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イヤミス:読むと嫌な気分になるミステリー、後味の悪いミステリーの事。
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2008年、小説「告白」(総合評価:星3.5個)で文壇デビューを果たし、あっと言う間に売れっ子作家となった湊かなえさん。彼女の作品「山女日記」(総合評価:星3つ)のレヴューでも書いたけれど、「デビュー作『告白』ですら『巷間言われている程、高い評価を与えられる作品では無いなあ。』とは思ったものの、まあ読ませる内容だったが、以降の湊作品は“粗製乱造”といった感じでパッとしない。」という思いが在る。正確に言うと、「良い意味で“変化”したかな。」と思わせる作品も在ったが、全般的に言うと「湊作品には、高い評価を与えられない。」というのが正直な所。
湊さんと言えば、“イヤミスの女王”と呼ばれている。人間の持つ“嫌な部分”を露悪的に描き、後味が非常に悪い作品が多いからだ。そんな彼女がデビュー15周年を迎えた昨年、記念の書下ろし作品として上梓されたのが「人間標本」。
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人間も、一番美しい時に標本に出来れば良いのにな。
蝶が恋しい。蝶の事だけを考え乍ら生きて行きたい。蝶の目に映る世界を欲した私・榊史朗(さかき しろう)は、或る日、天啓を受ける。「彼の美しい少年達は蝶なのだ。其の輝きは、標本になっても色褪せる事は無い。」と。
5体目の標本が完成した時には大きな達成感を得たが、再び飢餓感が膨れ上がる。今こそ、最高傑作を完成させるべきだ。果たして、其れは誰の標本か?
幼い時から其の成長を目に焼き付けて来た息子の姿も又、蝶として私の目に映ったのだった。
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6人の美しき少年達が殺害され、切り刻まれる等して、“人間標本”とされてしまう。実に猟奇的で在り、江戸川乱歩氏の世界を思わせる作品だ。
蝶の美しい姿を詳細に描く一方で、美少年達の死体を損壊する様も、此れ又詳細に描かれている。「対極に在る筈の“美”と“グロテスク”だが、双方は重なり合う部分が在ったりする。」とも言われ、そういう部分を描いたのが谷崎潤一郎氏や江戸川乱歩氏等だろう。湊さんもそういう世界観を目指したのかも知れないが、残念乍ら彼等の作品には遠く及ばない。文章に“深み”が感じられないし、人間描写も今一つなので。ミステリーの“肝”で在る“真犯人当て”でも、どんでん返しが設けられてはいたものの、自分は容易く当てられたし。
「グロテスクなだけの作品。」と言ってしまったら湊ファンの方々から叱られそうだが、自分にはそんな感じしかしなかった。
総合評価は、星2つとする。