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生放送のTV番組「Q-1グランプリ」の決勝戦に出場したクイズ・プレーヤーの三島玲央(みしま れお)は、対戦相手・本庄絆(ほんじょう きずな)が、未だ一文字も問題が読まれぬ内に回答&正解し、優勝を果たすという不可解な事態を訝しむ。一体彼は何故、正答出来たのか?
真相を解明し様と彼に付いて調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島は軈て、自らの記憶も掘り起こして行く事になり・・・。
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小説「地図と拳」で第168回(2022年下半期)直木賞を受賞した小川哲氏。今回読んだ彼の「君のクイズ」はクイズ・プレーヤー、其れも様々なクイズ番組に出場し捲る様な“クイズオタク達”の姿を描いている。
クイズ番組を見ていると、問題が読み上げられている途中、其れも「此れだけしか読み上げられていないのに、何で回答出来るの?」と思ってしまう様な段階で、正答してしまう回答者が存在したりする。そんな驚異的な回答テクニックが在るからこその芸当なのだが、具体的に言えば「答えとして考えられる選択肢を如何に速く&多く思い浮かべ、そして如何に速く選択肢を消し込んで行くか?」という事に掛かっている。膨大な知識量だけでは無く、瞬発力等も求められる訳で、「クイズ=競技」なのだ。
「答えとして考えられる選択肢を如何に速く&多く思い浮かべ、そして如何に速く選択肢を消し込んで行くか?」というテクニック、実際にはどういう風に使われているのか?其れを此の作品では、「具体的に問題を幾つも挙げた上、詳しく説明している。」ので、「恰も“クイズ・プレーヤ達の脳”の中を覗き見ている。」様な感じが在り、とても興味深かった。
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・本庄絆はもともとクイズプレーヤーではなかった。だからこそ、彼は保存された世界の情報が更新されていることを知らなかった。知識は自動的にアップデートするわけではない。それまで通説だったことが間違いだったと証明され、新たな通説が生まれる。学者の発見によって物質の性質が変わったり、未解決だった数学の問題が証明されたりする。国家が独立して新たな国が誕生したり、市町村が合併して日本一大きな市が変わったりする。世界が変化する以上、クイズの答えも変化する。
・「リスクを負うことも必要だ。展開によっては、まだ五分五分でも他より先に押さなきゃいけない。『恥ずかしい。』という感情はクイズに勝つためには余計だ。そんな感情は捨てた方がいい。笑われたって、後ろ指さされたっていいじゃないか。勝てば名前が残る。」。
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子供の頃、太陽系惑星を「水金地火木土天海冥」と覚えさせられた。でも、「冥王星は惑星では無く、準惑星で在る。」と定義された今は、「水金地火木土天海」という事になる。「太陽系惑星を、太陽から近い順番に全て答えよ。」という問題が出された場合、昔ならば「水金地火木土天海冥」が正答だったけれど、今じゃあ誤答になる訳だ。「クイズは“生物”。」と言える。
「クイズは知識の量を競っている訳じゃ無い。クイズの強さを競っている。」と、三島玲央が先輩からアドヴァイスされる場面が在る。「答えを間違え、恥ずかしい思いをした過去。」がトラウマとなり、以降は「100%の確信が持てる迄、回答ボタンを押せなくなった事で、早押し問題で勝てなくなってしまった玲央に、「『恥ずかしい。』という感情は、クイズに勝つ為には余計だ。」とアドヴァイスしたのだが、確かに其の通りだろう。
「問題文が1文字も読み上げられていないのに、正答してしまう。」、普通では在り得ない事だ。“遣らせ”としか思えない話だが、「若し遣らせでは無いとしたら、どういう事が考えられるのか?」を三島は分析して行き、そして“結論”に到る。其の過程は面白く、「そういう事だったのか!」という納得感が無い訳では無いけれど、「“そういう傾向”になる事(具体的には書けないが。)を何故、本庄絆は“放送前から”予測出来たのか?」という点に関しては、納得出来る理由が無かった。“或る人物の底意地の悪さ”を予測出来た理由にしてしまうのは無理が在ると思うし。
総合評価は、星3.5個とする。