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十数年前、健康診断で真性弓部大動脈瘤が見付かり、手術を受ける事となった父・健介。それ迄とは何等変わらぬ元気さで、手術室にも笑顔で入って行った父が、手術後は帰らぬ人となって戻って来た。
「あの日、手術室で一体何が在ったのか?」最愛の父を失った夕紀の中で、疑念が日を追う毎に膨らんで行った。「執刀医の西園医師に医療ミスが在ったのではなかろうか?いや、父が手術を受ける前に喫茶店で母・百合恵と西園が密会している姿を偶然目にし、そして今2人は恋仲に在る事を考えると、難しい手術というのを隠れ蓑にして西園が父を作為的に・・・。」
父の死後、夕紀親子の事を何かに付け、気に掛けてくれた西園。しかし彼に疑念の思いを募らせる夕紀は、やがて心臓外科医の道に進む事を決断する。或る思いを秘め、西園の下で研修医として働く事となった夕紀。
そんな或る日、彼等が勤務する病院に脅迫状が届く。それは手術室を前代未聞の危機が襲う前触れでも在った・・・。
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東野圭吾氏の「使命と魂のリミット」は、医療現場を扱った作品で在る。「医師と患者の微妙な関係」、「医療ミス」、「自らが無意識の内に、他者を結果的に傷付けてしまっている可能性」、「良心」等々、登場人物達に自らを投影させ乍ら読み耽ってしまった。
「人工心肺装置を使う場合、低圧力で頭部に血液を流さねばならない。当然酸素の供給量は減る。そこで酸素の消費量を極力抑える為、体温を下げてやるのだ。」、「人工血管への置換は完了した。後は体外循環している血液量を、段階的に減らして行く事になる。但し、脳の保護の為に下げていた血液の温度を、今度は体温近く迄上げてやらねばならない。冷えた血液をそのまま心臓に流しても心臓は動かない。」等、医療に関する知識が殆ど無い自分にとって勉強になる点も多く、又、心に沁みる記述も幾つか見られた。
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・ 「遺族にとって大切な事は、納得する、という事だ。医者は患者の治療に全力を投じるだけで無く、もし残念な結果に終わった時には、遺族の心の傷を癒す事にも手を抜いてはならない。彼等が何度も説明を求めるなら、何度でも説明すれば良い。知りたい事が在るなら教えてやれば良い。疑いを晴らす方法はそれしかない。」(医療ミスを指摘され戸惑う医師に、上司の西園が掛けた言葉。)
・ 「患者を死なせてしまった時、或る意味で医師は遺族以上に傷付き、消耗する。其処から立ち直るのに必要な事は、自分が何をやったのか、冷静に見詰め直す事だ。それをしないままで次の患者に向き合おうとしても、不安に押し潰されるだけだ。例え残念な結果に終わったのだとしても、ベストを尽くしたと信じられる事が、その後の医療行為の支えとなる。」(研修医となった夕紀に、西園が掛けた言葉。)
・ 医師とは無力な存在なのだ。神では無いのだ。人間の命をコントロールする事等出来ない。出来るのは、自分の持っている能力を全てぶつける事だけだ。医療ミスとは、その能力の不足から生じる。能力の在る者が、わざとそれを発揮しない、という事は在り得ない。そんな事は出来ないのだ。道徳だけの問題では無い。全力を尽くすか、何もしないか、その二つの事しか医師には出来ない。
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何とも言えない余韻を漂わせてのエンディングや、読ませる内容は東野氏の本領発揮という所か。唯、彼の力量を考えると一寸物足りなさを覚える面も在り、総合評価は星3.5とする。
十数年前、健康診断で真性弓部大動脈瘤が見付かり、手術を受ける事となった父・健介。それ迄とは何等変わらぬ元気さで、手術室にも笑顔で入って行った父が、手術後は帰らぬ人となって戻って来た。
「あの日、手術室で一体何が在ったのか?」最愛の父を失った夕紀の中で、疑念が日を追う毎に膨らんで行った。「執刀医の西園医師に医療ミスが在ったのではなかろうか?いや、父が手術を受ける前に喫茶店で母・百合恵と西園が密会している姿を偶然目にし、そして今2人は恋仲に在る事を考えると、難しい手術というのを隠れ蓑にして西園が父を作為的に・・・。」
父の死後、夕紀親子の事を何かに付け、気に掛けてくれた西園。しかし彼に疑念の思いを募らせる夕紀は、やがて心臓外科医の道に進む事を決断する。或る思いを秘め、西園の下で研修医として働く事となった夕紀。
そんな或る日、彼等が勤務する病院に脅迫状が届く。それは手術室を前代未聞の危機が襲う前触れでも在った・・・。
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東野圭吾氏の「使命と魂のリミット」は、医療現場を扱った作品で在る。「医師と患者の微妙な関係」、「医療ミス」、「自らが無意識の内に、他者を結果的に傷付けてしまっている可能性」、「良心」等々、登場人物達に自らを投影させ乍ら読み耽ってしまった。
「人工心肺装置を使う場合、低圧力で頭部に血液を流さねばならない。当然酸素の供給量は減る。そこで酸素の消費量を極力抑える為、体温を下げてやるのだ。」、「人工血管への置換は完了した。後は体外循環している血液量を、段階的に減らして行く事になる。但し、脳の保護の為に下げていた血液の温度を、今度は体温近く迄上げてやらねばならない。冷えた血液をそのまま心臓に流しても心臓は動かない。」等、医療に関する知識が殆ど無い自分にとって勉強になる点も多く、又、心に沁みる記述も幾つか見られた。
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・ 「遺族にとって大切な事は、納得する、という事だ。医者は患者の治療に全力を投じるだけで無く、もし残念な結果に終わった時には、遺族の心の傷を癒す事にも手を抜いてはならない。彼等が何度も説明を求めるなら、何度でも説明すれば良い。知りたい事が在るなら教えてやれば良い。疑いを晴らす方法はそれしかない。」(医療ミスを指摘され戸惑う医師に、上司の西園が掛けた言葉。)
・ 「患者を死なせてしまった時、或る意味で医師は遺族以上に傷付き、消耗する。其処から立ち直るのに必要な事は、自分が何をやったのか、冷静に見詰め直す事だ。それをしないままで次の患者に向き合おうとしても、不安に押し潰されるだけだ。例え残念な結果に終わったのだとしても、ベストを尽くしたと信じられる事が、その後の医療行為の支えとなる。」(研修医となった夕紀に、西園が掛けた言葉。)
・ 医師とは無力な存在なのだ。神では無いのだ。人間の命をコントロールする事等出来ない。出来るのは、自分の持っている能力を全てぶつける事だけだ。医療ミスとは、その能力の不足から生じる。能力の在る者が、わざとそれを発揮しない、という事は在り得ない。そんな事は出来ないのだ。道徳だけの問題では無い。全力を尽くすか、何もしないか、その二つの事しか医師には出来ない。
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何とも言えない余韻を漂わせてのエンディングや、読ませる内容は東野氏の本領発揮という所か。唯、彼の力量を考えると一寸物足りなさを覚える面も在り、総合評価は星3.5とする。
此処で「ブラック・ジャック」の話が登場したのは嬉しいです。ブラック・ジャックこと間黒男の恩師・本間丈太郎医師が、ブラック・ジャックの必死の手術の甲斐も無く息を引き取ろうとした最中に発した余りにも有名な言葉「人間が生き物の生き死にを自由にしようなんて、おこがましいとは思わんかね。」は、自分がこれ迄に見聞して来た多くの名言の中でも、上位にランクされる心に響いた言葉です。
人間の生命を救うべく、日夜必死で取り組んで尾おられる医師の方達には心から敬意を覚えております。唯、クローン人間問題等の「神の領域」への挑戦は、果たしてそれが「挑戦」なのか、はたまた「冒瀆」で「人類を逆に不幸な方向へ陥れるパンドラの箱」になるのか、これは人それぞれに異なる考えが在りましょうね。