サツキマスの生活史は,秋に上流域で産卵が行われ,翌年,早春 に孵化します。秋頃にはパーマーク(図1)と呼ばれる模様が薄れて くる(スモルト化という)ものが現れ,それらをシラメと呼びます。
シラメの一部が秋頃から海を下り,サケなどとは異なり,大きく回 遊せず,沿岸域(長良川のサツキマスの場合,伊勢湾内)で生活し ます。翌年の4~6月頃に,再び河川を遡上し始めます。
皐(サツキ)が咲く頃(または,5月をさす皐月)に遡上することか ら,サツキマスと呼ばれています。
日本海側や関東以北の太平洋側に生息するサケやサクラマス(ヤ マメ)は,海に下った後,低水温の海域を求めて回遊し,サケでは2 ~6年,サクラマスでは1年を栄養豊富な海で過ごします。
そのため, サケでは1m,サクラマスでは70cmを越えるものが現れます。一方, 主に関東以西の太平洋側に生息するサツキマスは,夏の海水温の上 昇に耐えることができないため,秋に海に下った後,海水温が上が る前の4~6月頃に遡上すると考えられています。そのため,サケや サクラマスほどは大型に成長することはなく,40cm前後までで, 50cmを越えるものは稀なようです。