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「『英国史上最大の冤罪』悪いのは富士通だけ? 郵便制度を調べると・・・」(1月21日、毎日新聞)
英国が、「史上最大級の冤罪事件」(スナク首相)に揺れている。全国の郵便局が使う富士通の会計システム「ホライゾン」の欠陥により、窃盗や詐欺等を疑われた700人以上の郵便局長等が無実の罪で刑事訴追され、自殺者迄出ていた事が発覚したのだ。前代未聞の事件は何故起こり、責任は富士通だけに在るのか。経緯を検証した。
「刑務所に入れられ、泥棒の烙印を押された。私の人生は、台無しにされた。」。
5万9,000ポンド(約1,100万円)の不正会計を実行したとして、2007年に禁錮9ヶ月の実刑判決を受け、3ヶ月程収監された元郵便局長ジャネット・スキナー氏は、事件を調査する独立調査委員会にそう陳述した。
スキナー氏は収監された初日、刑務所で指紋を採られ、裸にされた屈辱を証言。子供にも会えず、錯乱状態に陥った。出所後は家を売却し、実際には盗んでいない現金の返済に充てて来たと言う。
英メディアによると、起訴されたのは700人以上で、スキナー氏の様に刑務所に収監されたのは236人。自殺者は、少なくとも4人に上ると言う。
事件の発端は1999年。全国の郵便局に「ホライゾン」が導入された後、郵便局の現金とシステム上の残高が一致しないケースが相次いだ。当初は原因が判らず、2015年迄に郵便局長等が次々に起訴された。裁判所は2019年に漸くシステムの欠陥を認めたが、此れ迄に有罪判決が覆されたのは一部に留まっている。
事件が国民的関心事になった切っ掛けは、今年の年明けに放映されたTV番組だ。英民放ITVは1月上旬、事件を題材にしたドラマを放映し、被害の深刻さが一気に話題となった。
富士通は、どう受け止めているのか。
富士通英国法人の担当者は11日、毎日新聞の取材に「郵便局長や其の家族の生活に、壊滅的な影響を与えた。(調査委の)調査に、全面的に協力する。」と回答した。更に富士通の欧州事業を統括するポール・パターソン執行役員は16日、英議会下院のビジネス通商委員会で「誠に申し訳ない。」と謝罪し、冤罪被害者への補償に付いても、「道義的責任が在る。補償で役割を担う。」と述べた。
元裁判官が率いる調査委は現在、被害者や富士通社員、政府関係者等から聞き取り調査を実施している。最終的な調査結果の公表時期は未定と言う。
富士通の責任は甚大だが、事件を長年放置して来た英政府の責任を問う声も上がっている。
英国では郵便局が民営化されており、其れを統括する国有企業「ポストオフィス」には、起訴等刑事手続きの一部権限が在る。英スカイニューズ・テレビによると、「誰かを起訴し、財産没収に成功した場合、起訴を実行した調査官には『ボーナスが支払われた。』ケースも度々在った。」と言う。
英政府は事件を受け、ポストオフィスの「起訴権停止」を検討中と報じられている。元検事のケン・マクドナルド氏は英紙ガーディアンに、事件は「制度の失敗」と指摘。「ポストオフィスが自らのスタッフを起訴する権限を持っていなければ、事件は起きなかった。」との見方を示した。「無実の罪」で収監されたスキナー氏も、こうした点を訴えており、警察がポストオフィスの責任も捜査すべきだと述べている。
一方、「全政党に、果たすべき役割が在った。」(英紙フィナンシャル・タイムズと、政治家の怠慢を指摘する声も在る。「ホライゾン」の欠陥に付いては、既に1999年の時点で当時のブレア首相(労働党)に報告されていたが、放置されていたとも報じられている。其の後、保守党政権に代わっても郵政担当閣僚等は、「ホライゾンに問題は無い。」との見解を変えなかった。
英国では年内に総選挙が実施される見通しで、両党共早期の事態収拾を図りたいのが本音と見られる。英下院で10日、野党・スコットランド民族党(SNP)議員から「国民は政界に怒っている。」と責められたスナク氏(保守党)は、「此の問題を、政治利用してはいけない。」と反論する等、沈静化に躍起だ。
英政府は今後、被害者1人当たりに7万5,000ポンド(約1,400万円)の補償金を支払う意向を表明している。警察当局も捜査に乗り出す方針だが、大量の文書を調べる必要が在る為、捜査終結には2年掛かるとも報じられている。
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「ジャニー喜多川による性加害問題」は、1950年代から始まり、2010年代半ば迄の間、実に60年近くも行われて来たと言う。実に悍ましい性加害がこんなにも長期間に亘り、そして「三桁を超える。」とも指摘される程の多数の被害者を生んだという事実には、唯々驚きしか無い。「1960年代以降、一部メディアは此の問題を報じたし、実際に被害に遭った人物が声を上げても来たが、大問題とならなかったのは、偏に大多数のメディアがジャニーズ事務所の影響力の前に平伏し、忖度して報じて来なかったから。」で在り、「2004年に裁判で、ジャニーズ事務所所属タレントに対するジャニー喜多川の猥褻行為の重要部分を真実と認める判決が出され、確定した。」にも拘らず、其のスタンスは全く変わらなかった。
然し、昨年にイギリスのBBCが「ジャニー喜多川による性加害問題」を報じた事で、黙りを決め込んで来た日本のメディアも、此の問題を大きく取り上げざるを得なくなったのは、皆様も御存知の事だろう。
60年近くも“封印”されて来た「ジャニー喜多川による性加害問題」には及ばないが、「郵便局の現金とシステム上の残高が一致しないケースが相次いだ1999年以降、今年大問題になる迄四半世紀近く要した今回の冤罪事件。」も相当な物だ。700人以上もの無辜の人が罪に問われ、人生を大きく狂わされた事実は、決して看過する事が出来ない。
「ホライゾン」の欠陥を知り乍ら、何も手を打って来なかった政治家の罪が非常に重いのは言う迄も無いけれど、「機械、乃至は機械が関わったシステムは万全で在り、問題なんて起こり得る訳が無い。」という“過信”が、多くの人の中に在ったとしたら、其れも又、大きな問題だろう。