ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「6TEEN(シックスティーン)」

2010年02月23日 | 書籍関連
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・ プールの水って、不思議だよね。冷たいようでも、ぬるいようでもあるし、さらりと肌を滑ったり、ぷりぷりとゼリーみたいに肌をはじいたりもする。液体なんだか、固体なんだか、よくわからないんだ。とくに今みたいに真夏だと、カルキのにおいがして妙に生あたたかくて、まるで透明な血液のなかを泳いでいる気分になる。(中略)しかもそのプール、晴れた日には可動式の屋根が開いて、何千トンもある入道雲を軽々と浮かべた夏空を眺めたりもできるのだ。

・ 「なんで、みんな好きでもないのに、仕事が好きな振りをするんですか。」。トクさんはわざとらしく周囲を見まわしてから、声をさげた。それはもちろんまわりにいる人間の目が怖いからだ。誰もが嘘をついている会社のなかで、仕事なんて好きじゃない、くだらない、どうでもいいなんて顔をしてみろ。全員につつかれて、会社からいじめだされてしまうだろ。いつだってな、ほんとうのことってのは、爆弾みたいに危険なんだ。

・ 死はひとりきりしか加入者のいない携帯電話によく似ている。なにを話しかけても、どこにもつうじない。メールも送りっ放しになってしまう。すべての質問や思いをのみこんでしまうきれいな空っぽのことなんだ。
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文章を書くのは昔から好きなのだけれど、「物書き」を生業にするのは到底無理。その理由は色々在るけれど、「読み手の心に深く染み透る様な、絶妙な表現力が泉の如く湧き出る様でないと、『生業としての物書き』は遣って行けない。」と思っているから。石田衣良氏の「6TEEN(シックスティーン)」から抜粋した文章を冒頭に記したが、「何千トンもある入道雲」とか「死はひとりきりしか加入者のいない携帯電話によく似ている。」なんて表現は、逆立ちしても自分には出て来ないし。

瑞々しい表現力を有する石田氏が7年前に直木賞を受賞したのは、多感な14歳の少年4人を主人公に据えた「4TEEN(フォーティーン)」によってだった。そして今回読み終えた「6TEEN(シックスティーン)」は、そんな彼等の2年後、即ち中学生から高校生になった16歳の姿を描いている。

同じ16歳で在り乍ら、彼等が“背負う物”は当然だけれど異なっている。「アルコール依存症で、家族に対して日常的に暴力を振るう父親を有していたトラウマを、その父親が亡くなった今でも引き摺っている少年。」、「一般人の数倍の速さで老いてしまう病『ウェルナー症候群』を抱え、16歳にして既に人生のUターンを迎えているとも言える少年。」、「他者からすれば『悩みの無いエリート』と見られているが、そう見られているが故の悩みや不安を抱える少年。」といった具合にだ。中心となっているテツローは彼等からすれば「普通の少年」と言えるのだけれど、それでもやはり色々な物を背負って生きている。

自分の経験から言えば、何年か年を経てみれば「あんな事も在ったなあ。」と笑って振り返れる事でも、幼いが故に「途轍も無く大きな悩み」と思い込んでしまう事も在る。その一方で、大人でも耐えられない様な大きな悩みを子供が抱えているケースだって在るだろう。人の悩みには、その人自身でなければ判らない深さが在ったりもする。

前作の「4TEEN(フォーティーン)」でも書いた事だけれど、このシリーズは自分の好きな映画「スタンド・バイ・ミー」と似た香りが在る。少年達が大人になる為の階段を時には躊躇し乍ら、そして時には勇敢に上って行くという雰囲気が、この作品にも溢れている。自身の過去を思い出し、甘酸っぱい物が胃の中から込み上げ来たりも。

この作品は10個の章で構成されているが、「黒髪の魔女」と「16歳の別れ」が特に印象に残った。後者は「中学時代の同級生との“永遠の別離”」を描いた作品だが、自分はどうも「人の死」に関する小説に心が激しく揺さぶられる傾向が在る。

そして前者の作品には、とんでもない“魔女”が登場。世の中には「自身の恋愛に於いても、人の不幸を我が身の幸福と感じる人間。」が結構居たりする。「既婚者ばかりを恋愛対象とし、相手の家庭を崩壊させる事に喜びを感じている様な人間。」なんかもそうだ。黒髪の魔女も別の形で「人の不幸を我が身の幸福」と感じるタイプで、読んでいてムカッとした思いに。と言うのも、自分自身も過去に同じ様な“恋愛被害”に遭った事が在り、ついつい身につまされてしまって・・・。

同氏の「池袋ウエストゲートパーク・シリーズ」と比べるとどうしても見劣りしてしまうが、この「4人の少年達の成長記」も悪くは無い。総合評価は星3.5個

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