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警視庁には、2つの特殊部隊が存在する。SAT(特殊急襲部隊)とSIT(特殊犯捜査係)。其れ其れ指揮系統は違うが、現場を同じくする事も多い。
合法的に暴れる為にSATに志願した“悪童”の中田数彦(なかだ かずひこ)、異例の抜擢を経てSIT係長になった “エリート”の谷垣浩平(たにがき こうへい)。立場も性格も信条も、丸で異なる2人は、現場で衝突を繰り返し乍らも、「厚生労働省解体」を宣告する謎のテロ集団と対峙する。
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第2回(2020年)警察小説大賞を受賞した小説「対極」(著者:鬼田隆治氏)を読了。「警視庁に在籍し、部下を持っている男性。」という共通点以外は、あらゆる面で“対極”の存在に在る中田と谷垣が、テロ集団と対峙する姿を描いている。
此の作品を読んで得た収穫は、「ドラッグ・ラグ」なる用語を知った事。「新たな薬物が開発されてから、治療薬として実際に患者の診療に使用出来る様になる迄の時間差や遅延。」を意味し、日本語に置き換えると「新薬承認の遅延」との事。
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「日本では、医薬品は適応症ごとの承認が必要という事情があります。例えば、臨床試験をクリアしてきた、Aという病気に有効な薬があったとします。そしてその後、この薬がBという病気にも非常に有効であることが判明したとします。しかし、そういった事実が判明しても、簡単な検査だけではこの薬をBの病気に使用することは許されないのです。また一から、Bという病気に対する治験を開始しなければならないのです。」。
‐そうなりますと、Bの病気を抱えている患者さん達は、辛い状況に置かれますよね。入院している病院内にも保管されている、自分の病気が治るかもしれない薬を、ただ指をくわえてじっと眺めることしかできないのですから。
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「副作用等、其の薬が処方される患者達への悪影響を、可能な限り取り除く。」という事は、非常に大事で在る。でも、海外とは異なり、「治療薬として実際に患者の診療に使用出来る迄、余りにも時間が掛かっている日本。」の場合、「其の薬に治療効果が期待出来るかも知れないのに、ドラッグ・ラグの所為で使用出来ない儘、最悪の場合、死を迎えなければならない患者。」が少なからず存在するとしたら、其れは非常に不幸な事。又、「対極」内で記されている「天下り等、様々な“無駄”。」にも、何とも言えない理不尽さを感じる。
で、全体的に言えば、決して出来の良い作品とは言えない。範疇で言えば、「『警察小説』で在ると同時に『ピカレスク小説』。」という事になるのだろうが、読んでいて不快さしか無い。中田のキャラクター設定が一番の理由だが、彼の“思考回路”が全く理解出来ないし、共感出来る部分も皆無。
“現実味”を感じさせない設定だし、何よりも「結末迄の持って行き方が、余りにも強引過ぎる。」のが致命的。申し訳無いが、「読むのに費やした時間を返して欲しい。」という感じ。
総合評価は、星2.5個とする。